10. 無愛想な使者
「〜あの、お客様でないのならどうぞお引き取り下さい…?」
丁寧にいったのだがキッパリスッパリその人は、それは出来ない。と言う。…はぁ、困ったなぁ。内心そんな事を思っていると、彼女はまた言葉を続ける。
「俺は、ディリアの使者だ…ディリア様のことは知っているだろう…?」
ディリア様の所に連れて行く。そう言った彼女に少し莉丁亜は心中で溜息をつく。
(本当面倒な客…)
「ディリアは知ってます…で、でも、無理です。ここの手伝いをしなくてはいけないし。それに…」
そこで、少し言葉を区切って少し莉丁亜は睨んだ。
「…貴方が本当にディリアの使者か証明できるの?私は、不審人物についで行くほど不用心じゃないよ。」
そう言ってもう貴方と話す事はないとばかりに奥へ引っ込もうと、踵を返した莉丁亜の腕を彼女は反射的に掴んだ。
この間、マスターは素知らぬ顔を続けている。
随分、諦めの悪い人だ…明らかに莉丁亜は嫌な顔をして振り返る。
「…なんですか。お引き取り下さい。」
2度目の拒絶に諦めたのか、彼女はああ、と返答を返した。
「確かに証明出来ぬ…。賢いな…、分かった、もう無理に連れて行こうとはしないでおこう。」
莉丁亜の腕を掴んだ手を離すとじゃ、と手を挙げてさっさとドアへ向かっていく。
「…どーも。」
ドアが開いて、パタンとどこか空っぽい音で閉まった。
(や、だってーそんな急にディリアの使者だとか、ついて来いとか…ねえ?)
「…」
「…マスター、ちょっと休憩もらうね」
莉丁亜は足早にドアノブを掴むとカウンターの向こうでコップを磨くマスターに声をかけた。
「…あいよ。」
バタバタ、マスターの返答の聞く間も惜しんでバタンと飛び出して行ってしまった少女を、少し呆れ顔でマスターは見ていた。
「…まぁねぇ。頑張ってみてよ?莉丁亜ちゃん。」
(おひとよしなんだから…)フッと笑うと、マスターはまたコップを磨き始めた。