番外.欲張り令嬢の記録⑳
ルイスと恋人になってから、分かった事が2つある。
1つは、この人が王になりたがっている事。私が王妃にふさわしいか様子見している事。
そしてもう1つは―――
「おいでエリザベス」
ルイスに手招きされるまま傍に行くと、手を引かれてそのまま抱きしめられる。
「今日も可愛いね」
そう言って私の頭や頬に唇を落としてくる。
(この人の「好き」は恋愛感情じゃない)
ハッキリ言われたわけではないが、何となくわかる。
私を抱きしめるのもキスするのも、お気に入りのぬいぐるみにするような感覚だ。
「ルイス様、私の事が好きですか?」
顔を上げないままルイスの腕の中から聞いてみる。
「もちろん好きだよ」
キスに飽きたのか、髪を撫でながら間髪入れず答える。
「それは恋愛感情で、ですか?」
一瞬ルイスの手が止まるが、すぐにまた髪を撫でてきた。
「もちろん違うよ。君も君の家も魅力的だしね」
「正直ですね」
予想していたが、あっさり認められて拍子抜けだった。
「君はいつも正直に接してくれるから、こちらも正直に返したいと思うんだ。そもそも君は、優しい嘘をつかれても喜ばないしね……傷ついた?」
(見透かされてる)
でも腹は立たなかった。
「いいえ、安心しました」
打算が入ってるのなら後ろ盾がある限り、たとえ気持ちが褪せたとしても私を切り捨てたりしないだろう…もちろん打算だけでも嫌だが。
「君は本当に賢くて可愛いね」
そう答えるとルイスは、笑って口づけをしてきた。
「こんにちは、エリザベス嬢。今日も来ていたのね」
書庫からの帰り、アナスタシア妃に会った。
「はい、お目にかかれて光栄です。つまらない物ですがよろしければ…」
すぐに礼を取り、用意していたものを差し出す。
私とルイスの関係は公にはしていないが、書庫には司書がおり入室のチェックがされているし、私とルイス以外の入室者がいないわけでもない。私とルイスが何度も同じタイミングでいれば、そのうち気づかれて噂になる…それを防ぐため、あえてアナスタシア妃と遭遇した時は、周りの目に留まりやすい形で媚びを売ったり、会話をしている。
「あらありがとう、素敵な絵画ね。気も利いてるし勉学に熱心だし、貴方の婚約者は幸せ者ね」
「いえ、まだ未熟の身ですのでおりません」
候補はいたが、アイビーが原因ですべて断られた。アイビーが他家に嫁がない限り、こちらも無理だろう…まぁルイスの事があるので、好都合だが。
「あらそうなの?でもそうね。次期当主ともなれば、お相手も慎重に選ばなければいけないわね…確か妹さんがおられたのよね?」
「はい」
「では貴方が他家に嫁ぐ場合は、妹さんが公爵家を継ぐのかしら?」
「いえ妹は…病弱なので、その場合は親戚筋から養子をとることになると思います」
あれが次期当主など色んな意味で冗談じゃないと思うが、内心を隠して返事する。
「そういえば…妹さんここしばらく社交に出ていらっしゃらないそうね、そんなにお加減が悪いのかしら?」
「はい」
病弱云々は妹を社交に出さない為の父の方便だ。今さらだと思うが、これ以上アイビーの被害を出して評判を落としたくないと思ってるようで、本人は憎たらしいくらい健康なのだが。
いやある意味、重症の病気か……頭が。
「それは大変ね。でも跡取りが貴方以外にもいるなら、貴方が嫁いでも公爵家も安泰ね」
「?はい」
意味が分からないが、とりあえず合わせておく。
様子をうかがうが、微笑んだまま扇で口元を隠しており、全く分からない。
「あら引き留めてごめんなさいね。それでは失礼するわね」
そう言ってアナスタシア妃は去って行った。
数日後、いつものように書庫でルイスと会ったが…様子がおかしい。
いつものように私を抱きしめてるが…うわの空で会話もほとんどない。無言で私の髪をいじるだけだ。
「ルイス様?何かあったのですか?」
顔を上げて問いかけると、ようやく返事が返って来た。
「うん…あのねエリザベス、僕は本当に君が好きだよ。君は良い王妃になると思う」
「はい。ありがとうございます」
(何があったんだろう)
考えられるとしたら、縁談絡みだ。
どこかの家に縁談でも持ちかけられたのだろうか?
私とルイスの関係はずっと秘密だったので、独り身の王子で婚約しやすいと思われたのだろうか?
止めるのは可能だが、そうなれば私とルイスの関係が公になる。
婚約はできるだろうが、アナスタシア妃が黙っていない…良くてルイスを王家から出して公爵家に婿入りさせるか、最悪ルイスか私を暗殺しようとするだろう。
前者ならルイスがお荷物になる私を切り捨てるだろうし、後者なら命が危ない。
死ぬのも、ルイスに捨てられるのも御免だ、どうするべきか…
考えてると、顔に手を添えられ上を向かされた。
ルイスと目が合う。
「もうすぐちょっと厄介なことが起きるけど…君ならきっと乗り越えられると、信じてるよ。それだけ覚えておいてくれ」
いつもの微笑みではなく、真剣な表情だった。
「はい」
そう言うとルイスはいつもの笑顔に戻って私の頭を撫でた後、書庫を出て行った。
帰宅した私を待っていたのは、第1王子ヘンリーとの婚約話だった。




