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番外.欲張り令嬢の記録⑥

たくさんのブックマーク、評価ありがとうございます。

「エリザベスさっきはごめんなさい」

部屋で休んでると母に呼ばれたので、向かうと部屋に入るなり謝って来た。

「いえ、私も短気が過ぎました」

「それは無理のない事よ、貴方の気持ちは分かるわ…でもあの人やアイビーに言っても揉めるだけだから貴方が堪えて頂戴」

「分かってます」

父もアイビーも自分の非を認める人間じゃない、言ったところで癇癪を起こすだけだ。特に父に至っては、絶縁して家を追い出すだろう。身体の弱い母と未成年の上貴族令嬢として育った私では1人で生きていけない…耐えるしかないのだ。

「ごめんなさい…せめて私があの人に意見できるくらい立場が強ければ良いのだけど…」

「お母様の事情は承知してます。こればかりは誰も責められません」

母は伯爵家の出だが、爵位だけの貧乏伯爵家だ。暮らしぶりは平民同然で、貴族の体裁を取り繕うのが精いっぱいの状態だった。そんな中たまたま参加したパーティで父が母を見染めた。

話はトントン拍子に進み、短い婚約期間を経て2人は結婚した。

母はよく言えば協調性があり和を大事にする人で、悪く言えば流されやすく人の言いなりになる人だった。

平民同然の暮らしから一気に国内有数の大貴族の正妻に収まった母は、環境の激変と有頂天になったのもあり、結果として実家の催促や商人の口車に乗せられるまま、すでに父が援助してるにもかかわらず実家に大金を送ったり、大して必要もない高価な品を買い漁った……父が眉を顰めるほどに。

父は金に執着する方ではないが、無駄を嫌う人間だった。

母は父に叱責されたものの身についた浪費癖は直らず、また父に内緒で二重に援助を受ける事に味を占めた実家からもしつこく催促が続き、母は今度は父に内緒で公爵夫人の名で外部から金を借りるようになった。

当初は母も父に気づかれないようコツコツと返していたが、やがて払いきれなくなり公爵家に返済を求める手紙が届いて、父の知るところとなった。

当時私もアイビーも赤ん坊だったから詳しくは知らないが、呆れた事に私やアイビーの養育費にまで手を出していたそうだ。

父は激怒し一時は離縁騒ぎになったが、醜聞になる事、娘から母親を取り上げるのもどうかという事で何とか離縁は避けられたが、実家からの援助は大幅に減らされ、金の管理も父と執事がすべて行う事になった。

以来実家とは殆どやり取りはなく、母は常に父の顔色を窺うようになり父に意見を言う事は出来ても父の決定には逆らえないようになった。いや、父の機嫌次第では意見するだけでも叱責や手を上げられることもあった。

借金に関して正しいのは父だが、縛られてる母を気の毒に思うので責めることはできない。我慢をさせられるのは不満だが、愚痴を聞いたり宥めてくれるのも母なので恨むことも出来ず、正直複雑な気持ちだった。


母の部屋を出て自室に戻ると今度はメイド長のハンナがやって来た。

少し前から病弱な母の代わりに、私が家の中を仕切るようになった。これ以上私に負担を与えまいと母も使用人達も気を遣っていたが、家の中のトラブルは9割以上がアイビー絡みの為、母が床に臥す事が多くなり、結果として私が代理を務めるようになった。

「エリザベス様、恐れ入ります。あの…」

「どうしたの?」

尋ねると言いにくそうに切り出した。

「あの…アイビー様付きのメイドが辞めたいと言ってきて…」

「はぁ~」

思わずため息をつくとハンナが恐縮して謝って来た。

「申し訳ありません。ずいぶん引き留めたのですが…」

「いえ仕方ないわ、相手はアイビーだもの。それで今回はどのくらい保ったの?」

「8か月くらいでしょうか」

ハンナの返事に目を瞠る。

「ずいぶん保ったわね」

「はい、実家が借金を抱えていた子だったので。返済分が溜まったのでもう我慢したくないと」

「なるほど」

アイビー付きのメイドは他のメイドの3倍の給金だ。中々人が集まらず来てもすぐやめるので、給金を上げていったのが裏目に出たようだ。

「いかがいたしましょうか?」

ハンナが聞いてくる。

「嫌なものは仕方ないわ、口止めと…今までの分退職金は弾んで頂戴。あといつも通り募集もお願い。それと…メアリー、悪いけど暫くお母様のところに行ってちょうだい。事情を話せばお母様なら引き受けて下さるわ。アイビーが落ち着いたら戻すから」

「「かしこまりました」」

一礼して2人とも出ていく。

「はぁ…」

再びため息をつく。

アイビーのねだり癖や癇癪は私だけでなく周囲にも被害が及んだ。1番の被害は私だが、側付きのメイドもかなりの被害にあっている。そのため雇ってもすぐにやめてしまい、長続きしない。それだけでなく人が辞めるたびに「お姉様の側付きの方が多くて狡い」と私付きのメイドを自分付きにしようとするのだ。当然メイド達は嫌がるし、私も家族同様のメイド達をアイビーの元に行かせたくない。しかしアイビーが父に泣きつけば私もメイド達も拒絶できない。なのでそのたびに母の元に行かせている。最近の母は心労のせいか床に伏しがちになったので「母の世話に人手が足りないから」と言えば、アイビーも文句は言えない。仮に父に泣きついても、妙なところで病人にいたわりを持つ父に「病人をいたわる事も出来ないのか!」と逆に叱られるだけだ。

「お疲れ様ですお嬢様。いつものお薬です」

そう言ってメイドのマリーが薬と水がのったお盆を差し出す。

「ありがとう」

薬を取り水で流しこむ。

「ふぅ…」

一息つくとマリーが心配そうに見てくる。

「おいたわしいお嬢様…まだ12歳なのに心労で胃痛持ちだなんて」

「ありがとう…でも言わないで。余計落ちこむわ」

胃薬を飲んだばかりなのに、また胃が痛くなった気がした。




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