番外.欲張り令嬢の記録⑯
評価ブックマークありがとうございます。ようやくルイス登場
王宮で書庫への道を進む。
(歴史の本は大体読みつくした…今日は何を読もう)
読書は好きだが、最近では屋敷から避難する為の手段になっている。
出来れば一般的な職業に関する本が読みたいが、書庫にはないしそもそも父が許さない。
出来ないと分かってても、身分も何もかも放棄して母を連れてアイビーや父から解放されたいと何度も思った。
視察にかこつけて平民の話を聞いたり、手に職をつけられるような技術を学ぼうとした事もあるが「女のする事じゃない、次期当主のお前には必要ない」と父に反対された。
父はちょっと男尊女卑なところがあり「女は男に従うもの、男より一歩後ろにあるべき」というところがある。
馬鹿馬鹿しいと思う。
貴族は血統第一を叫んでいるが、それなら娘であろうが当主の子が直系で重んじられるべきなのに、実際は血の薄い遠縁の養子や、一滴も血をひかない娘婿が大きな顔をして、娘はおまけのように扱われる…ただの男尊女卑だ。中には浮気や浪費が酷かったり、暴力を振るわれたりする女性もいるから、父はマシな方なのだろう。
そこまで考えてため息をつく。
(女云々はともかく、次期当主に必要ない知識だというのは確かだ…それに家族同様の使用人たちを連れて行く事も放って行く事も出来ない。何よりアイビーに負けたまま泣き寝入りしたら、きっと一生後悔する)
結局のところただの現実逃避で、当主になるまで耐えるしかないのだ。
憂鬱な気分のまま書庫に入り司書に入室確認された後、適当に歩き回る。夕暮れ時なせいか人がいなかった。
何度目かに覗いた通路で目を瞠った。
窓際の席で、誰かが本を読んでいる。
射しこむ夕日で全身が金色に染まり、光っているように見えた。
真剣に文字を追う横顔に目を奪われた―――まるで神話に出てくる天使のようだった。
「………天使?」
「えっ?」
思わず呟くと、聞こえたのか顔を上げる。
すぐに我に返って慌てて頭を下げる。
「申し訳ありません、失礼しました」
(天使なんているわけないのに、何を言っているのだろう)
羞恥で顔を上げられずにいると、頭上からくすくすと笑う声が聞こえた。
「気にしなくていいよ、天使に間違えられるなんて光栄だ。さぁ顔を上げて」
「はい…」
恐る恐る顔を上げると目が合った。
微笑みながらこちらを見てくる。
建前か本心か分からないが、怒った様子はないので力を抜き改めて挨拶をする。
「申し遅れました。私はグローリア公爵が娘、エリザベス=グローリアと申します」
「あぁ…グローリア家の令嬢か。初めまして、僕はルイス=スコット。知っての通り第2王子だよ」
「はい、存じております。お目にかかれて光栄です」
ルイス王子の事は話に聞いているし、遠目なら王家主催の舞踏会で何度か見かけた。
正妃の忘れ形見で第一王位継承者だが、アナスタシア妃の勢力が強く押され気味だ。しかしアナスタシア妃の推すヘンリー王子は、人柄能力共にルイス王子に及ばない為、王位争いが膠着状態だと聞く。
「僕も君のこと知ってるよ。貴族の令嬢子息の間では有名だからね…君の妹の事は」
言われた言葉に顔が赤くなる。
「お耳汚しで申し訳ありません」
頭を下げようとすると、片手で止められた。
「いやいいよ、僕が被害にあったわけじゃないしね…ただお互いろくでもない家族を持つと大変だねって言いたいだけだから」
(あぁ…そういえば)
ヘンリー王子の事を思い出す。
彼が婚約者を選ぶ為のお茶会で、ノワール侯爵令嬢を殴ったのは有名な話だ。それだけでなく日常的に使用人に当たり散らしているらしい…あくまで噂だが。
「そうおっしゃるという事はヘンリー王子が、日常的に暴力をふるってるというのは本当なのでしょうか」
尋ねるとルイス王子が苦笑した。
「その通りだけど…そんなにハッキリ聞かれるとは思わなかったな」
「あ!…申し訳ありません」
(王族相手に不躾だった)
再度頭を下げようとするが、またも止められた。
「いやいいよ。ここは公式の場じゃないし、2人きりだしね」
「はい…失礼しました」
「だからいいってば。君は謝ってばかりだなぁ、僕としては他の話がしたいんだけど」
「え?」
予想外の言葉に目を瞬く。
「前から君に興味があったんだ、気が合いそうだし友人になれないかと思って。今日はもう時間が無いけど、次に会えたらもっと色々話がしたい」
「光栄です。それではまた会えたら…」
「うん。でもこのことは秘密にね…秘密の逢瀬って楽しそうじゃない?」
王子が唇に人差し指を当てて、悪戯っぽく笑う。
「ふふっ…そうですね。分かりました」
思わず笑うと、王子も笑い返してきた。
その後タイミングがあったら、会う約束をして王子と別れ屋敷に戻った。
ほんの少し話をしただけなのに何故か心が軽くなり、晴れやかな気持ちになった。




