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日常の文学シリーズ

おっさん、神に祈る

日常の文学シリーズ14(なろうラジオ大賞 投稿作品)

 建物の中は閑散としている。人が少ないということもあるが、施設内の独特な雰囲気が余計にその場を音のない場所にしていた。

 先ほどまでは文庫本などを読んでいたが、文章の上を視線が上滑りしていくようで、全く内容が頭に入ってこなかったので、あきらめてポケットにしまった。

 することがないので、時計を見つめる。規則的な音を立てながら一秒に一めもり動く秒針を凝視していると、時間が引き延ばされたような感覚に陥る。なにも考えないようにすればするほど不安があふれてくる。自分の過去の行いを振り返り、反省と自責の言葉が次々と頭の中に浮かぶ。その言葉は普段の自分からは想像できないほど弱々しく、情けない言葉であった。

 

 私の人生は正しかったのか?

 正しさは自分で決めるなんて息巻いても、こんな状況に追い込まれたらすぐに不安になってしまう。

 結局自分をだましながら生きてきただけじゃないか?

 自分の都合のいい解釈だけをしてきただけなんじゃないか?

 いや大丈夫。自分はまだマシなはず。

 同僚のあいつなんて暴飲暴食繰り返してひどい体形だ。

 あんな奴でも生きてるんだから。

 …ほら見ろ。また都合よく考えてる。

 その怠惰と惰性のツケは確実に溜まっているんだ。

 どうしよう。知らない間に手の付けられない状態になっていたら。

 どうしよう。死の宣告を受けたら。

 鼓動が早くなる。息が上がる。

 待っているのが苦しい。

 いっそ早くとどめを刺してくれ。

 いやちょっと待て、今のなし。ほんとは刺されたくない。

 早く結果が知りたい。いや知りたくない。

 神様。神様。かみさま。

 ごめんなさい。ごめんなさい。

 今まで馬鹿にしてごめんなさい。無視してごめんなさい。

 これからはあなたの言う通りにするから。もう二度と逆らわないから。

 野菜もちゃんと食べるから。運動だって毎日するから。

 どうか私を救ってください。どうか私を導いてください。

 不安が最高潮に達したとき、自分の名前が呼ばれた。審判の時がきた。

 ああ…神様。


「ちょっと肝臓の数値高いけど、まあ大丈夫でしょ。一応飲み過ぎに気を付けてね~」

 

 神様は白衣を着た小太りの男だった。

 診断結果というご神託をうけ、私は心が洗われるような気持ちになった。


 ああ、神様、ありがとう。


 これで今日はおいしい酒が飲めそうだ。


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