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番外.欲張り令嬢の記録⑱

ブックマーク一気に減ってヘコんだけど、またちょっと増えてきました。評価もありがとうございます。長めです。

数日後、ロージア辺境伯令嬢とノワール侯爵令嬢を迎えたお茶会は、身構えてたのが馬鹿らしいほど順調に進んだ。

「シャルロット様、素敵なネックレスですわね」

「ありがとうございます。最近新しい宝石のカットの技術が出来て…その技術で研磨した石ですの」

「本当に素敵ですわね。従来の宝石より煌いて見えます」

「えぇ本当に。うちの領地でも原石が採れますの。よろしければロージア家でも取り扱っていただきたいですわ」

さりげなく勧めてみる。

グローリア領は王都から少し離れており、いささか活気はないが、その分土地の恩恵を受けている。

大してロージア領は王都に隣接しており、人が溢れているが開発が進み、これといった特産はなく流通で賄っている状態だ。

「まぁ狡いですわ、エリザベス様。シャルロット様、うちもよろしければ是非…」

「まぁ光栄ですわ。我が家は優秀な職人がいますけど、原石が不足してますし父も喜ぶでしょう」

参加者は件の令嬢2人と、懇意にしている令嬢2名の計4名で、話題はロージア辺境伯令嬢の首飾りで盛り上がっている。

アイビーは今の時間は礼儀作法の時間だ。担当の教師は厳しいので有名だ、まずお茶会終了までに終わらないだろう。

そんな事を考えていたのがいけなかったのか、廊下からバタバタと足音が近づいてくると、勢いよくドアが開かれた。

「お姉様狡いわ、私に内緒でお茶会を開くなんて!私だって他の令嬢達と仲良くしたいのに!」

予想通り飛びこんできたのはアイビーだった。

(アンタの目的は他の令嬢との交流じゃなくて、物をねだる事でしょう)

そう思ったが顔には出さなかった。

「貴方の許可を取る必要はないでしょう、私のお茶会で、招くのも私の客人なのだし。それより貴方この時間は礼儀作法の時間でしょう?授業はどうしたの?」

指摘するとアイビーは胸を張って言った。

「あんまり小言ばかりだからちょっと言い合いになったのよ、そしたら『もうあなたに教える事はありません』とお墨付きをもらったわ!」

得意げに鼻を鳴らして言うが、それは匙を投げられただけだろう。

私も含め部屋にいる全員から呆れた視線を投げかけるが、アイビーは気づかない。

そのままこちらに向かってくる。

「ちょっとお姉様邪魔よ!」

そう言って私を押しのけて、それまで私が座っていた椅子に座る。

「皆様お茶会にようこそ。来て下さって嬉しいわ」

人を押しのけて自分が招待主のように振る舞い笑顔を向けるが、更に冷たくなった視線を向けられるだけだった。しかしアイビーは気づかない。

部屋の隅に控えていたメイドが困ったように視線を向けてくる。

新しい椅子とアイビー用のお茶を用意すべきか、困っているのだろう。

私が無言で小さく首を振ると、頷いて元通り部屋の隅に控えた。


「私お友達が少ないの、これを機会に皆さん仲良くして下さると嬉しいわ」

そう言いながら令嬢達を見回して装飾品を物色する。

その視線がロージア辺境伯令嬢のネックレスに留まった。ニヤリと笑って口を開く。

(いけない!)

「ねぇ貴方…」

「まぁ!このクッキー美味しいわね!」

わざと大声を上げてアイビーの発言を打ち消す。

「チッ!」

アイビーは忌々しそうにこちらを睨んで舌打ちをする。

令嬢達も驚きながらも、アイビーの相手をしたくないのか私に合わせる。

「え、えぇそうですわね」

「さすがグローリア公爵家ですわね。料理人も一流で」

「材料も良い物を使っておいでですわね。こんなにおいしい物はめったに味わえませんもの」

「ありがとうございます、今日は特別に皆様の為に料理長が腕を振るったそうです」

それを聞いてアイビーも興味が出てきたようだ。

「あらそうなの?それなら私もほしいわ」

手を伸ばそうとしてアイビーをやんわりと止める。

「せっかくだから私がとってあげるわ」

「そう?悪いわね」

そう言いながらも人に給仕をされて満足そうな顔をする。

令嬢達は私が何をしたいのかわからず、紅茶や菓子に手を伸ばしながら何も言わず見守る。

無言で手元の皿にクッキーやシフォンケーキ、フィナンシェなどを取り分けてアイビーの前に置くと、場所を空けるフリをして、ティーカップを私の元に引き寄せた。

「はいどうぞ」

「ありがとうお姉様いただきます……ホント美味しいわね」

アイビーがクッキーに手を伸ばすのを横目で確認しながら、手元の紅茶を飲み干す。

アイビーが2枚目を口にしたのを見計らって言った。

「では皆様そろそろ時間ですし、お開きにしましょう」

「うぐっ!?」

「「「「!」」」」

私の閉会宣言にアイビーはクッキーをのどに詰まらせ、令嬢たちは私の意図を察して次々と席を立つ。

「そうですわね」

「もうこんな時間ですしね」

「本日はお招きありがとうございました」

「とても楽しかったですわ」

「こちらこそとても有意義な時間を過ごせました。名残惜しいですし玄関までお見送りしますわ、さぁ参りましょう」

「「「「えぇ」」」」

そう言って部屋を出ようとする私達を、アイビーが引き留めようと手を伸ばす。

「うぐっ…待って、そのネックレス…」

「まぁアイビー、口に物を入れたまま話しかけるのは、大変失礼よ。飲みこんでからいらっしゃい」

「そうですわ、アイビー様。お見送りはエリザベス様にしていただきますから、ご無理なさらないで」

「ごゆっくりお菓子を楽しんで下さいな」

「お気持ちだけ受け取っておきますわ」

アイビーを振り返って言うと、令嬢達も楽しそうにとどめを刺す。

「ぐっ…」

アイビーは私のカップに手を伸ばすが、すでに空だった。

「アイビー、人が口をつけたカップを使おうとするのも、お行儀が悪すぎるわ。新しいカップと紅茶を用意してもらうから、大人しく待ってなさい」

そう言ってメイドの1人に用意を言いつける。

選んだ菓子はどれも飲みこみにくいものだし、新しいお茶も用意するまで時間がかかる。

安心して玄関まで向かった。


「今日は楽しい時間が過ごせました」

「ホント!アイビー様のあの顔、いい気味!」

「乱入してきた時はどうなるかと思ったけど…天罰ですわね」

「エリザベス様も中々やりますわね」

「ありがとうございます」

彼女達が馬車に乗り走り出すのを見送った後、アイビーが走って来た。

「あらアイビーお疲れ様。もう皆さまお帰りになったわよ」

するとアイビーは怒鳴って来た。

「お姉様酷いわ!お姉様のせいでネックレス貰い損ねたじゃない!」

「あら何の事かしら?」

「お姉様が邪魔しなければ、今頃令嬢達と仲良くなって、ネックレス貰えてたのよ!それなのに…」

「言いがかりはやめて頂戴、私は普通にお茶会を開いて、皆様をもてなし見送った。それだけよ」

「お父様に言いつけてやるわ!お姉様が意地悪したって!」

「どうぞご自由に」

「覚えてらっしゃい!」

そう言ってアイビーは足音荒く立ち去って行った。


夕食後父の部屋に来るようにと言われメイドを連れて赴いた。

部屋では父が渋面で机に座り、机の前でアイビーがニヤニヤ笑いながら立っていた。

「アイビーから聞いたが、アイビーが他の令嬢と交流しようとしたのを邪魔したそうだな。本当なのか?」

予想通りの展開に内心ため息をつく。

まぁ父にしてはいきなり私が悪いと決めつけて、殴らないだけ進歩だろう。

「邪魔などしておりません。アイビーが口に物を入れたまま他の令嬢に話しかけたり、私の使ったカップをそのまま使おうとしたので『マナー違反だ』と注意して、飲みこむか、新しいカップを用意してからにするよう言っただけです」

「何?そんな事は聞いてないぞ、本当なのかアイビー」

父と私が視線を向けると、悔しそうな顔をしながら反論してきた。

「……事実だけどちょっとぐらいいいじゃない!自分の家なんだから!」

「場所はそうでも相手は家族じゃない、来客よ。お客様にして良い対応じゃないわ」

冷静に言い返すと更に激高してくる。

「誰も文句言わなかったわよ!細かいところにこだわるお姉様がおかしいのよ!」

「言わなかったのは、あまりにマナー違反で呆れてらしたからよ」

「そんな事ない!とにかくお姉様が悪いと言ったら悪いのよ!言い訳して余計な時間取らせるんじゃないわよ!」

それはこっちの台詞だ。

深くため息をつくと、父に裁可を求める。

父も深くため息をつくと言った。

「それはアイビーが悪い。仲良くするのが目的というなら、礼儀は弁えるべきだろう」

するとアイビーは父にも怒鳴って来た。

「だからこそ細かいところにこだわらず、何でも言い合えたり、気にしないようにするべきでしょう!」

「口に食べ物を入れたまま喋ったら、口の中が見えたり、食べかすが相手に飛んだりするじゃない。貴方は自分が相手に同じ事をされても、気にせず仲良くできるのかしら?」

(全くここまで言わなきゃわからないなんて、どれだけ周りの事を考えてないのか…いえ周りは全部自分の都合のいいように動くのが、当然で正しい事だと思ってるのね)

だから揉めるたびに、理解不能な理屈で相手を責めるのだろう…全くいい迷惑だ。

さすがのアイビーもこれには言い返せなかったようだが、すぐ次の言いがかりをつけてくる。

「それだけじゃないわ!令嬢達を早く帰らせたわ、まだ私が話してないのに!」

アイビーが勝ち誇った顔をするので反論する。

「ちょうど終わりの時間になったので、終わりだと言っただけです」

「まだ私が話してないんだから、引き留めなさいよ!そういうところが交流を邪魔してるっていうのよ」

「彼女達も次の予定があるのよ。仲良くするのが目的なら、無理言って引き留めるのは目的から外れてるわ…仲良くなる以外の目的があるなら別でしょうけど」

「ぐっ…」

アイビーが黙る。

父の前で「仲良くなるのは口実で、実際は装飾品をねだるのが目的でした」なんて、言えるわけないので黙るしかない……もっとも父には見透かされてるだろうが。

このまま引き下がっても良いが、ついでなので言っておく。

「私からも言わせていただきますが、アイビーはお父様のいないところで私とお母様に会うなと言われてるにもかかわらず、こうして自分から私のところにやってきます。良い機会ですから注意をお願いします」

「あっ!」

アイビーがしまったという顔をする。

ちょっとくらい良いだろうと受け流されてる内に、忘れていたようだ…ついでに父も忘れてたようだ。

「これまではちょっと顔を合わせただけで、特に問題もないからと受け流されてましたが、今回こうやって問題を起こしました…納得いく処分をお願いします」

「うーむ…」

「ま、待って!今回は…ええと、お姉様の方から押しかけて来たのよ!」

「私の方から?」

「そ、そうよ。私は悪くないわ」

見え透いた言い訳に父が頭を抱える。

「それが本当なら、私はわざわざ他の令嬢を引き連れて、貴方と家庭教師のところに行って、お茶会を開いた事になるわね。その割にはお茶会の場所は全然逆方向の部屋なのだけれど?」

「ん?そういえばエリザベスのお茶会の時間は、アイビーは礼儀作法の勉強中だったはずだ。何でお茶会に参加してるんだ?」

父が聞いてくる。

「アイビーは先生と言い合って『もう教えることはない』とお墨付きをもらったそうですわ」

「そ、そうよ。だから授業をサボった訳じゃないわ、正式な参加よ」

アイビーが得意げに鼻を高くし、父が頭を抱えて机に突っ伏す。

「それで?お墨付きをもらって早々に授業を終えるなんて予測不可能なのに、どうやって私が貴方のところに押しかけられるというのかしら?」

「そ、それは…」

アイビーが目をそらす。

さすがに無理がある事に気づいたようだ。

「では私はこれで失礼しますわ。余計な言い訳で時間をとられましたので」

先ほど言われた事を返すと、皮肉に気付いたアイビーが睨んできた。

そのまま無視して部屋を出ると、ドアの外まで父の怒声とアイビーの金切り声が聞こえた。


その後アイビーは『父のいないところで私と母に会うな』だけでなく『会っても挨拶以外言葉を交わすな』『1度でも破れば追い出す』が追加された。

さすがのアイビーもこってり絞られて懲りたようで、押しかける事はなくなった。

これをきっかけにロージア辺境伯令嬢とノワール侯爵令嬢の2人と親しくなり、親友と呼べる仲になっていった。

そしてルイスにもたびたび助けられ励まされ、いつしかなくてはならない存在になっていった。

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