番外.欲張り令嬢の記録⑦
父娘喧嘩の巻
「お嬢様、旦那様がお呼びです。」
「今行くわ」
ため息を1つつくと、読んでいた本を閉じて部屋を出る。
父の用件などまずアイビー絡みか屋敷内の事だ。圧倒的に前者が多く、考えるだけで気が重い。
「あら、エリザベス様じゃない」
「ホント、地味令嬢がこんなところで何してるのかしら?」
振り返るとアイビーの取りまき達がいた。
社交デビューしても変わらないアイビーの行いはすぐに令嬢子息に知れ渡った。本人はたかったり見下す相手は令嬢のみで、大人や令息のいない時を狙ってるから令嬢達以外にはバレてないと思ってるが、姉や妹のいる令息もいるし、彼女達も親には言えなくても兄や弟に愚痴や悩みを言うくらいはする。
結果として男女ともにアイビーと親しくしようという者は殆どおらず、公爵令嬢に取り入って甘い汁を吸いたいという下級貴族やその取り巻きの平民がいるだけだ。
「もしかしてまた何か粗相をして叱られに行くのかしら~?」
「本当アイビー様の言う通り無能よねぇ。早く負けを認めればいいのに~」
これ見よがしにこちらを見てクスクスと嗤う。
アイビーはどうやら彼らにいかに自分が優秀か自慢話ばかりしてるらしく、彼らはアイビーが次期当主に内定してると思っている。すっかり自分達が次期当主の側近になるものと思って、我が物顔でふるまっている。腹立たしいが反論してもアイビーに泣きついて、父が出しゃばってくるだけだ。
(私が当主になったらアイビー諸共すぐに追い出してやる)
案内のメイドが口を開こうとしたが、父を待たせる訳にはいかないと言って先を急いだ。
「お父様失礼します。」
「来たか」
部屋に入ると父が渋面で机に肘をついていた。
「ご用は何でしょうか?」
「アイビーの縁談だがまた断られた」
「そうですか」
(当然だ)
社交デビュー当初は山ほど持ちかけられた縁談話も、アイビーがパーティに顔を出すたびに減っていき、今ではこちらから持ちかけても断られる始末だ。
「アイビーは器量も良いし、我が家とも縁続きになれるし良縁のはずなのだが、相手の令息と妹の令嬢が酷く嫌がってるらしい…お前は何か心当たりはないか?」
「ありません」
思いっきりあるが、この父に言っても無駄だ。
「そうか…ところでお前はどうなってるんだ?社交デビューしてしばらく経つのに縁談どころか友人すら作れていないではないか」
「………」
それもアイビーが原因だ。
日頃からアイビーと父に悩まされてるせいで、人と関わるのが苦痛になった。何を言えばいいか分からず、作り笑いに疲れて会話も上手く弾めない。結果としてたいていの人はすぐ離れて行った。中には上手く付き合える人もいたが、ある程度親しくなり家に招いたとたんアイビーの餌食になった。以来彼女達との交流は途絶えた。私と親しくするとアイビーに狙われると噂が立ち、話しかけようとしても避けられる始末だ。
「アイビーはちゃんと友人を作れているというのに…お前は努力が足りない、もっと頑張りなさい」
「…はい」
「もういい。下がりなさい」
一礼して退室する。
部屋に戻る途中、アイビーに会った。
「あ、あらお姉さまいたの?お父様の説教はもう終わったの?」
「…何故説教だと思うの?」
「だ、だって無能なお姉様がよびだされるなんてそれしかないでしょう?とにかく私急いでるから邪魔しないで!」
そう言って私を押しのけるようにして廊下を駆けていく。
良く見えなかったが両腕に何かを抱えていたようだ。
アイビーがやって来たのは私の部屋がある方だ。
「………」
(嫌な予感がする)
慌てて部屋に戻り、室内の物をチェックする。
「やられた」
アクセサリーや小物が数点無くなっていた。
さすがにこれは放っておけない。
私は父の部屋に引き返した。
「お父様お話があります」
返事も待たず部屋に入り用件を切り出すと父が嫌そうな顔をした。
「何だ、さっき来たばかりだろう。何故その時言わなかった」
「その後でできた用件だからです。単刀直入に言います。アイビーが先ほどお父様に呼ばれている間に、私の部屋に入ってアクセサリーや小物を持ち出しました。アイビーを罰して下さい」
「何だと!?証拠はあるのか!」
父がこちらを睨んでくるが、こちらも睨み返す。
これを許したらアイビーは盗み放題だ、譲るわけにはいかない。
「お父様に呼ばれてから、戻ってくるまで5分ほどです。盗んだ相手は行き帰りのどちらかで必ず私と会う筈です。そして私と会ったのはアイビーだけですし、アイビーが何かを抱えているのも見ました」
「いい加減にしろ!実の妹を盗人呼ばわりする気か!」
父が怒鳴って席を立つとそのまま私の目の前に立った。
「では誰が盗んだというんです!」
こちらも負けじと怒鳴って睨み返す。
「お前の勘違いだろう!どこかに失くしたのを盗まれたと思いこんでるんだ、妹に濡れ衣を着せる前にもう1度部屋をよく探してみろ!!」
「部屋を出る前は確かに置いてあったし、部屋を離れてて触りもしてないのにどうやって失くすというんです!ご自分こそ娘可愛さで目を曇らせるのもいい加減になさって下さい!!」
「何だと貴様!」
父がそのまま私を殴りつける。
その後はよく覚えてない。
父は私を散々殴った後、「頭を冷やせ!」とバケツの水をかけて一晩中雪空の下に放り出した。




