番外.欲張り令嬢の記録⑩
たくさんのブックマークと評価ありがとうございます<(_ _)>長めです
念のためR15で
廊下を歩いてると、突然すれ違いざまに足を蹴られて転んだ。
「嫌だわ、公爵令嬢のくせに何もないところで転ぶなんて」
「作法が身についてないのね、さすが地味令嬢だわ」
「ホント。アイビー様の方がよほど次期当主にふさわしいのに…身の程知らずな真似をするからだ」
起き上がってみると、アイビーの取り巻き達だった。
この間の快気祝い以来、彼らは私を目の敵にして何かと絡んでくる。
アイビーが次期当主になりその側近として甘い汁を吸えるのを期待してたのに、当てが外れたのが不満なのだろう。事あるごとに私に絡んでは「次期当主を辞退しろ」と言ってくる。
ここで何かを言えば大げさに騒いで人を集めた挙句、捏造し私を悪者に仕立て上げてくる。かといってアイビーに注意しても通じない(そもそも顔も見たくない)し、この程度で父に相談すれば「これしきの騒ぎも1人で納められないのか」と、次期当主の資質に問題ありとみなされてしまう。父の子は私とアイビーしかいないが、婿を取らせてその者に跡を継がせたり、遠縁から養子を迎える可能性もある。ずっと耐えてきたのに、美味しい所だけ他人に持っていかれるなどごめんだ。
「何黙ってるのよ、何とか言いなさいよ!」
「大体お前みたいな地味女に、次期当主が務まるわけないだろ!さっさと辞退しろよ!」
「そうよ陰気な黒髪女が!」
(バカバカしい)
髪の色や印象で次期当主が決まるものでもないだろうに…さすがアイビーの取り巻き、そろってバカばかりだ。
「あいにく暇じゃないので。バカに付き合ってられないわ」
そう言って踵を返す。
後ろでさらに罵詈雑言が飛び交ったが、すべて無視した。
部屋に戻るとメイドのアンナに足の手当てを頼む。思いっきり蹴られたせいで痣になっていたが、幸いなことに腫れてはいないようだ。
「大丈夫ですか?お嬢様」
包帯を巻きながら、心配そうに聞いてくる。
「大丈夫よ、ありがとう」
するとそこにアイビーが飛びこんできた。
「お姉様、私の友人をいじめたんですって!?慰謝料よこしなさい!」
ノックもなしに飛びこんでくるのも、すでに日常だ。
「とんだ言いがかりね。侮辱したのは向こうの方で、私は何も言ってないわ」
「嘘!皆が言ってたのよ。廊下で会って親切に声をかけたのに、無視されたって!」
「無視をされても当然でしょう。いきなりこんな怪我をさせられては」
そう言って撒いた包帯をほどき、足首の痣を見せる。
するとアイビーは一瞬怯んだが、すぐに反撃してきた。
「自分が不注意で転んだだけでしょう!?そもそも彼らが怪我をさせたという証拠がないから、いくら言ったって罪には問えないわ!」
アイビーの台詞に、私はおかしくなってフッと笑う。
「何がおかしいのよ!」
「自分で言ってて気づかないの?あなたは今彼らがやったことを認めたのよ?」
「証拠がないから罪には問えない」というのは、「やっていない」ではなく「やったけど、証拠がないから罰することは出来ない」という意味だ。似てるようだが大違いだ。
指摘するとアイビーが慌てて取り繕う。
「い、今のは言葉のあやよ!もちろん私は皆がそんな事する人じゃないって信じてるわ」
「あぁそう。なら私が彼らを虐めたという証拠もないから、慰謝料とやらを払う必要もないわね」
「証拠ならあるわ!彼らがそう言ってたもの!」
「言うだけが証拠なら、私が彼らに「怪我をさせられた」というのはもっと証拠になるわね、事実怪我してるし」
そう言って再び足の痣を見せると、アイビーが今度こそ怯んだが、とんでもない事を言って来た。
「う…お、お父様に言いつけてやる!お姉様が虐めてきたって!」
「何ですって?」
顔を顰めると、勝機と見たのか一気に攻めてきた。
「お父様に『お姉様に虐められた』って言いつけるのよ!お父様なら私の言う事何でも聞いてくれるわ、嫌なら慰謝料払いなさい!」
「………」
確かにその通りだ。
父はもはやアイビーを信用していないが、アイビーは相手が思い通りに動かないと、根負けするまで癇癪を起こしてそれこそ数か月、数年でも粘り続ける。それで結局父も母も私も(業腹だが)仕方なく言う通りにしている。しかも今回は取り巻きというアイビー側の偽証人もいる。
深々とため息をつくとアンナに言ってお金を渡したが、アイビーが口を尖らせる。
「これだけで足りるわけないでしょう!?ここに来てからどれだけ時間が経ったと思ってるの!しかも反論なんかしてきて、人をイライラさせて!その分も払いなさい!!」
「な!アイビー様、それはあんまりにも…」
あまりの言い様に、アンナが反論しかけるが、慌てて止める。
「何よ、私に逆らう気!?お父様に言ってクビにするわよ」
勝ち誇った顔でアイビーが見下してくる。その言葉にアンナも黙りこむ。
(何が『どれだけ時間が経った~』よ!10分くらいしか経ってないじゃない!いきなり押しかけて無茶苦茶な理屈振りかざしてきて、慰謝料取りたいのはこっちの方よ!)
内心腹立たしいが、後の事を考えると折れざるを得ない。アイビーが納得するだけのお金を渡して帰らせた。
その後も取り巻き達の嫌がらせは続き、言い返せばアイビーが乗りこんで来て、お金を脅し取るという流れが出来てしまった。
最近は無言でひたすら耐えてるが、そのせいで取り巻き達が調子に乗って、嫌がらせがエスカレートしてきている。
「そろそろ限界ね…」
自室で呟く。
アイビーへの慰謝料(という名目の恐喝)は日々金額が上がって行き、手持ち金どころかドレスやアクセサリーを処分して賄うのも、こちらの忍耐ももう限界だ。
「アイビー様の事ですか?」
独り言のつもりだったが、聞こえたらしいマリーが聞いてくる。
「アイビーも取り巻き達もよ。さてどうするか…」
考えてると部屋の扉がノックされた。
「失礼します」
入って来たのは、メイド長のハンナと若いメイドだった。
「どうしたの、何かあったの?」
ハンナはいつもより厳しい顔をしており、後ろのメイドは半泣きだ。
「申し訳ありませんお嬢様、ですがアイビー様のご友人の事でご相談したい事が…」
前置きしてから言われた言葉に、私は頭を抱えた。
増長した取り巻き達は、私の知らないところで家のメイドもターゲットにしていた。それもアイビーの取り巻きという立場を生かして、脅して逆らえないようにしていた。ハンナが私に負担をかけないよう目を光らせていたが、今日とうとう取り巻きの1人の男が年若いメイドを空き部屋に連れこんだ。ギリギリ助けられたようだが、襲われかけたメイドのショックは大きくもはやこれ以上手に負えず、かといって男の父や執事に相談できる内容でもない。
「お嬢様にこれ以上負担をかけたくなかったのですが…力及ばず申し訳ありません」
「そんなことないわ、むしろ気づかずにいてごめんなさい。それでお母様には伝えたの?」
「いえ…お伝えしない方がいいかと思いまして」
「そうね。きっと聞いたらまた寝こんでしまうわ」
正直私も聞かなかったことして倒れたい。
だが次期当主として家族を放っておくわけにはいかない。
「早急に何とかする必要があるわね」
その晩はマリーも含めた四人で作戦を話し合った。




