番外.欲張り令嬢の記録㉖
エリザベス編これで終わりです
―――長い悪夢を見ていた。それももう終わり。
目が覚めると、見慣れない天井が飛びこんできた。
目を瞬いて、一瞬後に思い出す。
(あぁそうだ)
ここは王城の、私にあてがわれた部屋だ。
今日は私とルイスの結婚式だ。
まだ早いが、二度寝する気にもなれないので、そのままベッドから出る。
「おはようございます、お嬢様」
マリーを始め、私付きのメイド達が一斉頭を下げる。
「おはよう皆、今日はよろしくね」
「「「「はい!」」」」
返事を合図に皆慌ただしく動き出す。
簡単に朝食をとり支度を終えたところで、メイド達と入れ替わりにルイスとリカルドが入って来た。
本来入れるのは花婿と花嫁とその身内だけだが、リカルドはルイスの側近で護衛でもあるので入れたのだろう。
「こんにちは、花嫁殿。今日は特に綺麗だね」
「おめでとうございます、エリザベス…様」
リカルドが言いにくそうに、敬語をつける。
リカルドとはずっと友人として接してきたから、主君の妻になるのに戸惑っているのだろう。家族にはなれなかったが、これからも友人として接していきたい。
そこまで考えて、アイビーの事を思い出した。
「どうしたの?」
「何か不快な事でもありましたか?」
無意識に嫌な顔をしてしまったのだろう、2人が心配そうな顔をする。
「いえ、ただアイビーの事を思い出して…あの2人にも私の晴れ姿を見てほしかったな、と思いまして…」
「エリザベス…」
「本当に貴方はお優しい人ですね」
リカルドは感激したような顔をすると、ルイスに言われて飲み物を取りに行った。
2人きりになって、ルイスが言った。
「そうだね、確かにあの二人に見せたかったよ…王太子となった僕と君の晴れ姿を。さぞかし悔しがっただろうね」
「そうですね…そう思うともう考えるのも嫌だからと、追放の時点で手を引いたことが悔やまれますわ」
あの二人が追放になった時、そのまま手を緩めずにいればもっと苦しめることも出来たのだろうが、私もルイスももう関わるのも嫌だからと、そこで終わりにしてしまった。
しかしこうして思い返すと現金なもので、やはりもっと苦しめてやれば良かったと、若干後悔している。
「そうだね…後悔先に立たずとは、よく言ったものだ。でもまだ残骸が残ってるだろう?」
「そうですね。どうせ地獄にいるんでしょうし、あの2人には死後の安らかな眠りなど不要でしょう…ところでそちらの残骸は、どうなさるのですか?」
気になったので聞いてみる。
するとルイスはおどけたように、肩をすくめて言った。
「さすがにすぐにとはいかないけど、ほとぼりが冷めたら片付けるよ」
「まぁ…両陛下が気落ちしそうですわね」
「心配いらないさ。2人は最愛の息子を2重に失ったショックで、儚くなる予定だからね」
「まぁ、それはお気の毒ですわね…ふふふ」
「そうだね。その時はあの世で親子3人水入らずで過ごせるよう、せいぜい祈るさ」
2人で微笑みあってると、リカルドが両親を連れて戻って来た。
家族3人で話したいだろうからと、ルイスとリカルドが気を利かせて出て行った。
「おめでとう、エリザベス」
「ついに嫁に行くのだな…ここまで長かったが…」
母が目を潤ませて、祝いの言葉を言う。父はもう泣きそうだ。
「お父様お母様、今日までお世話になりました」
定番の言葉を述べて頭を下げながら、見えないように舌を出す。
(世話になったのは母だけで、アンタなんか何もしてないけどね)
むしろこっちが、耐えて世話してやったという気持ちでいっぱいだ。
しかしそんな気持ちは表に出さないまま、顔を上げると父はさらに泣きそう…というか若干泣いており、母に宥められていた。
やがて父が落ち着いた頃、式の時間だと使用人が知らせて来た。
「では参りましょう、お父様」
言いながら、父の腕に手を絡める。
「あぁ行こうか」
「それじゃあ私は、会場に戻ってるわね」
母は会場に戻り、私は父と一緒にバージンロードを歩きながら、これまでの事を思い出して感慨に浸る。
(長かった…そしてこれからだ)
まだまだ先は長くやる事もいっぱいだが、まず何よりも…
扉が開かれる直前、私は父ににっこりと微笑みかけた。
「どうしたんだ、エリザベス?」
父が不思議そうに尋ねてくる。
「いいえ。これからが楽しみだと、思っただけです」
あぁ本当に楽しみだ。
その時はせいぜい苦しんで下さいね、お父様。
ここまでお読み下さりありがとうございました。次回からは公爵視点です<(_ _)>




