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番外.欲張り令嬢の記録⑭

「痛い!やめて!」

「何事!?」

数日後王宮の書庫から戻ってくると、母の悲鳴が聞こえた。

急いで部屋へと駆けつけると、頭をかばうように身を丸くしている母と、息を荒げているアイビーがメイド達に取り囲まれていた。

「何やってるの!」

私の声に気づいた2人がこちらに顔を向けてくる。

「エ、エリザベス…助けてちょうだい」

「お姉様には関係ないわよ、引っこんでて。アンタ達も邪魔したらお父様に言って追い出すわよ」

母は私を見ておびえた様子で助けを求め、アイビーは私と使用人を一瞥すると、母に向き直り再び殴ろうとする。

「やめなさい!」

慌ててアイビーを母から遠ざける。

「邪魔するなって言ってるでしょう。私に逆らう気?お姉様のくせに!」

「それはこっちの台詞よ!貴方達も何を見てるの、早く止めなさい!」

我に返った使用人達が慌てて母とアイビーを引き離しにかかる。アイビーが暴れて人の手を噛もうとしたり、顔を殴ろうとして来たりしたが、数人がかりでどうにか部屋の端から端まで引き離したところで、手を放してアイビーに向き直る。

「どういう事なの、何があったの」

「うるさいわね、お姉様に関係ないわよ。出しゃばらないで」

私の問いかけに不貞腐れたように、そっぽを向く。

「今お父様の留守中、家を預かってるのは私よ。私で不満ならお父様に問いただしてもらうわ」

するとアイビーは不満そうにしながらも話し出した。

「お母様が悪いのよ。お母様の持ってる真珠のネックレス欲しいって言ったら拒否したのよ、おまけに私に説教してきたのよ。『私にあげる為に物を持ってるわけじゃない』って!親が娘に物をあげるのは当然なのに!だから聞き分けが良くなるよう、躾けてたのよ」

久しぶりに聞くアイビーの勝手な理屈に、頭痛を感じて頭に手をやる。

(想定外…いえ私が甘かったわ)

考えてみれば私を狙いから外したところで、アイビーのたかり癖が治った訳じゃない。他に矛先を向けるのはちょっと考えれば分かる事だ。


「何の騒ぎだ!」

そこに新たな声が割りこんできた。父が予定より早く帰って来たようだ。

すかさずアイビーが猫撫で声で、父にすり寄る。

「お父様ぁ~お母様が虐めるのぉ、助けてぇ~」

「何?」

父は部屋の隅でメイドに支えられながらぐったりしている母を一瞥すると、こちらに視線を向けてきた。

「アイビーが母のネックレスをねだって拒否したら、殴って来たんです」

ため息をつきながら答えると、父が渋面でアイビーを見る。

「それはお前が悪い。人の物を欲しがるんじゃない、しかも目上の者に手を上げるとは何事だ」

するとアイビーは父に叱られるのが意外だったのか、一瞬何を言われてるか分からない顔をした後、目を吊り上げて癇癪を起こした。

「何よ、年上だから殴ったんじゃない!お父様の言ったとおりにしてるだけなのに、何で私が悪いことになるのよ!」

「何?」

父が困惑すると、アイビーがさらに続けた。

「お父様が言ったんじゃない『年上の者は年下に譲ってやるべきだ』『年上は我慢しなさい』『年上は年下を助けるものだ』って!家族の中で私が1番年下なんだから、お母様もお姉様も何でも私に譲って従うべきでしょう!」

父が絶句するが、アイビーは構わず続けた。

「だいたい今までは大人しく渡してたのに、今回に限って抵抗するなんて勝手だわ!嫌だっていうなら最初から許さなきゃよかったのに!お母様が抵抗するからこんな騒ぎになって、お父様にバレちゃったじゃない!」

喚き散らすと今度は私を睨んできた。

「そもそもお姉様が止めに入るから、こんな騒ぎになってお父様にバレちゃったじゃない!おまけにお姉様の言い方が悪いせいで、私が悪者みたいに思われてお父様に怒られちゃったじゃない!全部お母様とお姉様のせいよ!」

完全な言いがかりだ。あまりの理屈に誰も言葉を発せなかった。

だが皆の視線は自ずと誰に非があるか、物語っていた。

「な、何よその目は…何で皆そんな目で見るのよ」

周囲から非難の眼差しを受けたアイビーが後ずさりして、再び癇癪を起こす。

「酷い、皆して私を虐めて!私は何も悪い事なんかしてないのに!」

そう言って喚きながら使用人を突き飛ばすようにして、部屋に逃げ戻って行った。

それを見送ると、母に駆け寄る。

「お母様、大丈夫ですか?」

「えぇ…大丈夫よエリザベス、助けてくれてありがとう」

「いいえ。念のため医者を呼びますから、別室で休んでいて下さい」

「えぇ…そうするわ。ありがとう」

支えていた使用人にそのまま母を連れて行かせると、残っていた使用人達に部屋の片づけを命じた。

父は「私が…間違ったのか…?」と呟くと自室に戻った。


翌日父はアイビーに「私のいないところで母と姉に会うな、今度騒ぎを起こしたら追い出す」と言ったが、それでアイビーが言う事を聞くはずもなく、その後も騒動を起こし続けた。

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