番外.欲張り令嬢の記録⑲
2時間以上かけて書いた内容がミスで消えた…
最近の私は少しおかしい。
「はぁ…」
気がつくと、ルイスの事を考えてる。今もそうだ。最初こそ部屋で書庫から借りた本を読んでいたが、いつの間にか手が止まっていた。
「お嬢様お疲れですか?お茶でも入れましょうか?」
マリーが声をかけてくる。
「いえ、いいわ」
断って再び読み進めようとするが、やはり気乗りせず数ページで手が止まってしまう。
諦めて本を閉じる。
「ふぅ…」
(アイビーが大人しくなって、気が緩んでるのかしら?)
しかしそれだと、ルイスの事ばかり考える説明がつかない。
「お嬢様、何か悩み事ですか?」
マリーが心配そうにしてくる。
「う~ん悩みというか…何をやってもやる気が起きなくて…」
アイビーがマシになったとはいえ、まだ気は抜けない。もっと気を引き締めなければならないのに…
そんな私の様子を見て、マリーが何かを思いついたように目を輝かせて言った。
「お嬢様もしかして、恋をなさっておいでなのでは?」
「え?」
思わず目を瞠る。
「好きな方の事で頭がいっぱいなのでは?」
「え?いや、ちょっと待って」
(確かに恋愛小説に出てくる主人公と、現在の私の症状は似ていると思うけど…)
ルイスと初めて会った時の事を、思い浮かべる。
夕日に照らされて、天使のように輝いて見えた。
一瞬で目を奪われた。
その後も会うたびに、惹きつけられた。
そこまで考えてかぶりを振る。
正直信じられないし、認めたくない。
恋なんて面倒だ。
始終誰かの事を考えて、その人の言動に一喜一憂して振り回される。
散々父とアイビーに振り回されてる身としては、これ以上他者に振り回されるなど真っ平だ。
そう言うとマリーも落ち着いた。
「確かにそうですけど…気がついたら落ちてるのが、恋ではないでしょうか?」
「そもそもこの気持ちが、恋だとも限らないし…」
(初めてできた友人に、浮かれているだけかもしれない…うん、きっとそうだ)
よくよく考えれば人づきあいの苦手な私が、そう簡単に恋などするはずがない。
そう考えると、ちょっと安心した。
しかしマリーには、私の内心などわからない。
「恋かどうかなんて、その方に会ってみればわかります!今日もお出かけなのでしょう?すぐ支度しますね!」
そう言って止める間もなく支度を始める。
(まぁいいか)
どうせ何も手につかない以上、部屋にいてもやることはないし、書庫で新しい本でも見つければ気が紛れるかもしれない。
そのまま支度を終えると、マリーに見送られながら部屋を出た。
玄関に向かうと父の部屋の方から、父とアイビーの怒鳴り声が聞こえた。
ため息をつく。
結局再教育もダメだったアイビーは、父が嫁ぎ先を探してるが難航している。
アイビーの出した条件に合う貴族令息は殆ど婚約しているし、残っているのもアイビーの悪評が耳に入っていて、話を持ちかけた段階で断ってくる。もはや条件から外れるが、格下の貴族家から探すか修道院に行くかだが、アイビーが納得せず「とにかく何とかしろ」「無理言うな、妥協しろ」と互いに言い争うのが最近の恒例だ。
(まぁ娘の縁談は、父親の仕事だし)
正直私には関係ないし、興味もない。
恐らく一生決まらないだろうが、私が当主になったら、すぐにアイビーを格下の他家に押し付けてやる。アイビーが抵抗するなら、縛り上げてでも押し付けてやる。
爵位だけで困窮している貴族はごまんといるし、持参金と援助を約束すれば、あんな疫病神でも喜んで受け入れるだろう。
そこまで考えたところで、馬車の準備が整ったので乗りこんだ。
「やぁ、久しぶりだね」
しばらくぶりに会うルイスを見て、唐突に悟った。
(あぁマリーの言ったとおりだ)
私はこの人に恋をしている。
ルイスを見ただけで、胸の中に温かい気持ちが沸き起こり、自然と笑顔になる。
「お久しぶりです、ルイス様」
嬉しいような、楽しいような、ちょっと泣きたいような、落ち着かない気持ちになる。
そして気持ちの赴くまま、口を開いた。
「ルイス様少しお話がありますが、よろしいでしょうか?」
ルイスはちょっと驚いた顔をしたけど、頷いて書棚の陰に私を連れて行った。
「ここなら司書からも死角だし、話を聞かれる心配もないよ。それで話って?」
「ルイス様、私貴方が好きです」
告白すると、ルイスはさっき以上に驚いた顔をした。
「唐突だね」
「言わずにいられなかったので」
正直に言う。
初めての気持ちなので、嘘は言いたくなかった。
胸から気持ちが溢れて、とても抱えきれなかった。
「それで?僕に何を求めるの?『好きになってくれ』?『婚約してくれ』?」
ルイスの言葉にキョトンとする。
(何かを求める?私が望むのは…)
少し考えた後、口を開く。
「いいえ何も」
「え?」
意外そうにルイスが目を瞠る。しかし構わず続ける。
「先ほども言いましたが、貴方の事が好きで言わずにいられなかったから、言っただけです。好きになってほしいとか、婚約してほしいとか望んでません。貴方が私の事を何とも思ってなくても、他に好きな方がいても構わない。ただ私の気持ちを知ってほしかっただけです」
するとルイスは驚きながらも、ちょっと疑わしそうに聞いてきた。
「本当に?本当に何も求めないの?王子妃になりたいとか思わないの?」
「私は公爵家の跡継ぎだから、元よりなれませんし、なりたいとも思いません。もし同じ気持ちだったら嬉しいなとは思いますが、無理になってほしいとは思いません」
ルイスの目を見てハッキリ言うと、彼は疲れたようにため息をついて頭に手をやる。
「はぁーぁ」
(いきなりすぎたかしら?)
「申し訳ありません。疲れさせてしまいましたか?」
「いやいいよ。唐突過ぎて驚いただけだから…今まで告白されたことはあるけど、『何も求めない』なんて言ってきたのは、君だけだよ」
その言葉に、胸が痛む。
当然だ。王族でしかも第一王位継承者だ。
王になれなかったとしても将来は約束されているし、容姿も人柄もいい。好きになる令嬢はたくさんいるだろう…
顔に出ていたのか、ルイスが慰めるように私を引き寄せて、抱きしめる。
「!」
「あぁそんな顔しないで。褒めているんだよ?…君は可愛いね」
そう言って笑いながら、私の頭をなでてくる。
嬉しさと恥ずかしさでいっぱいで、何も言えなかった。
顔が真っ赤になっているのが、自分でもわかる。
そしてそれはルイスにも伝わっていたようだ。
「…君は本当に正直で可愛いね。僕も君が好きだよ」
「えっ?」
思いがけない言葉に顔を上げると、微笑むルイスと目が合った。
恥ずかしくて見ていられず胸に顔を埋めると、ルイスが声を出して笑いながら、私の頭にキスをした。
こうして私達は恋人同士になった。




