番外.欲張り令嬢の記録⑤
評価、ブックマークありがとうございます<(_ _)>長めです
「全く公爵家ではどういう教育をしてらっしゃるのかしら?」
「申し訳ありません」
私は頭を下げる。
目の前にいるのは先ほどアイビーにお気に入りの髪飾りを奪われた侯爵令嬢だ。
社交デビューを果たし、あちこちのパーティに出るようになってアイビーはますます増長していった。水を得た魚のように生き生きと、手当たり次第に他家の令嬢の品を奪い取っていった。結果、令嬢たちの間でアイビーの評判は瞬く間に地に落ちた。
そのたびに私と母が頭を下げる羽目になり、相手も公爵夫人と令嬢に頭を下げられてはしつこく怒る事も出来ず、怒りを収めざるを得なかった。しかし中にはお気に入りの品や思い入れのある品を奪われて、怒りが収まらない相手もいる。かといって公爵夫人の母にしつこく文句を言う事も出来ず、結果として年が近くアイビーの姉である私を探して不満をぶつけてくる。今回もそういうパターンだった。ちなみにアイビーは髪飾りを奪うと、もう用はないとばかりにサッサと立ち去った。
「まるで公爵令嬢というより泥棒ですわね」
「パーティに出てくる暇があるなら、再教育をなさった方がよろしいんじゃなくて?」
「お言葉重く受け止めさせていただきます」
令嬢の取り巻き達も追従してくる。
内心ウンザリだが非はこちらにある、ひたすら頭を下げるしかない。
「お姉様ここにいたの探したわよ…って、やぁだ何やってるの?」
そこにアイビーが戻って来た。奪った髪飾りを自慢しに来たのだろう。
「また何かやらかしたのね、まったく無能なんだから」
そう言って令嬢達に向き直る。
「この度は姉が失礼をして申し訳ありません。不肖の姉ですが、どうか私に免じてお許し下さいませ」
「「「は?」」」
侯爵令嬢たちがポカンとする。それはそうだ。
妹の不始末で頭を下げる羽目になってるのに、当の妹は「不始末を起こした姉を庇うけなげな妹」の真似事をしてるのだから。いやアイビーにとっては「真似事」ではなく本気でそう思っているのかもしれない。
(この様子では侯爵令嬢の顔も憶えていないようね)
都合の悪い事はすぐ忘れて、状況を自分の都合の良いように解釈する…さすがアイビーだ。
考えてる間もアイビーはお涙頂戴の台詞をベラベラと並べ立てている。
「もう結構ですわ!」
堪りかねた侯爵令嬢が遮るように言う。
それをアイビーはまたも都合よく解釈する。
「お許し下さるのですね、ありがとうございます。お姉様も優しい妹に感謝してね。お礼の品は後でいいわ、じゃあね」
一方的に言いたい事だけ言ってサッサと立ち去った。
後には私と唖然とする侯爵令嬢達が残された。
「あの…さっきは言い過ぎたわ、ごめんなさい」
「貴方も苦労してるのね…」
侯爵令嬢たちが態度を翻して謝ってくる。
嫌味を言われ続けるのもウンザリだが、同情の目で見られるのもいたたまれない。
今度こそ抑えきれなかったため息を気付かれないようそっとついた。
「それでね私がお姉様の代わりに謝って何とか許していただけたの。この髪飾りも相手の令嬢が『お姉様思いで優しい方ね』って下さったの」
晩餐の席でアイビーが都合よく盛った話を得意げに話し、父も満足そうに頷いてる。
「そうか、良かったなアイビー。エリザベス、お前ももう少し気をつけなさい。パーティに出るたびに何かしらやらかしてるじゃないか。このままでは評判に関わるぞ」
「…その言葉そっくりお返ししますわ」
「何だと!?」
「エリザベス!」
父が気色ばむが母が宥める。
「あなた止めて下さい、エリザベスも疲れているのでしょう。エリザベスも余計な事は言わないで頂戴」
「…申し訳ありません」
母を困らせるのは本意じゃない、ぐっと堪える。
「全く…お前が甘やかすからエリザベスの態度が悪いのだぞ。母親失格だ」
「申し訳ありません」
頭を下げる母に父も渋々怒りを収める。
(甘やかしてるのはどっちよ)
言ってやりたいが、また言い合いになっても母を困らせるだけだ。
やがてデザートが運ばれてくる。
「あ、お姉様の方が大きい!」
突然アイビーが隣の席で自分と私の皿を比べて言う。
途端に部屋にいる全員が顔を顰める…さすがの父もだ。
(また始まった)
アイビーが欲しがるのは私の持ち物だけではなかった。晩餐の時に自分の皿と私の皿を比べて「お姉様の方が量が多い」「私のより綺麗に盛られている」「私のより上等な皿を使っている」と言ってきては自分のと取り換えろと言うのだ。
これにはさすがに父も注意したが、癇癪を起こすだけだった。しかも質の悪い事に最近は母や父の言う事も聞かない時があるうえ、手もあげるようになってきた。この頃になるとさすがに父も「アイビーは子供だから~」とは言わなくなった。もっともそれで状況が良くなるわけでなく「アイビーは子供だから」から「アイビーに言っても無駄だから」に変わっただけで、私に我慢させるのは変わらないが。
とはいえ晩餐が始まってからこれでは行儀が悪く雰囲気も悪くなるので、アイビーの料理を見た目多めにしたり、言われる前に皿を取り替えたりしたのだが、そのたびに「お姉様の皿の方がいい」「私の料理をお姉様に渡そうとするなんて酷い、虐めだ」と癇癪を起こす。「どうせ欲しがるだろうから言われる前に取り換えた」と言うと「まるで私がお姉様の物を取り上げてるみたいじゃない、酷い!」とやっぱり癇癪を起こす。言葉には出さないが「実際そうだろう」と誰もが内心思った事だろう。
ハッキリ言って皆同じ皿を使ってるし、量が多いのも気のせいだし、盛り付けはまぁ多少はズレがあるかもしれないが、それとて数ミリ程度で殆どないも同然だ。そもそも同じ料理を4人分作って適当に出しているので、どの皿が誰に行くか決まってるわけではない。
結局欲しいのは物でなく「私の物を自分の物にする」「周りが私より自分を優先させる」という自己満足と優越感が欲しいのだろう。
皿を運んできた使用人が無言で皿を取り替えると笑顔で「ありがとう」と言い、私を見ながら「お姉様悪いわね~」といつもの優越感に満ちた顔で言ってきた。
やっとのことで食事を終えて部屋に戻ろうとすると後ろから「お姉様!」と聞きたくもない声がした。
思わず振り返るとアイビーが立っていた。
アイビーは一瞬こちらを見てニヤリと嗤った。
(しまった)
「お姉様、今人の顔見てしかめっ面したわね!人の顔見て嫌そうにするなんて失礼よ!慰謝料寄越しなさい!!」
(またか)
アイビーは物を取り上げるだけでなく、自分のお金が少なくなるとよくこういう事を言ってくる。曰く「人の顔を見て眉をしかめた」「ため息をついた」と言っては慰謝料と称して金銭を要求するのだ。おかげでこちらは息一つ自由に吐く事も出来ない。
仕方なく側にいたメイドに言って部屋から持ってこさせる。このままアイビーと一緒に部屋に戻れば手っ取り早いが、アイビーを部屋に入れたくないし、金銭だけでなく部屋の物まで取られるだけだ。
「何だこれだけ?少ないわねぇ。どうせ無駄遣いしたんでしょう?ま、頭の悪いお姉様なら仕方ないか。今度は私用にもっと残しておいてね」
そう言って取り上げたお金を持って上機嫌で去って行った。
「お嬢様大丈夫ですか?」
先ほどのメイドが心配そうに声をかけてくる。
「えぇ…大丈夫よ、ありがとう」
「お顔の色が良くないです、部屋で休まれた方が…」
「えぇそうさせてもらうわ、ありがとう」
そう言ってメイドと別れて部屋に向かう。
(あぁ胃が痛い)
呼吸もままならない屋敷の中で、唯一落ち着ける部屋に早く戻りたいと思った。
「ただいまマリー」
部屋に戻るとメイドのマリーが控えていた。
「お嬢様災難でしたね。大丈夫でしたか?」
「大丈夫よありがとう。上手く誤魔化せたわ」
「それは良かったです」
アイビーに渡したのはこういう時の為に分けておいた小銭程度の金だ。手持ち金の大半は別の場所に隠してある。
(これでしばらくはたかりに来ないだろう)
ひとまず嵐は去ったのでホッと息をついた。




