0. 陰と陽それぞれの神
えぴろーぐ
暗い闇の底は、私が生まれた場所だった。
何故なら、私が陰を呼ぶから、そんな神として生まれたから。
だからか、生まれながらにして独りぼっちでいる闇の中を私は漂っていた。
いつしか私の黒髪も手も足も闇に溶けてしまったのでは無いか?
そんな疑問を光の見つからぬ底で。
何処までもこの闇は終わること無く続いている。
ーそう思いながらー
けれど、其の闇の中に突然、光は降り注いで。私と良く似た珠を持つ、けれども私とはまるで違う彩を放つ光を纏った少女と共に。
…少女と目が合った。
そして一目見て悟った。
「貴女は…私の妹…?」
其れを聞いた少女は、愛らしい目を和ませて笑った。
「うん、きっとそう。宜しくね、お姉様。」
少女が此方にそう言って笑いかけると、まるで闇が薄れて行くように感じた。私が終わらないと思ってた闇が。
少女が差し出した右手を掴むと温かさが沁みてきた。この少女が私を闇から掬い上げてくれたのだ。
「私はディリア。思うに私たちは、神に生まれた双子…双神なのではないの?もしそうなら私たちは二人で一つの神。どちらか片方も欠けてはいけない存在の貴女に逢えて嬉しい。」
「ええ、私も逢えて嬉しいの。双神の役割を二人で担っていきましょうね。お姉様、私は貴女の妹なのだけれど、ディリアって名前で呼んでもいいのかしら…?」
首を少し傾け、肩にかかるかかからないかの長さの銀髪が揺れた。そんな少女は余りにも可愛いらしい。
少女とそっくりで髪も黒髪と銀髪という違い以外は同じの私がこの仕草をしたとしても、こんな愛らしくならないだろうなぁ。とディリアは思った。
「勿論、呼び捨てで呼んでいいのよ。」
少女の左手が私の髪に触れた。掴んでいた右手もいつの間にか離され髪をそっと撫でている。
と、どうした事かディリアの黒い髪は少女が触った先から白…銀色に変わってゆく。今やディリアの髪は黒では無く立派な銀髪だった。
「…?、!まさか…‼︎」
ディリアははっと何を思ったか慌てて少女の髪をみた。
思った通り少女の髪は銀髪だったのが、黒髪が銀髪になったディリアとは反対に銀髪は黒髪になっていた。
それが何を意味するか…神であるディリアにはわかってしまった。ディリアの陰の力を少女が引き受けてくれたのだ。(陰の力が髪を黒くさせてる…?)
「私は陽を持つ神らしいの。だから陰を持つディリアを助ける役目なの。…でもね、役目とか関係無くディリアが陰の力で苦しいなら助けたい、って思うわ」
だから気にしないで。少女はそう言う。(気にするわ…そんなことしなくていいのに)
「…まだ名前聞いていなかったわね、私の妹。」
髪を撫でていた手が止まる。少女は困りきった顔で此方を見た。
「私ね、名前を貰わなかったの。きっと生まれるはずでなく、必要として生まれた神だからな気がするけれどね、別にいいのよ…。」
私はすっと少女の髪に手を伸ばした。
「ーなら、私が授けるわ。」
双神としてふさわしい名前を。
伸ばした手で髪を掬うと、そのまま神の気と力を吹き込ませて少女の髪を結う。名前というのはとても大切なものだからこそ、新しい名前が少女のものとなるように。その名前と少女を私、ディリアという神の力で縛って、離れないように。
「リティア。」
新しい名前を聞くと少女ーリティアは嬉しそうに笑顔でいた。
私は誓ったのだ。少女の名前を縛ると同時に少女を守ろう。闇から掬い上げてくれた少女を、ずっとー。
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