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2.穏やかな日々


その人に初めて会ったのは城だった。

何て綺麗な人だろうと一目で心を奪われた。

それからひたすら通い続けた。

彼が出席する行事には必ず参加した。

僅かでも姿を見るだけ、言葉を交わすだけで心が弾んだ。

想いが通じた時は涙が止まらず彼を困らせた。

今まで感じたこともないほど満たされた日々を送った。

しかし幸せは長く続かなかった。




「おはようございますお嬢様」

朝、メイドのマリーの声で目が覚める。

「おはようマリー」

ベッドを下りながら朝の挨拶をする。

「お嬢様にしては珍しくお寝坊ですね、いつもならもうハッキリ目が覚めてらっしゃるのに」

マリーが苦笑しながらカーテンを閉じ身支度の用意をする。

「そうね。夢見が悪かったからかしら?」

私も笑いながら返すとマリーが心配そうな顔をする。

「悪夢でもご覧になったのですか?」

「いいえ幸せな夢よ」

そう答えると今度は不思議そうな顔をした。

「幸せな夢なのに夢見が悪いのですか?」

「そうよ」

「どうしてですか?」

マリーがますます不可解という顔で首をかしげる。

「幸せの絶頂は不幸の始まりだからよ」



身支度を整えて朝食の席に着くとすでに父と母が来ていた。

「おはようございます。お父様お母様」

「おはようエリザベス」

「おはよう。今日は珍しく遅かったな」

「はい。面白い本を見つけたのでつい夜更かししてしまいました」

「まぁ。勉強熱心はいい事だけど体が第一よ気をつけてね」

「そうだなほどほどにしなさい。さぁ食事にしよう」

「はい」

婚約破棄から半年経った。

アイビーがいなくなった当初は両親も落ちこんでいたがすぐに立ち直った。

元々アイビーは我儘でねだり癖とヒステリーが酷くみんな手を焼いていたのでホッとした感じだった。

朝食を終えて登校する時間になった。

「それでは行ってまいります」


「「おはようございますエリザベス様」」

「おはようございますシャルロット様、シンディ様」

教室に入ると友人で同じ5大家のシャルロット=ロージア辺境伯令嬢とシンディ=ノワール侯爵令嬢に声をかけられる。

ロージア家は第2王子派、対してノワール侯爵家は第1王子派だ。しかし互いに気が合うため公の場以外いつも3人で行動している。

私の婚約破棄はすぐに社交界中に知れ渡ったが妹の悪評は有名だったのでほとんどの者が私に同情的だった。中には「妹に婚約者を奪われるなんて魅力がない」と陰口を叩く者もいるがごく一部だし公爵令嬢で跡継ぎの私にそれ以上何もできないので受け流していた。


「おはようございますエリザベス様お聞きになりました?あの方またやらかしたそうですわよ」

「今度は養女候補の家のご令嬢のブローチをねだったそうですわ」

「しかも拒否なさったら『王太子妃になる自分に逆らうのか』と脅してきたそうですわ」

「お2人とも顔が近いですわ」

2人が興奮して身を乗り出すように迫ってくるのでほとんどくっつきそうな距離だ。

「あ、あら失礼しましたわ」

「つい興奮してしまいました」

赤面しながら2人が離れたのでとりあえず席に着く。

「それでお話の続きですけど…ブローチをねだったんでしたわね」

「えぇそうですわ!そのブローチは母君の形見とかで大事になさってたらしくて…」

「それで脅された令嬢が泣き出してしまって…ご当主がカンカンになって養女の話は流れてしまったそうですわ」

「これで何回目かしらね」

「もう主だった貴族家はみんなダメになってしまったんじゃないかしら」

「いい気味ですわね」

シンディが毒を吐くとシャルロットも乗ってくる。

「全くですわ、私も何回被害にあった事か…」

「私もですわ!でも一番気の毒なのはエリザベス様ですわ、幼い頃から数え切れないほどあの方に取られてしまって!」

「それだけでなくあの方が本来こなすべき課題や雑用まで押し付けられていましたもの!」

「その節はどうもごめんなさい。私の力が及ばなかったばっかりに…」

改めて謝罪すると2人が慌てる。

「いいえエリザベス様のせいではありませんわ!あの方が悪いのです」

「そうですわ!エリザベス様が断れないようわざと衆人の前で物をねだって…誰もエリザベス様を責めたりしませんわ!」

「ありがとう。でもやっぱり止められなかったのは私にも責任の一端があると思うの」

微笑みながら返す。

「エリザベス様は謙虚でお優しいですわね…あんなに奪われても責めないなんて」

「本当ですわ、私だったらあんな妹見捨ててますわ!」

「ありがとう。でもそれほどじゃないわよ?さぁ話はここまでにして授業が始まるわ」

「そうでしたわね」

「次の授業は確か歴史でしたわね」

話を打ち切ると2人もそれに倣った。急いで自分の席に着く。

今日も穏やかな1日が始まった。


「こんにちは3人とも」

昼休み外で3人で食事を摂っていると声をかけられた。

見ると第2王子のルイス様だった。

慌てて立ち上がり礼をしようとすると手を上げて止められた。

「あぁかしこまらなくていいよ、ここは公の場じゃないし堅苦しいのは好きじゃない」

「「「しかし…」」」

「そもそも同じ生徒だ気にしなくていい」

「わかりました失礼いたします」

王子が許した以上粘ればかえって不敬に当たる。私達はまた座り直した。

「何か御用でしょうか?」

「あぁうんエリザベスにね」

「私に?」

「この前貸してくれた本とても役に立ってるよありがとう」

「恐れ入ります」

「おかげで王宮の書庫に新しい本が入りそうなんだ、僕と君が前から読みたかった本が」

「まぁ」

「君の気が変わってなければ貸そうかと思うんだけどどうかな?」

「えぇ変わってませんわ」

「良かった。ただちょっと時間がかかりそうでね…数か月くらい」

「それくらい待ちますわ」

「わかった。それじゃあ読み終わったら貸すね」

「はいお待ちしております」

「それじゃあ食事の邪魔してごめんね」

そう言ってルイス様は立ち去った。


ルイス様が見えなくなった途端に2人が勢いよく口を開く。

「あ~~ビックリしましたわ」

「まさかルイス様がいらっしゃるなんて!」

「私も驚きましたわ」

お茶を飲んで一息つく。

「それにしても王宮の書庫に通われてるなんてさすがエリザベス様ですわ」

「そうですわ。王宮の書庫は王族と高位の文官しか閲覧不可なのに」

「そうでもないわ。王族か文官の紹介状があれば外部の者でも閲覧できるわ」

「「紹介状を貰える自体凄い事ですわ!!」」

興奮した2人がまた詰め寄ってくる。

「あ、ありがとう…」

2人とも良い友人なのだが興奮しやすいのが玉に瑕だ。



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