16.令嬢は微笑む
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今朝早く王宮からヘンリー元王子とアイビーが亡くなったという知らせが来た。とりあえず家族3人で城に向かう。
謁見の間では国王と側妃が憔悴した面持ちで玉座に座っていた、絶縁したとはいえやはり息子を亡くして悲しいのだろう。互いにお悔やみを言った後葬儀について話し合う。
本来ならばラッセル領で身寄りのないまま葬られるがそれも忍びなく、また絶縁した為公に葬儀を行えないので内密に遺体を引き取って城と公爵家でひっそりと行う事になった。
話し合いが終わった後「寄りたいところがある」と父に頼んで少し時間を貰った。
目的の場所に行きノックをすると「入っていいよ」と言われ入室する。
部屋にはルイス王子が疲れた面持ちで窓際に佇んでいた。
「あぁ…君か。いらっしゃい」
「殿下この度は…」
言いかけた言葉をルイス王子が軽く手を振って遮る。
「あぁいいよ、ここには誰もいないし畏まらなくて。人払いは完璧だし社交辞令を聞く気分じゃない」
「分かりましたでは改めて…ルイス王子、この度はヘンリー殿のご逝去…」
そこでいったん言葉を切る。
「心よりお喜び申し上げます」
「うんありがとう。君が寄越してくれたバカ女のお陰で疑われず邪魔者が排除できた…これで僕が王太子だ」
王子が「兄の死を悲しむ弟」の仮面を外しにっこりと笑う。
「天使様のお役に立てて光栄です」
私も晴れ晴れとした気分で笑いながら彼を見る。
(あぁやっぱりこの人は綺麗だ)
数年前書庫で初めて会った時と変わらない。
「君は初めて会った時もそう言っていたね…神様なんて信じてるの?」
苦笑しながら彼が言う。
「いいえ。でも必要だとは思います、現実に絶望しない為に。ルイス様は信じてないのですか?」
あの頃私は苦しみの中にいた。疫病神の妹と忍耐ばかり強要してくる両親に囲まれて屋敷の中で息をするのも苦しかった。だから令嬢教育の名目で父から城の書庫に入る許可を取った。
元々本を読むのは好きだったし、城の書庫ならアイビーも押しかけられず唯一の避難場所になった。
そうして何度目かの訪問で彼に会った。
お互いろくでもない兄妹を持つ者同士、距離が縮まり惹かれ合うのにさほど時間はかからなかった、だが公にはしなかった。明るみにすれば王太子の座はほぼ確実。そうなればヘンリー側も黙っていない…強硬手段に出るだろう。
せっかく今まで王位に興味ない態度をとって身を守りつつヘンリーを失脚させる機会を伺ってた彼の苦労が水の泡になる。それに当時婚約者のいないアイビーにルイスの事が知られれば必ず私から奪い取ろうとするだろう。
だから彼に会った時はアナスタシア妃にも会って噂が立たないよう気をつけた。だがそれが仇になって王家からヘンリー王子との縁談を持ちかけられた時は心底驚いた。そして決意した。
『互いの邪魔者を消そう』
その後すぐ私はヘンリーとの婚約を受け入れアイビーに引き合わせた。ヘンリーに会わせればアイビーはすぐ奪おうとするだろうしヘンリーもそれに乗るだろう。同時にルイスとも距離を置いた。ヘンリーの婚約者として注目されてる私がルイスと会い続ければ嫌でも噂になる…そうなれば2人は嬉々として私の不貞を理由に婚約破棄とルイスの継承権剥奪を申し立てるだろう。
「信じてないよ、機会も幸せも自分で作るものだ…こんな風にね」
そう言って引き出しから大きな箱を取り出して中を見せてくる…大きなダイヤの首飾りだった。
「さすが国宝、見事ですね」
「うん。全く父上ってばあの二人がいくら調度品を持ち出してもこっそり買い戻すばかりでまるで咎めようとしないんだから…お陰で貴族連中まで巻きこんだりこれまで持ち出す羽目になって大変だったよ」
「あの夜は心臓が口から飛び出すかと思いましたわ…いくら顔を隠して2人のフリをしてもあそこの商人は2人の顔馴染でしたからバレるんじゃないかと」
王妃の首飾りを持ち出したのはルイスだ。彼から呼び出しを受けて首飾りを見せられた時は文字通り飛び上がった。一歩間違えればこちらが追放だ。
「それでなくてもあの二人が売った品を覚えてたら自分達が首飾りを持ち出してない事に気づかれてましたわ」
覚えてるかどうかは怪しいところだが気が気じゃなかった。
ため息をつくと悪戯っぽく笑ってくる。
「スリル満点で楽しいデートだっただろう?」
「いろんな意味でドキドキしましたわ」
私の返答が面白かったのか彼はひとしきり笑った後首飾りをしまうと今度は小さな箱を取り出した。
「ずいぶん時間がかかったけどようやく君にこれを渡せる」
箱の中には私の瞳の色と同じサファイヤの指輪が入っていた。
彼は私の左手を取るとそっと薬指に指輪をはめる。私は嬉しさのあまりそのまま彼に抱き着くと彼も優しく受け止めてくれた。
「落ち着いたら父上に話してみるよ、王太子の承認と婚約式を同時に取り行えるように」
「はい」
抱き合ったままもう一度薬指の指輪を見る。そしてかつて言われた言葉を思い出す。
『お姉様は無欲ね』
『エリザベス様は謙虚でお優しいですわね』
その言葉に私は心の中で笑いながら本音を返す。
(いいえ私はもっと欲張りなの)
愛する人の願いは叶えたいし、愛する人と結ばれたい。寄生虫そのものの妹と縁を断ちたかったし、嫁いだ後空席になる次期公爵の座を妹に奪われるのも我慢ならなかった。散々私を傷つけ苦しめた2人に思い知らせたくもあった。
愛も権力も地位も富も人望も私のものにしたかった。
そして叶った。
そうして全てを手に入れた私は愛する人と抱き合いながら静かに微笑んだ。




