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番外編SS『星の下のやくそく/後編』

前回の続きです。

 


 シャルティエは、寝付けないクリストファーを連れて自分の部屋に招くなり、半ば強引にベッドに腰かけさせた。されるがままに座ると、それを確認していそいそと何か準備を始めた。


「何をしているんだ?」

「うん、ちょっとまってね……。あ、ベッドの上にあがっててね」


 起きている事がわかると叱られてしまうかもしれないと小声で声をかけると、シャルティエはベッドの天蓋のカーテンの紐を解いてクリストファーとベッドの中心部分へと移動すると突然横になった。


「これ……」


 クリストファーは習うように横になれば、視界に入った天蓋ベッドの天井に目を奪われた。


「すごいでしょ? よるのかぜはからだにさわるからって、ここにほしぞらをつくってもらったの」


 シャルティエのベッドの天井には、まるで満天の星空のような絵が描かれていて、宝石が散りばめられているせいか、カーテンの隙間から入る月明かりでキラキラと輝いている。

 むくりと起き上がったシャルティエが、上から顔を覗き込んできて小さく首を傾げた。


「クリスさまは、そとのよぞらとどっちがすき?」

「……ぼくの住んでいるところは、少しあかるいからあまりこういう夜空はみたことないんだ」

「そうなの?」


 横になっていたクリストファーも上半身を起こすと、並ぶように座り直しながら改めて頭上の夜空の絵を見やる。二人で絵を見つめていると、不思議と自分だけがここにいるような気分になってきて急に不安な気持ちがこみ上げてくる。

 ふと思い出すのは、自分がシュトアール家の実の息子ではないかもしれないという不安だ。

 生まれた時期を計算して、不思議に思う何も知らない使用人の心ない噂話が耳に入ってからはずっとそれを気にしている。


「夜空ってずっとみていると、さみしくなってこないか?」

「そう? わたしはねー……」


 思いがけないことを問われてか、きょとんとしたシャルティエは少しだけ考えたあと、桃色の髪をひと房とって指に絡ませながら少し唸った。少し悩んだあと、向き合うように身を乗り出してにっこりと笑った。


「わたしは、いまクリスさまとよぞらをみれて、ぜんぜんさみしくないよ!」

「ぼく?」

「うん! だれかとみてるのをしってるから、ひとりぼっちじゃない。それに、もしここにわたしだけでも、クリスさまも、スティも、グラムもなかよくしてくれてるから、どこにいてもさみしくないよ。」

「……そっか」


 窓の隙間から入り込んだ夜風が天涯のカーテンを揺らし、廊下の方から物音がした。


「もしかして、ぼくがいないことに気付いたグラムが探してるかもしれない」

「そっか……。ねえ、クリスさま」


 カーテンを避けてベッドから降りようとしたクリストファーの腕を掴んで呼び止めるとどうしたと振り返る。


「……もし、さみしくなったら、わたしのことおもいだしてね。こまったときは、わたしをたよってね」

「っ! ……んっ、ありがとう」


 妹のエストアールにするように、シャルティエの額にちゅっとキスをしてから頭をくしゃっと撫でると、少しだけ頬を赤らめて照れくさそうに頷いたが、すぐに言いにくそうに視線を落とした。


「どうした?」

「もし、わたしがこまったときがあったら……」


 先程までの積極的な態度はどこへ行ったのだろうと、少しだけ笑うと、今度は頬にキスをした。


「もちろん、ぼくを頼っていいから。ほかのみんなも」

「うん、やくそくね!」


 微笑み返せば、シャルティエも安堵してにこりと笑ったあと頬にキスを返した。そのあとすぐにクリストファーは部屋を出て言って予想通り心配して探しに来てくれたグランツと部屋へ戻っていった。

 シャルティエは、ドアの隙間から二人がちゃんと部屋に入っていくのを確認してから改めてベッドへ潜り込んで、シーツに少しだけ残っているぬくもりに包まれて眠りについた。





 最終日、朝から不思議と早く目が覚めたシャルティエは、侍女に見送り用に身なりをちゃんと可愛く仕上げてもらい、庭で花を摘んでいた。一人でどうしてもやりたいからと頼み込んで、庭には一人だけ。

 きっと花を摘んでいる間に、一週間の思い出がこみ上げて泣いてしまうかもしれないから、父の辺境伯とも「泣かない」と約束もしてしまった建前、それを見られるわけにも行かなかった。

 そんな姿を誰にも見られたくなくて、今にも泣きそうな自分を押さえ込むように下唇を噛み締めながら一生懸命見送り用の花を集めていると、クリストファーとベッドで横になったことを思い出して、少しずつ胸がドキドキとしてくるのを感じた。


「あれ……? わたし、びょうきになっちゃったのかな……」


 とくとくと早くなっていく胸に、そっと手を当てて深呼吸をする。

 その瞬間、夏風がふわりと通り、その瞬間頭の中にビリビリと何かが駆け巡った感覚に目に溜め込んでいた涙も流れてしまった。

 しかし、それは寂しさの感情から流れたものではなかったが、そのシャルティエはここから破滅の道をたどった。





 あれから十数年、結婚をしてから数年が経過していた。

 いろんな事があり、幼い頃のシャルティエはもう存在しない。そんな事を考えながら、伯爵邸の執務室の椅子に深々と座り一息ついた。


「……〝困ったら頼れ〟……か――」


 アヤカから、シャルティエの過去話を聞いて思い出した事を不意に口に出した。誤解もあって、年月が過ぎて忘れ去られた約束だったが、それは一体どんな意図があったのだろうと大人ならではの深読みをしてしまう。

 幼い頃の話だから、きっとクリストファーからなにかを感じて言ったのだろうと言い聞かせるようにしたあと、用意してくれた紅茶を口にすると、いつもと違うフレーバーに気づいて確認するように再度口に含んだ。


「――気付きました?」

「……アヤカが入れてくれたのか?」


 この紅茶を持ってきた妻のシャルティエは、ふわりと笑みをこぼしてティーポットを持ち上げて「私のオリジナルブレンドです」と付け足した。


「ちょっと……」

「……はい?」


 手招きをして呼ぶと、ティーポットをワゴンに置いてゆっくりと歩み寄ってくれる。こういう素直なところは、昔のシャルティエを思い出させられるが、クリストファーからそういう話題を振ってもアヤカは嫌な顔をひとつもしない。それどころか嬉しそうに聞くのだ。

 彼女自身、以前自分がシャルティエの記憶を取り戻した際に宿主の記憶を尊重したいと思っていたようで、最初は前世の名前をこの世界で使うこと自体ためらっていたようだ。

 呼ばれて目の前に立つ妻の腰に腕を回して引き寄せると、腹部に顔うずめた。


「え……?!」

「はぁー……、疲れた」


 唐突すぎるスキンシップに困惑するアヤカだったが、癒しを求めての行動かと理解するとぽんぽんと頭を撫でた。


「私に出来ることでしたら〝頼ってくださいね〟」

「……ぷっ、ははは」

「私は、二人のシャルティエの記憶を持っているんですよ? すごくないですか?」

「そうだったな……はぁ……笑い過ぎた」


 抱きついたまま笑って肩を震わせていると、アヤカはクリストファーの銀色の髪を撫でた。


「今夜は流星群が来るそうですよ? 一緒に見ませんか?」

「流星群?」

「はい。さっき、スティから手紙が届いてそう書いていました。流れ星がたくさん見れますよ」


 ドレスのスカート部分に特注で付けてもらった脇ポケットから便箋を取り出して開いてみせると、それに目を通した。

 子供を産んでからは、自ら育児をすると申し出て子育てと王妃の勉強を同時進行で行っているせいで、何かと休まらない日々が続いているという報告と、天文学を専門とする学者の予想で今夜あたり流星群が来るかもしれないから夜に空を見てみるといいと書かれていた。


「なるほど」

「クリス様、お願いがあるんです」

「珍しい、君からなにか頼みごとをするなんて」


 顔を傾けながらおねだり混じりに言うと、嬉しそうに手を引いて膝に横向きに座らせ頬に手を添える。


「私とも、星空の下でなにか約束ごと作りませんか?」

「それはいいな、何を約束しようか夜までに考えておこう」


 そう言って唇を重ね、指を絡めた。



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・アヤカ

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・グランツ

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・グレイシア姉妹

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・マーニー

・マルシェ

・ホース


学園長を入れるのすっかり忘れていました。笑


検索ワード

「悪役令嬢の親友ですが彼女を助けます!」

「桜望」

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