10.側妃の失敗
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「どうしたものか…」
玉座で陛下が頭を抱える…またもヘンリーが原因だ。
お茶会の事件以来言い聞かせても相変わらず人を見下すのは変わらない。
最近では教師や側付きのメイドに突っかかりルイス王子には装飾品を投げつけたりしている。今日もルイス王子に花瓶を投げつけた(向こうはあっさり躱したそうだが)らしい。
「申し訳ありません。私の育て方が悪かったばかりに…」
思えば社交にばかり目を向けてヘンリーとは殆ど交流がなかった、もっと気を配るべきだった。
「いやそなたのせいばかりではない、儂も政務にかまけて殆ど顔を合わせなかった」
疲れた表情で陛下がこちらを気遣う。
(本当に情けない)
本来なら側妃は補佐的存在、ましてや今は正妃がいない状態なのだから私がその分陛下を補佐しなければならないのに逆に気遣われるなんて…
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。自分がこれほど子育てが下手だとは思わなかった。
唯一の救いは「ヘンリーは1人で生きていくのは無理だろう」と陛下が味方になって下さったことだ。
「嘆いていても始まらない。ヘンリーの性格を直しつつ補佐してくれるよい伴侶を見つけねば…」
「はい…」
「そなたも疲れただろう部屋に戻って休むと良い…何か良い考えが浮かんだら教えてくれ」
「はい失礼します」
そう言って退出する。
私室へ戻りながら考える。
陛下はあぁいったが見つかるとは思えない。
ノワール侯爵令嬢の件は和解したものの当然ながら婚約話は流れたし、茶会事件の事はあっという間に広がりどの貴族家に話を持ち掛けても断られる始末だ。
当然だ。いくら王子とはいえ非のない令嬢に暴力を振るうような男と誰が一緒になりたいものか。
王命で押し通せば成立するだろうが同じ女として暴力男と令嬢を添わせるのは躊躇われるし、理由なしでは「権力をかさに着ている」と貴族の反発を買う事になる。
(せめて何か理由があれば…)
「「あ」」
顔を上げると黒髪の地味な娘と目が合った。
娘が慌てて頭を下げ礼を執る。
「あらごめんなさい考え事をしてて気づかなかったわ。貴方は確か…」
見覚えがあった。確か5大家の…
「失礼いたしました。グローリア公爵が娘エリザベス=グローリアと申します。側妃様にお目に掛かれて光栄です」
「そうだったわね」
グローリア家は5大家の中で唯一の中立だ。
当主は人づきあいが良く顔が広いが、令嬢の評判は悪いと聞く。
(見た限り礼儀も完璧だし…そうは見えないけど)
恐らく黒髪のせいだろう。
黒髪は珍しい上陰気な印象を与えるので貴族の中で嫌うものも多い。顔立ちは整ってる方だと思うが黒髪の印象が強くあまり目立たない。
生まれは良く能力もあるのにイマイチ運に恵まれない…私に似ていると思った。
共感できる反面、自分の不運を目の前に突き付けられてるようで筋違いと分かってもちょっと嫌な気分だった。
その後適当に会話をして彼女と別れた。
しかしその後も城で何度かグローリア嬢と顔を合わせた。
「ねぇ、あの子何をしに来てるのかしら?」
自室に戻った後、側付きのメイドに聞いてみる。
つい先ほどもグローリア嬢と鉢合わせして少し話をしたばかりだ。
「一応は城の書庫にある蔵書が目当てで通ってるそうですが」
「書庫?…あぁ」
そういえば彼女と会うのはいつも書庫の周辺だ。
「勉学に熱心なのはいいことだけど他に理由があるようね」
「いくつか噂があるんですが…家族と上手くいっておらず家にいたくなくて通い詰めてるとか、城にお目当てがいるとか…」
「お目当て?」
予想外の内容に目を瞠る。
「…ヘンリー様目当てで通ってるのではないかと」
「なんですって」
正直驚いたが心当たりはある。
前からよく会うが最近では手土産まで渡すようになった。妃の私に気を使ってるのかと思ったがヘンリーが目的だとしたら納得がいく。
しかし母親の私が言うのもなんだがあの子のどこが良かったのだろう?私なら女を殴る男などいくら身分が高くても絶対ごめんだが。
「まぁ世の中いろんな趣味の女性がいるという事でしょう」
こちらの考えを見透かしたようにメイドが言う。
「まぁ…そうね」
噂でしか聞いた事がないが殴ったり殴られたりするのが好きな人間もいると聞く…世の中は広いという事だろう。
そこまで考えて閃いた。
(そうだわ!あの子ならヘンリーの伴侶にいいかもしれない)
5大家の令嬢を婚約者にすれば王太子の座はほぼ確実。礼儀はまぁまぁだし大人しそうな感じの子だから将来私が王太后になって政務に口を出したとしても揉める事もないでしょう。
彼女が好意を持っているのなら陛下を通して縁談を持ちかけても「橋渡しをしただけ」で貴族の反発を買う事もない。正直あまり顔を合わせたくない相手だが他に候補もおらず妥協するしかない。
唯一の問題はヘンリーが何と言うかだが「王太子になるため必要な事だ」と言えば承知するでしょう。
考えれば考えるほど最良の相手に思えてきた。
(早速陛下にお伝えせねば)
ここ一番の悩みが解決した喜びで上機嫌で謁見の間に向かった。
陛下にお伝えすると陛下も喜んでグローリア家に話を持っていった。
すぐに承諾するかと思ったが「少し考えさせてほしい」という返事が来た。
(まぁ仕方ない)
娘の気持ちがどうあれ親としては暴力男と結婚などさせたくないだろう。他の貴族ならともかく5大家に無理は通せない…待つしかない。
時間がかかるかと思ったが娘が説得したのか数日後、承諾の返事が来て婚約が成立した。
ヘンリーが「あんな地味女と」と愚痴っていたが「王太子になるためだ」と言えばしぶしぶ了承した。
(これで将来は確実ね)
長かった夢が確約された喜びで胸がいっぱいだった。
数年後ヘンリーが今の婚約を破棄してグローリア家の次女と再婚約したいと言い出すまでは。
(また面倒を持ちこんで)
ヘンリーの話を聞いた時陛下と2人ウンザリした気持ちでいっぱいだったが、やはり親として息子の願いを叶えてやりたいという気持ちがあった。
ヘンリー曰く「同じ公爵令嬢なのだからどちらでも構わないだろう」という意見に折れた。
思えばこれが最大の過ちだったのだ。
まさか「評判の悪い娘」が妹の方だったとは…
まさかあれほど我儘で頭のおかしい娘だったとは…
物思いから意識を戻し目の前の2人を見やる。
先ほど陛下からこっぴどく叱られたにもかかわらず懲りずに陛下に罰を取り消させてくれ、無理なら私に割り当てられた予算を自分達に回してくれと騒いでいる。
深くため息をつく。
(これが私の限界だったのね…)
結局私には運とそれ以上に人を見る目と子育ての能力が無かったのだ。
夢は終わった。あとは自分の過ちを清算しなければ…
もう一度ため息をつきながら母として側妃としての役目を務めた。




