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悲しみの人魚は黄金の瞳に囚われる  作者: 水野沙彰


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プロローグ

 透き通った青い海が日の光を受けて輝き、空との境界を曖昧にしている。白い砂が敷き詰められた浜辺は幻想的で、そこに訪れる皆の目を楽しませていた。


 パントゥス王国は、小さくも豊かな島国だった。純度の高い真珠や翡翠と、珊瑚や貝の工芸品が特産で、国民は皆海の恵みに感謝しながら自然と共に生きていた。争いを好まない国民性は、建国の祖である初代王家に由来すると言われている。

 当時の王家もまた穏やかな気質の人物が揃っていて、友好国とのささやかな貿易と観光で国を富ませていた。若い国王と王妃には子供が五人いて、末の娘はまだ八歳だった。幼いながらも柔らかな白金の髪と淡い藤色の瞳が印象的な姫は天使のように愛らしく、皆に愛されて幸せに暮らしていた。





 そんな王国が一日にして滅んだという知らせは、世界中を震撼させた。

 海を領域とするならず者達が手を組み、その富を狙って一夜のうちに一斉にパントゥス王国へ上陸、暴虐と掠奪の限りを尽くし、王族も一人残らず捕らえてしまったのだ。

 王族や国の重鎮達が王城前の広場で順に見せしめのように殺されていく中、最後に残ったのは最も幼い姫だった。身体を固定され、青い空に汚れた刃が鈍く光る。愛していた美しい海と真白な砂は血で穢され、大切な国民達は何人も殺され、残った者はこの国から逃げ出した。大切な家族も目の前で命を奪われていった。目の前が真っ暗で何も見えない。幼い姫は両目を閉じ、未来を諦めた。

 ぽたり、と落ちた涙が、硬質な音を立てて大地に吸い込まれることなく転がる。今にも落とされようとしていた刃が、姫の首に触れる前にぴたりと止まった。





 それから一年も保たず、美しかったパントゥス王国は廃墟と化した。あの日やってきたならず者達は自然を蔑ろに己の利益ばかり追い求め、それまで王国を支えていた豊かな海の恵みは潰えてしまったのだ。


 そして彼等が去った荒れた王国跡は、十年経った現在、研究者のみが訪れる遺跡となっている。

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