番外.ある愚かな男の末路①
こちらは公爵視点の過去編~本編後の話です。本編やエリザベス編と、一部(かなり?)重複するところがあります。「公爵の考えなんてどうでもいい」「最終的なざまぁだけが見たい」という方は、引き返して最終話までお待ち下さい。
―――あぁ、どうしてこうなったんだ。
私はただ、理想の家庭を作りたかっただけなのに
私は公爵家の長男として生まれた。
父は厳しくも立派な当主で常々「家長は家と家族を守り、妻は夫に、子は親に従うものだ」と、私と2人の弟に言い聞かせてきた。母もそんな父にいつも黙って従っていた。
私はそんな父を尊敬していたが、1つだけ不満もあった。
寡黙な父は食卓での会話を好まず、父が用件を話す時しか会話はなく、返事をすることしか許されなかった。
それも気に入らない返事だと、母だろうが弟だろうが容赦なく殴られた。そのたびにいつも私が間に入って仲裁していた。父も跡継ぎの私の言う事だけは、少し耳を貸してくれた。
そのうち母も弟も何も言わなくなった。
碌に会話もなく、広い部屋に食器の音だけが響く。
私はそれが酷く憂鬱だった。
父と違い、私は明るく会話の弾む食卓が好きだった。
以前友人に招かれた晩餐では家族みんなが笑っていて、会話も弾んでいた。
(私が当主になったら、理想の家族を作ろう)
父のように当主に服従しながらも、笑顔の絶えない明るい家庭を作るのが、私の夢だった。
やがて父が亡くなると、母と弟達は葬儀が済むと同時に、公爵家を出て行った。引き留めたが3人の意志は固かった。下の弟は「こんな嫌な思い出しかない家、いたくない」と言われた。仕方なく屋敷から離れた領地に、3人の家といくばくかの金を用意した。やがて分家となり、たまの行事にしか会わなくなった。出ていく時上の弟が「兄さんが父さんと同じにならないよう、祈ってるよ」と言ったのが、理解できなかった。
やがて私は夜会で出会った伯爵家の娘と結婚し、2人の娘をもうけた。
妻は従順だったが、結婚後に浪費癖があることが分かった。離婚も考えたが、体裁と娘から母親を取り上げてしまう事を考えて、踏みとどまった。
父が私達兄弟にそうしたように、私も娘達に「子は親に従うもの。年上は年下を守り、年下は年上に従うもの」と言い聞かせた。2人の娘は順調に育っていったが、上の娘のエリザベスが5歳の誕生日に、ちょっとしたトラブルが起きた。
妹のアイビーが、エリザベスの贈り物を奪おうとして、壊してしまったのだ。
招待客に挨拶をしてると、エリザベスの泣き声が聞こえたので、行ってみると床に落ちて壊れたオルゴールと、その傍で泣いているエリザベスと、私の顔を見てマズい事になったとオロオロするアイビーがいた。
事情を聞くと、アイビーがエリザベスのオルゴールを奪おうとして、壊したという。
(たかがオルゴールくらいで)
正直そんな事くらいで大泣きする、エリザベスに苛立った。
アイビーに非があるのは明白だが、次期当主が人前で泣くなど恥さらしだ。
2人を叱った後何とか場を取り繕い、パーティは無事に終わった。
その後件のオルゴールは直らず、エリザベスには「妹に譲らないお前が悪い」と言って諦めさせた。
「いいんですか?あんな事を言って」
「何?」
その日の夜、執事を務めている私の乳兄弟が、そんな事を言って来た。
「何の事だ?」
「昼間の件ですよ。明らかに悪いのはアイビー様なのに、エリザベス様ばかり責めて…エリザベス様に悪いと思わないんですか?」
執事の台詞にため息をつく。
「何だそんな事か。いいかセオドア、エリザベスは姉で次期当主だ。それなのに妹に譲らない、人前で泣く。そんな調子で公爵当主が務まると思うか?エリザベスのためにも、我慢する事を覚えさせねば」
私の言い分に、今度はセオドアがため息をつく。
「エリザベス様は、まだ5歳ですよ?それにエリザベス様を叱って、アイビー様は叱らないなんて理不尽を、子供に教えていいんですか?私だったら親を恨みますよ?」
「それで言ったら、アイビーはまだ4才だろう。それにアイビーもちゃんと叱った」
「一言注意しただけでしたよね…エリザベス様には散々、罵倒されていたのに」
セオドアが非難の眼差しでこちらを見る。
その視線にカッとなって、つい言ってしまった。
「うるさい!エリザベスは私の娘なんだから、どう扱おうと親の勝手だ!人の躾に口を出すな、命令だ!」
「……わかりました」
私が怒鳴りつけるとセオドアは返事をしたものの、冷たい目で私を見てきた。
(マズイ、本気で怒ってる)
セオドアは使用人とはいえ、兄弟同然に過ごした仲でイマイチ頭が上がらない上、私や公爵家の事を良く知っている。怒らせて出て行かれたりしては困る。
気まずい空気を払拭したくて、とっさの言い訳をする。
「大丈夫だ、私とエリザベスは血のつながった親子なんだからな。エリザベスは人を思いやれる子だから、当主教育の為厳しくしている私の気持ちも、ちゃんと理解してる筈だ」
「…そうだといいですね」
「あぁ、きっと大丈夫だ!」
私の言い分が通じたのか、セオドアは深くため息をつくと、その後は何事もなかったかのように振る舞った。
私はセオドアの怒りが解けたと思い、ホッとした気分で彼に背を向けた。
だから彼が非難の眼差しで私を見ていた事も、彼が呟いた言葉も気づかなかった。
『血なんてただの赤い液体で、人の思いやりと情が意味を持たせるんですよ―――』




