番外.欲張り令嬢の記録⑬
「こちらがアイビー様の1週間の予定です」
「そう、ご苦労様」
屋敷の中でも人目につかない廊下で、男爵姉妹からメモを受け取る。
アイビーの取り巻き達を味方につけたのはこのためだ。
私はもうアイビーには関わりたくなかったが、社交は必須だ。だがお茶会を開いたりパーティに出向けば、必ずアイビーが出てきて社交どころでなくなる。今までは「体調が悪い」と誤魔化してきたが、それも限界だ。もう回避するにはアイビーの予定を事前に把握するしかない。だがアイビー付きのメイドは入れ替わりが激しく、懐柔するより先に辞めてしまう。アイビー本人に聞いても不審がられるか、鬱陶しがられて、まともに答えないのは目に見えている。そもそもアイビーを避けるのが目的なのに、アイビーと顔を合わせるなど本末転倒だ。
「2週間後の午後はダンスの時間ね。この日にお茶会を開くことにするわ。それと言いつけ通りアイビーに吹きこんでくれたかしら?」
「「はい確かに。エリザベス様はもうほとんど物をお持ちでないと…」」
男爵姉妹を味方につけた理由はもう1つある。
年の近い同性の友人という事で、2人共アイビーのお気に入りでよく側にいるし、2人に言われた事もある程度は素直に聞く。つまりはこちらの都合のいいように誘導することが出来るという事だ。
「ご苦労様、とりあえず今のところはこれでいいわ。また何かあったら言うわ」
「「……」」
会話を切り上げようとすると、2人が物言いたげにこちらを見ていた。
「何か言いたい事があるのかしら?」
促すとおずおずと口を開く。
「あの…この前怪我をした彼の事なんですが…」
「あぁ、この間の花瓶の件ね。それがどうかした?」
あの後ちょっとした騒ぎになった。なんせ床に人が倒れてるのだ、仕方ない。
殴った取り巻き男は命に別状はなかったが、頭に五針縫う大怪我を負った。
男は当初「私に殴られた」と騒いでいたが、メイド達が「転んで台座にぶつかり、そこに花瓶が落ちてきた。そこにエリザベス様が通りかかった」、取り巻き達も「廊下でふざけてたら、台座にぶつかった。エリザベス様は一切関係ない」と揃って証言した為、「頭をぶつけたショックで、記憶が混乱してるのだろう」と片付けられた。
その後もしつこく絡んでくるので、男爵姉妹に我が家に入れさせないように言っておいた。その後どうなったかは知らないし、どうでもいい。
「…彼を殴った事どう思われますか?」
「…もしあのまま彼が死んでしまったら、どうするおつもりだったんですか?」
「どうとも思わないわ、殴られるだけの事をしたのだから。死んだとしても自業自得だと思うし、正当防衛を主張するだけよ。いずれにしろもう終わった事で、顔を見ることもない相手よ」
「「……」」
私の返答に2人揃って黙りこむ。
「用件はそれだけ?」
「はい…」
「失礼します…」
2人は暗い顔をしたまま、戻って行った。
何となくいいたい事は分かったが、すぐに頭の隅に追いやった。
(これでアイビーと関わらずに済む)
一安心したのもつかの間、すぐに自分の考えが甘かった事を思い知らされる。




