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「えっ?」
『私、芸能人になりたいの。どうしてもなりたいんだ』
このとき、スマートフォンではなく、セカンドバッグから取り出したシステム手帳を開き、ボールペンを片手に、スケジュールをチェックしていることに、
「変なとこで古風なんだな」
といぶかしながら、多分そんなような事を言った香奈恵におれは、おどろきと疑問をこめてそう返したのを覚えている。
ここは著名人御用達の隠れ家的イタリアンレストラン。
彼女を上座に座らせ、おれは今、香奈恵の前に向かい合って座っている。
香奈恵はテーブルの下にこういう格式のある店には用意されている布の荷物入れにデザインがしゃれていてくどくない革のセカンドバックを入れて席についたあと、
店員に誘導された席は、窓際で、両隣は壁ではないがとても大きな西洋風のカーテン調の布地で仕切られており、他人の視線が気にならない配慮がくばられている。
さすが、著名人御用達。・・・・・・
「ごっほん」
、、、、、、。
それはさておき。窓からは町をてらすきらびやかなネオンの光が輝いている。よしやれる。このムードで。あわよくばやれる。よこしまなきもちがふたたび翔をおそう。
店員にオーダーを伝え、食前酒のワインで乾杯して一息ついたところである。
そして香奈恵がいったのである。
「私、芸能人になりたいの」
と。われに返り、翔はあらためて香奈恵の顔を見てこう思う。
「モデルか芸能人みたいだ。芸能界にいてもおかしくない。」
某アイドルグループのなかに紛れていてもなんの違和感もないと。彼女ならなれるかもしれないと内心思いながら、
「でもやだな。おれだけが独り占めしたいとの欲も出る。」
その感情をとりあえず隅に置いて、おれは香奈恵に動揺からかすっとんきょうな突拍子もない質問を投げ掛ける。
「ずいぶんと古いポールペンを使ってるんだね」
と。答えを返してくる香奈恵。
「あー、これ、私のお気に入りなんだ。愛着あっていまだに手放せないでいるの」
『ふーん』
と言って、ここでようやく冷静さと落ち着きを取り戻したおれは、なんとなく質問を続ける。
「なんで芸能人になりたいの?」
香奈恵が返す。
「お金いっぱい稼いでおとうさんとおかあさんをしあわせにしてあげたいの。たくさんたくさん恩返しがしたいんだ、わたし」
この言葉を聞いておれは泣きそうになる。
今時なんて純情な子なのだろうと。めからうろことはこの事だ。
だから芸能人になれればいいのにと本気で思った。そのためにおれに出来る事はなんでもしよう。
協力しよう。がんばれ香奈恵。そしておれは、言葉にして彼女にこう伝えた。
「信じる者は救われるだよ。おれも応援するから。ファイト。オー!!」
『はは。それ、本気で言ってます。翔くんっておもしろい。ほんと、ウケます』
と言って、言葉どおり、ケラケラとせせら笑う。
感じなんて悪くなくむしろ心地良い笑いだった。
とても楽しくて心地よくてこの2人の時間がいつまでもつづけばいいのにと、
・・・・・・・・・・・・
本気でそう思った。