番外.欲張り令嬢の記録⑰
「お嬢様、何だか最近楽しそうですね」
「えっ?」
自室で本を読んでいると、メイドのマリーに言われた。
「最近王宮からお帰りになるたびに楽しそうにされて…何か良い事でもあったんですか?」
何故かニヤニヤしながら、マリーが聞いてくる。
「うん、ちょっと…友達ができたかな」
脳裏にルイスの顔が浮かんだ。
それだけで自然と笑顔になる。
「友達ですか?」
何故かマリーが驚く。
「そう…だけど?」
(何かおかしかったかしら?)
「その相手って男性ですよね?」
「えぇそうよ」
(何が言いたいのかしら?)
首をかしげると、マリーもつられて首をかしげる。
「うーん発展途上かしら?」
「?」
「いえ何でもないです。それよりそろそろ王宮に行かれる時間では?」
「そうだった!すぐに支度するわ」
慌てて支度にとりかかる。
マリーも手伝ってくれたが、何故かずっとニヤニヤしていた。
「こんにちは、ルイス様」
「こんにちは、エリザベス」
ルイスと初めて会ってから、一月ほど経った。
初めは敬語だったが「非公式だし、堅苦しいのは好きじゃない」と言われ、今ではかなりざっくばらんに話している…とはいえさすがに王族を呼び捨てには出来ず、ルイス様と呼ぶのだけは許してもらった。
「この間勧めて貰った本、面白かったです。まさかあんな解釈があったなんて」
「だろう?あの本の著者は変わっていてね、ひねくれた見方をするんだ。中には突拍子もない解釈があってね。まずありえないけど、物語として読むと面白いんだ」
「まぁ、それはぜひ見てみたいですわ」
ルイスは多忙で、会えるのは片手で数えられる程度だ。可能な限り通うようにしてるが、こちらも勉強や社交などがあって…
そこまで考えて黙りこむ。
突然黙りこんだ私にルイスが心配そうな顔をする。
「どうしたの?何かあった?」
「いえ…あったというより、これから起きるというか…」
「?」
「来週お茶会を開くんです…久しぶりなので緊張してしまって…」
「あぁなるほど」
その言葉でルイスも察したようだ。
招待されてお茶会に参加するのはあるが、お茶会を開くのは数年ぶりだ…しかもそのうちの2人は同じ5大家のロージア辺境伯令嬢とノワール侯爵令嬢だ。
ロージア辺境伯家は貿易を行っており、当然人にも物にも厳しい目を持っている。
ノワール侯爵令嬢は気が強く、はっきりものをいう性格だと聞く。
ただでさえ社交に出るたびに同情の目を向けられるのが酷く憂鬱なのに、厄介な相手と同席するのだ。
「お茶会が久しぶりなのは、君の妹が原因だろう?君が1番の被害者だと皆分かってるし、君を責めたりはしないと思うよ」
ルイスが励ましてくれるが、それでも気が晴れない。
「責めはしませんが…同情の目で見られるのがいたたまれなくて…」
俯きながらやっとの事で本音を言う。
責められるのも辛いが、同情されるのもいたたまれない。
でもそんな事誰にも言えなかった。
(嫌われたらどうしよう)
つい言ってしまったが、こんな情けない事で悩むなんて呆れられたらどうしよう。
怖くて顔を上げられずにいると、両手に顔をそえられて上向かされた。
顔を上げるとルイスが優しく微笑んでいた。
「君はもっと自信を持った方がいいよ。それに同情は恥じる事じゃない、好機だと思えばいいんだ」
「好機?」
「そう」
そこでルイスは私の顔から手を放す。
「同情でもなんでも相手に対して良い印象を持っているんだ、ならそれを生かせばいい。同情を好感情に変えてしまえばいい」
「………」
「君ならきっとできると信じてる。あとは自信を持つだけだ」
ルイスの視線がまっすぐ私に向けられる。
「分かりました。まだ不安ですが…期待に応えられるよう努力します」
「うん。結果を楽しみにしてるよ」
その後他愛無い話をしてルイスと別れた。
書庫を出て廊下を歩いてると、前方からメイドを従えた側妃のアナスタシアがやって来た、慌てて礼を取る。
アナスタシア妃は私の前で立ち止まると、声をかけてきた。
「あら?貴方は…あまり見かけないけど、どこかで見た顔ね」
「はい。エリザベス=グローリアと申します。王家主催の行事でご挨拶をさせていただきました。側妃様にお目にかかれて光栄です」
「あぁ…そういえば。ここには何の用かしら?」
見慣れない相手のせいか、疑わしげな眼で追及される。
内心汗をかきながら、平常を装う。
「はい。跡取りとして研鑽を積む為、通わせていただいております」
「あらそうなの。王宮に立ち入れるなんてよほど優秀なのね。そんな方が跡継ぎなら公爵家も安泰ね」
「ありがとうございます。才女と名高い側妃様を見習って励ませていただきます」
あからさまな社交辞令だが、アナスタシア妃は気を良くしたようだ。警戒を和らげて微笑みかけてくる。
「まぁお上手ね。頑張ってね」
そう言って侍女を連れて去って行った。




