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番外.欲張り令嬢の記録㉔

長めです。一部大人向け表現かも?

最初の訪問以来、ヘンリーは何かとアイビーを城に呼びつけ、アイビーも嬉々として出かけて行った。

そればかりかヘンリーはたびたびアイビーに贈り物をし、社交界でのエスコートもしていた。

2人とも悪知恵は働くようで、贈り物は我が家宛で、箱の中に「愛するアイビーへ」とカードを添えていたので、経理や国王達にバレる事もなく、度重なるエスコートも「未来の家族として、交流を深めているだけだ」と言われれば、王族相手に深く追及も出来ない。

そのうちアイビーは朝帰りするようになり、我が家には平穏が訪れるようになった。


「今日もアイビーは、殿下のところか」

晩餐で父が渋面で口を開く。

「はい」

私の返事に、父がますます顔を顰める。

「はい、ではない。本来婚約者はお前なのだぞ!それなのに…」

「言っても聞かない相手なのだから、どうしようもないでしょう」

そう言ってワイングラスを手に取る。

「それを何とかするのが、お前の役目だろう!お前の婚約者と妹なのだぞ!」

私の態度が気に入らないのか、父が声を荒げる。

「…お父様が出来ない事を私にやれと仰らないで下さい。父親で当主の言う事も聞かないのに、私の言う事を聞くとお思いですか?」

「う…」

父が黙りこむ。

アイビーが城に通い始めた頃、父が2人に注意した事があったが、「未来の家族として交流を深めているだけだ、王子の俺に意見する気か!」と逆に激高された。

「そもそも私はまだ療養中です。ヘンリー様にお会いすることはできません」

見舞いに来たヘンリーが私にさらなる暴力をふるった事は、マリーから執事を通して父に伝わり、医者を呼ばれたが、王家に抗議する事はなかった。

むしろ「意識がはっきりしていて動けるのだから、大したことないだろう」と翌日から王太子妃教育を再開するよう命じてきた。

あまりの態度に憤慨した医者が、一か月の絶対安静を命じてくれたおかげで、ゆっくりできている。

強いてあげれば事あるごとにアイビーが、ヘンリーとの仲を自慢してくるくらいだが、今までに比べればはるかにマシだ。

「しかし今の状態を放置するわけにもいかないだろう。お前が何とかしろ、いいな」

そう言って父は、さっさと席を立った。

(言い逃げか)

返事も聞かずに人に押し付けて、後で責めたてる…いい気なものだ。

「エリザベス、気にしなくていいわよ。返事も聞かずに押し付けた方が、悪いのだから」

向かいから母が心配そうに声をかけてくる。

「そうですよ。そもそも貴方はまだ怪我が治ってなくて、安静の身なんですから。公爵が何か言って来たら、味方になりますから、今はゆっくり養生して下さい」

横からリカルドも声をかけてくる。

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」



「こんにちは、エリザベス様。ご機嫌いかがですか?」

「お加減はいかがですか?」

その日の午後、友人のシャルロット嬢とシンディ嬢が見舞いに来た。

「こんにちは、お2人とも。来て下さりありがとうございます。だいぶ良くなりましたわ」

2人に席を勧めると、控えていたマリーとメアリーがすかさずお茶の用意をする。

ささやかなお茶会が始まった。

「思ったよりお元気そうで、良かったです」

「これなら入学にも間に合いそうですわね」

「えぇ。エリザベス様と通えるのを楽しみにしてましたから。良かったですわ」

「ありがとうございます。私も学院でお2人にお会いできるのが、今から楽しみですわ」

にっこり微笑んで、会話を続ける。

そのうち話題は、私が休んでる間の外の様子に移っていった。

「そういえば、エリザベス様ご存知ですか?あのろくでなしカップル、エリザベス様の悪口を言いふらしてますのよ」

「えぇあの屑ども!エリザベス様がいらっしゃらないのをいいことに!」

「まぁ、どんなことを言ってるのかしら?」

いかにもやりそうだが、驚いた顔をする。

「あの屑ども『自分達は真実の愛で結ばれてる』だの『性悪なエリザベス様に仲を裂かれた』だの『家では毎日エリザベス様が妹を虐げている』いるだのと!」

「そのうえ、その…口には出来ないような仲の良さを…」

「えぇ…よくもまぁ恥ずかしげもなく、あんな内容を…」

2人が真っ赤になって、視線を泳がせる。

大体察しがついた。

アイビーも朝帰りするたびに人の部屋に押しかけて、ヘンリーとの情事の様子を自慢してくるのだ。

(あの2人には常識と良心だけでなく、羞恥心まで欠けているようね)

「それは…申し訳ありません、妹と婚約者がご迷惑をおかけして…」

そう言って深々と頭を下げると、2人が慌てて止めてくる。

「そんな!エリザベス様のせいではありませんわ!顏をお上げになって」

「そうです、むしろ被害者ではありませんか!悪いのはあの屑どもですわ!」

「ありがとうございます。ですが姉として止められなかったのは事実ですし、ヘンリー様も私が婚約者として至らぬから、アイビーに気持ちを移されたのでしょう…」

そう言って、両手で顔を隠す。

(あぁ可笑しい)

茶番に笑いそうになるが、せっかくしおらしくしてるのに、笑い声など上げたら台無しだ。必死でこらえる。

「エリザベス様…何てお優しい」

「気にすることありませんわ!エリザベス様が出てくれば、もう噂も流せないでしょうし」

「でも私が戻っても『妹を虐める性悪令嬢』と、後ろ指をさされるのでしょう…」

笑いをこらえるせいで、小刻みに震える。それが泣いてるのを堪えてるように、見えたようだ。

フォローしようとした2人から、予想外の言葉が出てきた。

「あの二人はそれどころではありませんわ!お気になさらず」

「えぇ!自業自得ですわ」

「えっ?」

思わず顔を上げる。

泣く気はなかったが、笑いをこらえすぎて少し涙が出てきてたようだ。

ハンカチで拭ってから、改めて聞く。

「今社交界で、あの二人はどうなってますの?」

すると2人が顔を見合わせた後、説明してくれた。

2人は私がいない間に、令息令嬢にいかに自分達が愛し合ってるかを吹きこみ、『愛し合う自分達と、それを引き裂こうとする性悪な私』という構図を作り、味方を作って私を追い詰めようとしたが、令息令嬢のほとんどはアイビーの素行を知っているので、誰も信じようとしなかった。

そのうえどこからか『ヘンリーは嗜虐趣味があり、日常的に周囲の人間に危害を加えている』『エリザベス嬢が現在臥せっているのは、ヘンリーが瀕死の重傷を負わせたからだ』『ヘンリーに側仕えがいないのは、側仕えの人間を皆殺して、権力でもみ消したからだ。近づけば殺される』という噂が流れており、孤立しているという。

「まぁ…」

それ以上言葉にならず、笑いそうになる口元を手で隠す。

(ルイスの仕業だ)

あの二人を貶めるのが第一の目的だろうが、私が受けた仕打ちの意趣返しも入っているのが分かり、嬉しくなった。

「それはまた…事実が混じっているのが、また信憑性がありますわね」

苦笑いしながら何とか返すと、2人も頷いた。

「ヘンリー様の側付きも、数年前にいきなり解任されましたしね…結局理由も公表されませんでしたし…」

「おまけにヘンリー様付きのメイドは皆、いつも暗い顔をして、夏でも長袖を着てますものね。2人とも否定してますけど、誰も相手にしてませんわ」

盛り上がる2人を見ながら、ふとリカルドの事を思い出した。

(そういえば彼は、どう思っているのだろう)

療養中の私と違って社交界に出ているから、当然噂は耳に入っているはずだ。

婚約者が堂々と不貞を働いてる事を、どう思っているのか…それにこのままいけばヘンリーとアイビーが婚約することになるだろう。そうなればアイビーと結婚する条件で養子に入ったのに、どうなるのか…

「エリザベス様?どうなさいましたの?」

「お疲れになったのかしら…大丈夫ですか?」

気づくと2人が会話を止めて、こちらを心配そうに伺っていた。

「あぁすみません。少し疲れてしまったようです。申し訳ありませんが、今日のところは…」

私が立ち上がると、2人も慌てて席を立つ。

「えぇそうですわね。つい話しこんでしまって…」

「つい楽しくて、時を忘れてしまいました。また全快なさってからお話ししましょう」

そう言って2人は帰って行った。

2人を見送った後、私はリカルドの部屋へと向かった。


「リカルド様失礼します、少しお話があるのですが…良いでしょうか?」

「エリザベス嬢?構いませんよ、どうぞ」

部屋を訪れると、リカルドは少し驚いた顔をしたが、気を悪くすることなく迎え入れてくれた。

部屋に入ると、すぐに席を勧められ座る。

メイドが茶を用意しようとしたが、先ほどまでお茶会をしていたので断った。

「それで?お話とは何でしょうか?」

「はい。単刀直入に申しますが…リカルド様は、将来どうなさるおつもりなのでしょうか?」

「と、いいますと?」

リカルドが用意されたカップに、口をつけながら言う。

「先ほどシャルロット様とシンディ様がいらっしゃって、アイビーがヘンリー様と未来の義兄妹以上に、親しくしていると…」

「…あぁ」

リカルドはそう言うと、カップを置いて困った顔をする。

「…正直困ってます。この縁談が決まった時、僕も家の為犠牲になる覚悟でした」

「はい」

「それでも生涯の伴侶として、歩み寄る努力はしてきたつもりでしたが…ですが彼女は歩み寄るどころか、いつも私を罵倒してばかりでした」

「…はい」

「それだけでなく、こうも堂々と不貞を働かれるとは…」

そこまで言って、リカルドはため息をついた。

「申し訳ありません!」

頭を下げる。

正直アイビーなんかの為に頭を下げたくないが、彼に非はなく、身内として申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「あぁ頭を上げて下さい、貴方を責めているわけではないのです…原因が誰にあるかは、理解しているつもりですから」

そう言って、顔を上げさせられる。

「でも…姉ですから…」

「一番苦しんだのは、貴方でしょうに…優しい方ですね」

リカルドが穏やかな顔で微笑みながら、こちらを見てくる。

優しい笑顔に、こちらもホッとした気分になる。


しばし見つめ合った後、リカルドから口を開いた。

「少し脱線してしまいましたね…すみません。現状としては養子縁組は完全に成立していないので、白紙の線が濃厚です」

「白紙、ですか」

驚いて目を瞬く。

まさか成立していないとは、思わなかった。

「えぇ。公爵は早々に成立させるつもりだったようですが、執事が待ったをかけたようです。将来何があるかわからないので、僕とアイビーの結婚式を見届けてからでも遅くないと」

「なるほど」

こうなる事を…いや、アイビーが何かやらかす事を見越していたのだろう。

さすが長年あの父を支えて、我が家を預かって来ただけの事はある。

「おそらくあの二人が婚約するタイミングで、僕と貴方の婚約も破棄されるでしょう。慰謝料は支払ってもらう事になりますが、原因があの二人にある事は明白ですので、さしたる瑕疵もなくロージア家に戻ることになるでしょう」

「そうですか…」

残念に思う。

短い間だが、彼と家族として過ごして楽しかった。もう家族として接することないと思うと、ちょっと寂しかった。

「そんな顔なさらないで下さい。ここでの生活は短かったけど、貴方や義母上と過ごすのは楽しかったし、良い思い出になりました。家族になれなかったのは残念ですが、これからは友人として、よろしくお願いします」

そう言って彼は立ち上がって手を差し出した。

内心はどうかわからないが、そう言われるとこれ以上何も言えない。

彼の言葉に、私も気持ちを切り替える。

「はい。これからもよろしくお願いします」

私も微笑みながら、手を差し出し友情の握手を交わした。



この数日後ヘンリーとアイビーが婚約を宣言し、それとほぼ同時に私とヘンリー、リカルドとアイビーの婚約が破棄された。










あと2~3話で終わる(予定)

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