13.塞がれる逃げ道
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地面に座りこんだまま呆然とするアイビーを一瞥して今度はヘンリーに目を向ける。
「な、なんだ言っとくが俺はお前にたかったりなんかしてないぞ!」
たじろぎながらも反論するヘンリーに向かって微笑んで反撃する。
「そうですわね、貴方はたかってない…暴言と暴力をふるってただけですものね」
「う…」
目をそらして黙りこむがこの程度で済ませるつもりはない。
「貴方はいつも私を『地味女』と蔑んでは事あるごとに物を投げたり殴ったりしてましたわね…それも服で隠れる部分を狙って」
「………」
「そのたびに心も体も含めてどれだけ私が傷ついたと思います?」
脳裏に浮かぶのは初めて会った時の彼の姿。
天使のようだと思った。
私を救ってくれるのだと思った、導いてくれるのだと思った。
信じて進んだその結果が『今』だ。
「う、うるさいうるさい!俺の物をどう扱おうと俺の勝手だろう!?公爵令嬢風情が身分をわきまえろ!!!!」
癇癪を起こしてつかみかかろうとするが執事が取り押さえる。
腕を取られて地べたに這いつくばされる。
(いい格好を見られたから良しとするか)
そろそろ茶番を終わらせないと…
そう思った時ずっと座りこんでたアイビーが立ち上がり言葉を発する。
「嘘よ…嘘よ嘘!私が皆から嫌われてるなんてそんな筈ない!全部お姉様の嘘よ!!」
この期に及んでまだ現実を見ない元妹に呆れ返る。
「あらどうしてそう思うの?貴方この家にいた時散々我儘放題やって来たじゃない。それでどうして嫌われないと思うの?」
「確かに物をねだりはしたけどそれ以外では大人しかったわ、使用人にも優しくしてた!そんな私が嫌われるなんてありえない!!」
認めないというように頭を振って反論する。
「物をねだる以外大人しくしてた?お母様や私に暴力をふるった人間が?お母様はあなたの暴力のせいで床に伏せがちになったのに?」
「それは…お母様が私の言う事聞かないから悪いのよ、私のせいじゃないわ!」
「お母様が悪い?散々物をとられて拒否したのが悪いの?とる方が悪いんじゃないの?」
「それは…娘なんだからちょっとくらい貰ったって…」
目をそらしながらもまだ反論する。
「ちょっと?殆どのアクセサリーを奪うのが?お祖母様の形見やお父様が結婚記念に贈った物まで奪っていくのがちょっと?」
「そ、そんなの知ってたら引き下がったわ、言わないお母様が悪…」
「言おうとしても「娘なんだからいいでしょう!?大人しく渡さないと時間取らせた分慰謝料も要求するわよ!」と脅して何も言わせず奪っていく方が悪いんじゃなくて?」
「そ、それは…」
「それに『使用人に優しくしてた』って誰の事かしら?貴方付きの使用人からは気まぐれに振り回されては『主人の気持ちを察せないのが悪い』と言いがかりをつけられては持ち物や給金の一部を取りあげられた挙句何日も嫌味を言われ続けると散々苦情が来てたけど?」
「はぁ?何よそれ!」
心外だと言わんばかりに食ってかかるアイビーを無視して控えていたメイドの1人に声をかける。
「貴方確かアイビー付きだったわね、どんな被害を受けたの?」
「はい、お茶が欲しいと仰ったのでお持ちしたらお入れしてる間に「気が変わった、いらない。主人の気が変わるのを察せないなんて何て無能なの!おかげで紅茶が無駄になったじゃない!慰謝料払いなさい」と言って半月分の給金を取りあげられました」
他のメイドにも声をかける。
「他に被害を受けた人は?」
すると若いメイドが名乗り出る。
「はい、私は父の形見の懐中時計を『ちょっとくらい良いじゃない、逆らうならお父様に行って解雇するわよ』と脅されて奪われました。半年後『飽きた』と言って返された時には壊されてました。奥様とエリザベス様に相談したら代わりに謝って下さって修理代も出していただけたけど、お2人に注意されたアイビー様は旦那様に『お2人に虐められた』と虚偽の報告をして旦那様に叱られる2人を見て笑ってらっしゃいました」
「な!」
「お前そんな事してたのか『姉や母親に虐められてる』なんて言って騙してたのか!お前のせいで俺は王子の地位を奪われて城から追い出されたんだ!!」
「何よ!アンタが借金作るから悪いんじゃない!私のせいにしないでよ!」
「お前のためにやったんだろうが!」
「頼んでないわよ!」
「言う事がそれだけならもう用は済んだわね。お客様のお帰りよ馬車までお送りして」
私の言葉に執事と控えていた使用人達が2人を馬車まで強引に引っ張っていく。
「ま、待て!俺が悪かった、謝るから」
「待って!せめて私の物を返して!」
アイビーの言葉に首をかしげる。
「貴方の物?城に移る際に置いて行った物の事かしら?」
「そ、そうよ!今は公爵家の物でも元は私の物よ!持ち主に返すのが筋でしょう!?」
(どの口が言うんだか)
使用人達も呆れた目で見ている。
拒否しようと口を開きかけて…気が変わった。
「確かにその通りね…そこの貴方アイビー付きだったわね…アイビーの物だけ持ってらっしゃい」
こちらの言う事を察したようで無言で頷き屋敷に向かう。やがて少しして両手に鞄を持って戻って来た。
「お待たせしました」
そう言って差し出された鞄を受け取りアイビーに渡そうとする。
「はい貴方の荷物よ」
しかしアイビーは受け取らず渡された鞄を見て激昂する。
「嘘よ!これだけの筈ないわ、今までもらった物とかもっといっぱいある筈よ!」
「あぁそれらは入れてないわ。だって貴方『私の物』と言ったでしょう?奪ったり脅し取ったものは『貴方の物』じゃないでしょう?」
「な!そんなの屁理屈だわ、前は人の物でも現在の持ち主は私なんだから私の物よ!」
「あらそう、じゃあこれもいらないわね」
そう言って私が鞄を持ったまま踵を返そうとするとアイビーの怒声が響いた。
「ちょっと待ちなさいよ!どうしてそうなるのよ!?」
「だって今あなた自分で「現在の持ち主に所有権がある」と言ったじゃない。だったらこの持ち物も貴方が奪った物も全て管理していた公爵家に所有権があるわ。貴方に返す必要はないわね」
「そんな!私は何やってもいいのよ」
「そんな勝手な理屈はもう通じないわよ。貴方はもう平民で絶縁して私達と何の関係もない。身分にものを言わせる事も、妹なんだから家族なんだからと理不尽な理屈をごねて押し通す事もできない。甘やかしてくれるお父様もここにはいない。自分の言動の責任は自分で取る事ね」
「そんな…お願いお姉様助けて、家族でしょう?」
「普段見下して奴隷扱いしておいて助けてもらう時だけ家族呼ばわり?」
「……」
「貴方の選択肢は2つよ。大人しく奪った物を諦めて自分の物だけを持ってラッセル領に戻るか、あくまで自分勝手な理屈を振りかざして何も持たずに戻るか。さぁどっちにするの?」
「それは…」
困り果てた顔でアイビーがヘンリーを見た後こちらを見る。
ヘンリーも縋る眼でこちらを見るが助けるつもりはない。
「決められないならこちらで勝手に決めるわね?」
そう言って鞄を持ったまま背を向けると焦った声で止められる。
「待って!……私の物だけ持っていくわ、鞄を頂戴」
私の助けがない事をようやく悟ったのか鞄を受け取った後2人は馬車に押し込められラッセル領に戻っていった。




