番外.欲張り令嬢の記録㉑
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王宮から屋敷に戻ると、執事が父が呼んでると伝えてきた。
「失礼します」
執務室に入ると父が上機嫌で机に座っており、その横で母が心配そうにこちらを見てきた。
(嫌な予感がする)
楽天的で家の事しか頭にない父と、心配性の母とどちらの態度を参考にするかなど、考えるまでもない。
部屋に入るなり父が笑顔で言った。
「喜べエリザベス。お前とヘンリー王子との婚約が決まった」
「は?」
予想外の内容に、とっさに聞き返すしかできなかった。
すると母が口をはさんできた。
「あなた…まだ決まった訳ではありません。あくまで王家からは打診で、我が家なら断ることも…」
すると父は心外そうに母を見た。
「何を言う。王家と縁続きになれるのだぞ?こんな良い話を断る必要が、どこにある」
「ですがヘンリー王子が侯爵令嬢に手を上げたのは、有名な事実です。エリザベスまでそのような目に合ったら…」
「昔の話だろう。あれ以来ヘンリー殿下が暴力をふるったという話は聞かない。あの頃は殿下も子供だったんだ。いつまでもとやかく言っては、殿下に失礼だろう」
(相変わらず自分に都合よく考える人だ)
確かにヘンリー王子が暴力をふるったという噂は聞かないが、それはあまり公の場に出てこないからだ。王子の年齢を考えても、将来の側近の2~3人や婚約者が出来てもおかしくないが、そう言った話は全く聞かない…どう考えても相手が辞退しているか、国王が「王子の側に人を置けない」と判断してるかだろう。
「とにかくせっかくの王家からの縁談だ、喜んで受けるべきだろう」
「そうやって受けて、後でエリザベスが暴力を受けたらどうするのです!傷が残ったりしたら取り返しがつかないのですよ!?」
「その時はその時考えればいいだろう。痕が残るくらいの怪我なら、充分婚約破棄の理由になる」
考えてる間に両親の話が進んでいくのを、冷めた目で見ていた。
(どうせ怪我をしても破棄なんかしない癖に)
賭けてもいいが、その時になったら父は「それくらい我慢しなさい」というだろう。
「エリザベスもそのつもりでいいな」
話が終わったのか、父がこちらに向けてくる。
「…少し考えさせて下さい、返事はまだ保留にして下さい」
そう言って背を向けて、部屋を後にする。
背後で父が喚く声と母が宥める声がしたが、そのまま無視した。
(ルイスに会いたい)
きっと彼の耳にも入っているだろう。私がヘンリーの婚約者にさせられるのをどう思っているのか、知りたかった。
馬車を出してもらい再び王宮に向かう。
書庫に行くと、予想通りルイスがいた。
「ルイス様、私…」
しかしルイスは冷めた目をしてこちらを見ると、私の言葉を遮って言った。
「兄上とのご婚約おめでとうございます、グローリア公爵令嬢。これからも兄上をよろしくお願いします」
そう言って頭を下げてくる。
冷水をかけられた気がした。
(突き放された)
内心少しは期待していた。
立場上反対はできなくても、少しは憤ってくれてるか、嫌がってくれるかと…でも目の前のルイスはそんなそぶりは全く見せず、いつも通り微笑んでいた。
ショックで何も言葉が浮かばず、ただひたすらルイスの顔を見返すしかできなかった。
するとルイスがちょっとだけ困った顔をして笑って言った。
「公爵令嬢、僕が言った事を覚えてますか?」
「え?」
ボーッとしたまま、反射的に聞き返す。
「あなたならきっと良い王妃になります、色々あるでしょうが…これも試練と思って乗り越えて下さい」
その言葉にハッとする。
ルイスが言っていた「厄介事」とはこの事なのだろう
(なら私は…)
「承知しました。未来の王の為、微力ながら尽くさせていただきます」
公爵令嬢らしく、カーテシーをとる。
意図が通じたルイスが、笑って「よろしく」と言った
(まだ手の震えが止まらない)
帰りの馬車の中で不安と緊張を抱えながら、強張った指を押さえていた。
これはルイスからの試練だ。
ヘンリー王子と婚約し、内側から崩せと。
上手くやればヘンリー王子は失脚し、難なく婚約破棄できるだろう。
「大丈夫…私は見捨てられたわけじゃない。私は見捨てられたわけでは…」
屋敷につくまでの間、ひたすら自分に言い聞かせた…そうしないと足元が崩れそうな不安で、立つ事もままならなかった。
屋敷に戻ってすぐ父に婚約の承諾を伝えると、父は喜んで王宮に伝令を飛ばした。
こうして私は正式にヘンリーの婚約者になった。




