9.側妃の憂鬱
ブックマーク、評価ありがとうございます。
(私は間違えた)
目の前でわめきたてる息子とその婚約者を見てつくづくそう思う。
幼い頃から私は優秀だった。それは周囲も認めることで私に期待を寄せていたし私も得意になっていた。
もっと様々な事を学びたい、もっと自分の力を発揮したい。
自分の能力すべてを出し切って大きなことを成したい、国を動かすほどになりたい。
それがいつしか将来の夢になった。
しかし運には恵まれなかった。
私は確かに優秀だったが我が家にはすでに兄という跡取りがおり、私に跡継ぎの座が回ってくる事はなかった。兄が無能だったら兄を押しのける事も可能だろうが、あいにく兄もそこそこ優秀で娘よりは息子が優先された。
それならそれで構わない。
代わりに私は別の目標を立てた。
(正妃になろう)
正妃は国王の補佐として時には代理として女性でも政治に口を出すことが出来る。
幸い我が家は5大家、正妃の資格は十分だ。
それからは正妃を目指して勉強にも社交にもさらに磨きをかけた。
しかしまたも運に恵まれず正妃になったのは同じ5大家のケリー=ハミルトンだった。
内心歯噛みした。
能力では負けてない筈なのにどうして運に恵まれないのか。
彼女が王家に入った時は一晩中部屋に閉じこもって悔し泣きした。
その翌年能力を評価され私は側妃になった。
後宮に入った私は内心を押し殺しながらケリー妃に従い国王に尽くした。
その甲斐あって王とケリー妃は私に信頼を置き政治等の相談も持ちかけるようになった。
(これはこれでいいかもしれない)
望んでいた形とは違うが2人を通して国を動かせてる。
側妃になってから数年。少しずつ心の折り合いをつけてきた。
そんなある日私は懐妊した。
そして同時に淡い期待も湧いた。
(もし生まれるのが男児だったら…もしこのままケリーに子ができなければ…)
側妃は正妃と違い国王の代替わりで役目を終える。だがもし私の子が王になれば…
役目を終えた側妃は子がいない場合褒章として爵位や領地を賜り女領主もしくは女貴族となる。娘のみを生んだ場合は表舞台には立てないが王女と共に城に住み暮らすことも可能だ。どちらでも将来は保証されるがやはり私は国を動かせるだけの権力が欲しい。
しかし数か月後ケリー妃懐妊の知らせに落胆することになる。
手を下すことも考えたが良心が咎める上に国王も周りもバカではない。
今ケリー妃とお腹の子に何かあれば真っ先に疑われるのは私だ、そして側妃は国王の気持ち1つでいつでも追放できる脆い地位なのだ。
(もしケリーが流産すれば…あるいは女児だったら…)
望みの薄い期待を持ちつつ出産の時を迎えた。
結果として私の望みは半分叶った。
私とケリーはそろって男児を産んだ。しかし私は生きケリーは難産で命を落とした。
チャンスだと思った。
ケリーには悪いが王太子の座は継承順だけでなく貴族の支持や本人の能力で決まる。
本来ルイス王子の後ろ盾となるべきケリーはいない。
代わりにハミルトン公爵家が後ろ盾になるだろうが側妃の私には及ばない。
(私が社交を頑張って貴族の支持を増やせば…)
それからは必死に貴族に働きかけヘンリーの支持を増やした。
ヘンリーにも幼い頃から「お前は王太子になるのだから」と言い聞かせて自覚を持たせた。第一王子の教育には言うまでもなく最高の教師がつけられていたので私は安心しきっていた。
それがそもそもの間違いだった。
最初の間違いに気づいたのはヘンリーの婚約者を決める為のお茶会だった。
茶会に侯爵令嬢他数名の令嬢とその親を招き、和やかな雰囲気で進んでいたが突然怒声が上がった。
慌てて駆けつけるとヘンリーがノワール侯爵令嬢を馬乗りになって髪を引っ張ったり顔を殴ったりしてるところだった。
あまりの事に唖然とした。この子は何をやってるのか。
周囲の子供達も止めたくとも相手が王子だけに止められないようだ。
「やめなさいヘンリー!」
そこでようやく我に返り止めたもののヘンリーは不満げで令嬢はヘンリーに殴りかかろうとしたが侯爵が必死に止めてた。
お茶会はお開きになり侯爵親子には改めて謝罪と相応の処罰を約束して返した。
「ヘンリーどうして令嬢を殴ったのだ?」
騒動を報告するためヘンリーを連れて謁見の間に行くとすでに耳に入っていたのか陛下に問いただされた。
「だってあの女俺に口答えしたんですよ?俺は王太子になるのに」
「「は?」」
耳を疑った。この子は何を言ってるのか…
「あれっ聞こえませんでした?俺は王太子になるんだから俺との縁談は光栄でしょう?だから女達に「俺との縁談を持ちかけられただけでも光栄に思え、婚約が決まったら俺に誠心誠意仕えろよ」と言ったら生意気にも「婚約者は奴隷ではありません」と逆らったんです、父上厳罰を与えて下さい」
当然という顔でヘンリーが言う。
この時初めて私は育て方を間違ったことを悟った。
結局この時ヘンリーは謝罪と2か月の謹慎を言い渡された。
その後私は何度もヘンリーに「王族だけで国が成り立つわけではない、貴族の協力も必要なのだから過剰に見下すのはやめなさい」と言い聞かせたがあまり効果はなかった。




