表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/57

番外.欲張り令嬢の記録㉕

私とヘンリーの婚約が正式に破棄され、アイビーが絶縁されると屋敷中が大喜びした。

母は隠すこともなく「やっと出て行ったわね」と笑顔で言い、これまでの引き篭もりが嘘のように、社交界に顔を出し、よく笑うようになった。

使用人達も私達の前では取り繕ってたが、陰で泣いて喜び、祝杯を上げて大はしゃぎしていた。

見て見ぬふりをしていたが、さすがに廊下をスキップするのは危ないので、一応くぎを刺しておいた。

父は落ちこんだが、一晩たったら立ち直っていた。今では「あいつ1人のせいで屋敷内がメチャクチャだったから、いなくなって良かった」とこぼしている。

私もあれほど悩まされた胃痛が、嘘のように収まった。

しかし私の心は収まらなかった。


解放された後も、たびたび過去を夢に見ては飛び起きた…そしてそのたびに憎しみを募らせていった。

心が狭いのかもしれない、忘れた方がいいのだろうとも思うが、どうしても許すことが出来なかった。

2人から解放されはしたが、これで終わらすつもりはない。あの2人にはこれまで私が受けた仕打ちを、何倍にもして返してやらなければ、この悪夢は終わらない。

(幸せになどさせてやるものか)

とはいえ私も疲れたし、あの2人なら特に何かしなくても墓穴を掘るのはわかってたので、少しの間様子を見ていた。案の定2人は、特にアイビーが墓穴を掘りまくっていた。

この間にルイスが1度やって来て経過報告と私の意思確認をしてきたが、変わらない事を告げると婚約の確約を告げて行った。数か月もすると、2人を支持するのは側妃の実家のバートン侯爵家と、その派閥の貴族家だけになっていた。

(そろそろかな)

ヘンリーは支持をほとんど失い、王太子の座がずいぶん遠ざかったが、まだ決め手に欠ける。

そろそろルイスと、最後の一手について話し合った方がいいだろう。

久しぶりに王宮の書庫に、通い詰めることになった。


「やぁ久しぶり」

通い詰めて3日目、ようやくルイスと会えた。

「お久しぶりです、ルイス様」

一礼すると、ルイスが一冊の本を差し出してきた。

「君に会えたら渡そうと思ってたんだ。この前言ってた本の翻訳版だよ、()()()()()()()()()()()()()

「わかりました。ありがとうございます」

(具体的な作戦の指示か)

笑顔で本を受け取る。

そのままルイスと別れ帰宅した後、本を開くと一通の手紙が挟んであった。


『×月×日の夜、〇〇の場所にて。顔を隠せる服装で来るように』


3日後約束の場所に行くと、ルイスはすでに来ていた。

「お待たせして申し訳ありません」

「いやいいよ、僕もさっき来たところだし。それより時間もないし、早く済ませよう」

「はい。ところで…何をなさるのですか?」

指示通りフード付きの目立たない服を、選んできた。するとルイスはイタズラっぽい顔で、懐から何かを取り出した。

「ふふふ…今回の作戦はこれだよ」

「!」

思わず叫びそうになって、とっさに口をふさいだ。

暗闇でもはっきりわかる豪華な輝き…国宝にもなっている王妃の首飾りだ。

「な、な、な、」

半分腰が抜けた。立っていられるのが、自分でも不思議なくらいだ。

「ふふ、驚いた?『形見の品で母上を偲びたい』と言って、持ち出してきたんだ」

「な、何で…」

「これであの二人にとどめを刺そうと思ってね」

そう言ってルイスは作戦の内容を聞かせてくれた。

あの二人が金に困って城にあるものや、ルイスが貴族から預かった物を、部屋から盗み出していると…だからそれを利用して、あの二人に首飾りを盗んだ罪をきせようというのだ。

「すでにあの二人がたびたび利用している店は、突き止めてある。後は2人に成りすまして、首飾りを売り払うだけだよ」

「それはさすがに、無理がありませんか?」

いくら夜でフードで顔が隠せても、髪や声、雰囲気などでバレるだろう。

「大丈夫さ。調べたところあの二人は来るたびに、何かしら難癖付けて怒鳴りつけてくるから、店の者も嫌がって碌に顔を見ずに、ハイハイ言って対応してるらしい…後はこれで」

そう言ってルイスは足元に置いた荷物から、金髪のカツラを取り出した。

「………」

「君の妹と同じ色と髪型のカツラを見つけるのに、苦労したよ。ハイつけて」

そう言ってカツラを差し出す。

私は大きくため息をつくと、カツラを受け取った。


「この首飾りを売りたいんだが、いくらになる?」

そう言ってルイスが、ショーケースの上に無造作に首飾りを置く。

「こりゃスゴイ!こんな上等な品初めて見ましたよ!」

店主が目の色を変えて驚く。

(そりゃそうでしょうね、国宝だもの)

呆れつつ、2人のやり取りを見守る。

「そうですね…こちらだと、このくらいで」

「フン、まぁいい。それぐらいで売ってやろう」

交渉は順調でバレる様子が全くなく、ヘンリーになりきってるルイスの言動に、ひたすら感心するばかりだった。

(凄いわ…言動がまるっきりヘンリーだ)

ボーッと見てると、店主の目がこちらに向いた。

「…今日はお連れ様は、ずいぶん大人しいんですね。具合でも悪いのですか?」

「「!」」

(マズイ!疑われてる)

言葉は心配そうに聞こえるが、探るような視線でこちらを見てくる。

小さく息を吸うと、思い切り怒鳴った。

「うるっさいわね!疲れてるから早く帰りたいのよ!売ってあげるって言ってるんだから、サッサとお金持ってきなさいよ!!!!」

「は、はい!ただいま!!」

私の剣幕に驚いた店主は、慌てて店の奥へと引っこむと、すぐお金を持ってきた。

「お待たせしました。こちらになります、ご確認を…」

「フン」

店主の言葉を遮り、ルイスが金を掴むと、無造作に荷物に放りこむ。

店主は嫌そうな顔をしたが、何も言わずに頭を下げた。

そのまま私達は店を後にした。


「ふぅっ」

離れた場所で身を隠すと、気が抜けて思いっきりため息をついた。

「お疲れ様。中々名演技だったよ」

顔を上げると、悪戯っぽく笑ってるルイスと目が合った。

「心臓が止まるかと思いました」

ちょっと恨めしい気持ちを込めて、ルイスを睨む。

「まぁまぁ。スリルが楽しめただろう」

「2度とゴメンです」

そう言ってカツラを返す。

ルイスは遠慮なく笑った後「あとはこの金を、兄上の部屋に置いておくだけだ。バカって相手するのは疲れるけど、駆除は楽でいいね」と言って、帰って行った。



それから半月もしないうちに、ヘンリーとアイビーは首飾りを始め、たくさんの物を盗んだ罪で王家から追放されて、辺境のラッセル領に追放された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ