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ブクマ300件突破記念感謝SS『伯爵様と街でまったり報酬デート』

 私は今日、このフリューゲルス王国の王都の街並みや、行き交う人々を遠い目をしながら見つめ、そして目の前に立つ見知らぬ男二人に絡まれていた。


「なぁ、お前どこかの令嬢なんだろ?」

「はい、まぁ一応……」


 あれ? 辺境伯って伯爵より上の位だったよね? なんて思い出しながら曖昧に返事をする。


「金持ってんだろ? 少し分けてくれや」

「えぇ……」


 何を漫画の一節みたいな定番の台詞を述べているのだろうと呆れてしまう。

 客観的にその光景を適当に返事を返して人を待っているのだが、もちろん相手はクリス様だ。、彼は、仕事の関係者に捕まってしまって少し離れた場所で話をしている。

 かくいう私は、彼らの邪魔にならぬよう離れた場所で待機していたのだが、それが運の尽き。変なチンピラというか、ゴロツキに絡まれてしまった。


 ――面倒だなぁ……。


 ふぅっと、露骨に溜息を吐くと男二人は不機嫌そうに表情を歪めた。

 そもそも、私とクリス様が街をうろついていたのには一週間ほど前まで遡らなければならない――。







「……あーもう! クリストファー様、この男ホース。引き受けたからには、この役目きっちりこなしますよ!」

「私は、お手柔らかにお願いします……」


 私とホースは、生徒会室で横に並んで座り、テーブルを挟んだ先に座るクリス様と向かい合い、そして先日行われた学園祭の腕自慢大会で優勝した彼の願いを聞き入れるためにその指示を待っていた。

 しかし、腕を組んだまま私の顔を見るなり何かを悩んでいる様子で、ホースは何を勘違いしたのか体を張る勢いで胸をどんと叩いてそれはもう清々しいほどドヤ顔を決めている。


「クリス様、決まっていなければ別に今日じゃなくてもいいんですよ?」

「いや、決まっているけど正直……」

「正直……なんですか?」


 ゴクリと固唾を飲んで、神妙な面持ちと緊張混じりな声色で問いかけるホース。そろそろ彼のクリス様に対する熱いキャラが見てられない。なんて言ったらまた涙目になるだろうから敢えて言わない。

 クリス様の事だから、私が彼の事が嫌いだと言うと本当にこの生徒会室を出禁にしかねないから、そうなると私に仕事を押し付けられる可能性を想定して口が裂けても言う気にはなれなかった。

 しばらく間をためてから、整った顔がこちらをじっと見た。


「正直ホースに頼みたいことなんて、何もない」

「うわっ」


 つい声に出てしまった。慌てて、両手で口元を押さえる。


「……え? 俺、もしかして何もしなくていい感じですか?」

「それはそれで、なんだかな。せっかくだから、グラウンド千周でもしてくるか?」

「えぇー!?」


 マーニーとの一件から生徒会室の人たちはホースへの風当たりが厳しいが、無視をしたりそういうことはしないのが彼等らしいとは思う。とはいえ、私だけ願い叶えて〝あのホース〟が何もないのは私も同意なわけで……。

 出来れば、彼になにか無理難題ふっかけて私は自由の身だとありがたいのだが、なんて言ったらクリス様になんて言われるか分かったものではない。


 ――それよりなにより、クリス様が私に何を頼むのか楽しみにしているスティとクルエラが心底がっかりするだろうなぁ。


「そんな体育会系みたいなのやめましょうよ……。俺、ほら……文系だし?」

「そういえば、ホースは文系だったか……見えないな」

「ホースのくせに文系とか嘘でしょ……」


 ぼそりとボヤくマルシェは、レンズのない眼鏡のブリッジを指で持ち上げて位置を正す。それをじとりと睨むだけで、突っかからずにクリス様の方へ向き直った。


「クリストファー様はなんでも出来るからいいですよねー」

「いや、僕は普通に人並みだから」


 クリス様の成績は、グラムと並ぶほどだから彼の言う〝人並み〟というのは信用してはいけない。絶対にだ。

 そして、ホースが文系なのは本当だ。彼は実は文芸部に入っている。

 チャラいくせに、間違いなく文芸部なのだ。しかも読書家だったりもする。あの見た目で。

 正直、そういうチャラい部分を霞ませるような設定が好きじゃなかったりする。不良が改心する方がいい印象を持たれやすいああいうレベルの効果が気に入らない。


「はぁ……」

「シャル、君は今度僕と二人きりで出かけようか」

「……え? 今ここで、何かするわけじゃないんですか?」

「シャルは、一体何を頼まれると想像していたんだ?」

「え!? い、いえ……なにも……」


 くすくすと人の事をからかって面白げに笑うクリス様に、恥ずかしい思いをしながら首をブンブンとちぎれんばかりに振った。

 変な妄想でもしていたのかと誤解されてしまったかもしれない、だとしたらなにか弁解の言葉をと考えたが、言い訳くさくなると思い止めた。


「ところで、どこへ出かけるんですか?」

「そうだな、学園の外に出掛けたのは前に文房具を買いに行った時以来だからあまりゆっくり回れなかったし、来週末にでも街を回ろうか」

「良いですね! 私も、あまり街に出掛けたことがないので行ってみたいです」

「じゃあ決まりだ」


 そうこうして、私とクリス様はデートの約束が決まったのだが、私が願いを叶えなければならないのに、こちらまで一緒になって楽しんでしまっていいのだろうかと少し悩んだ。

 その日の夜、スティにクリス様と出掛ける約束をしたと報告すると、とても嬉しそうに少しつり気味の目をキラキラさせながら喜んでいた。

 本当に彼女が、この『せかうる』の世界で悪役令嬢だったのか疑わしいほどに可愛い。


「お兄様と街へデートなんて素敵ね! 何をしたか教えてちょうだいね、あぁ楽しみだわ」


 なんで当の本人じゃない貴女がはしゃいでるんだ……。喜々としてはしゃぐスティを横目に、ふと思った事を口に出す。


「ねえ待って? 私は腕自慢の優勝の報酬なんだけど、これって何してあげたらいいんだろう? 一応今回のでーと……? それも、私が楽しんでしまうとあまり意味がないような気がするし」


 横に並んだベッドに向かい合うように座りながら、私は枕を抱きしめ顔を埋めほてる顔を隠しす。

 煮え切らない気持ちでモヤモヤとしていると、スティが隣に腰掛けた。気配を感じて顔を上げると優しく頭を撫でられた。


「ふふ、不安がるシャルも可愛いわ。こういう時だけは本当に乙女で……」

「茶化さないでよぉ。私、結構本気で悩んでるのに」


 ぷくっと両頬を膨らませて不服を訴えるが、そんなの効果はなく人差し指でつんつんとつついてくる始末だ。その手は優しく頬に添えられて、こてんと首をかしげた。


「大丈夫よ。お兄様は……たぶん、当日何かお願いしてくれるわ」

「そうかな?」


 頷くスティを信じて、当日までに着ていく服を選んだり、髪型をスティに考えてもらったりした。クルエラやジャスティンにまで話が回ってしまい、女子勢に色んな意味でもみくちゃにされながら準備が進み、約束の日となった。





「――そして、今に至るんだけど」


 つい月並みな事を言ってしまった……。

 いや、朝にクリス様が迎えに来てくれて、街に出て歩いて露店で買い食いしたりとすごい絵に描いたようなデートをして楽しんでいたのだが、冒頭通りクリス様は捕まって話をしているため、邪魔にならぬよう離れたらこんな事になっている。


「おい、何か言ったか?」

「何でもありません。仮に、何かあっても貴方に言うつもりはありません」

「なんだと!?」


 私が、つい反抗的な態度と言い方をしてしまったばかりに煽ってしまった。

 今にも突っかかってきそうなゴロツキの兄貴と呼ばれた男は、私にずかずかと近づいてくるが、それを素直に掴まれるわけもなく、服が汚れてしまうことを覚悟してしゃがみこみ回避して、隙ができたところで逃げ出そうとした時だった。


「……来るのが遅れた僕も悪いけど、ソレは流石にどうかと思うな」

「クリス様!」

「なんだお前っていだだだだだだ!!」


 流石に、漫画のように鬼気迫る瞬間に助けが来ないのが現実だななんて思っていたところで現れるこの人は、やはりタイミングが若干ずれている。これがリアルタイムと言うものだろうか。

 しゃがみこんだまま、おそるおそる声のする上を見上げると、なんとクリス様があのゴロツキをひねりあげていた。


 ――え? この人そんな強いの?


 驚きのあまりに目を見開いたまま見つめていると、ゴロツキ達は定番の「覚えてろよ」と言い残して逃げていってしまった。


「すみません。ありがとうございます」

「いや、僕がちゃんと断ればよかったんだ。待たせてごめん」


 そう言って、引いて立ち上がらせてくれた手は少しだけ冷たくなっていた。

 もしかしたら、慣れない事をしてしまったのだろうか。だとすると、普通に声を上げて呼べば良かったかもしれないと優しく握り返した。


「クリス様、もしかしてドキドキしていますか?」

「まぁ、あんなに大柄な男をひねりあげたりなんて普段しないから緊張はしたかもしれないな……」

「はは、ご心配をおかけしました」


 軽く頭を下げて謝ると、ぽんぽんと頭を軽く叩かれて「無理はしないように」と注意をされただけでそのまま歩き始める。


「そういえば、護身術なんて習っていたんですね」

「あぁ、グラムと王宮で一緒に習ったんだ。まさか、本当に使う日が来るなんて思わなかったけど」

「私は、滅多に見れない一面が見れて嬉しかったです。本当に、助けてくれてありがとうございます」


 雑談をしていると、街並みを眺めながらクリス様はなにか目的を持って歩いているようで、それにわざわざ行き先を尋ねずについていく。

 すると、たどり着いたのは仕立て屋だった。入店する前に、ちらりと手を繋いだままの彼を見上げると、視線に気付いたのかこちらをみて小さく首を傾げた。こういう仕草や癖は、妹のスティとそっくりだ。


「とりあえず入ろうか」

「はい」


 よくわからないまま仕立て屋の中へと連れて行かれて、まさか服を買えということだろうかと自分の財布事情を考えてそんなに持ち合わせがあるだろうかと考える。……いや、絶対クリス様が私に金銭的なたかりをするなんてあり得ないのだが。


「さっきしゃがみ込んだ時に服が汚れたから、着替えて貰おうかと思って」

「え? あぁ、本当ですね……」


 先程、咄嗟にしゃがみこんだせいで裾が少しだけ砂で汚れていた。

 両親が用意してくれた私服の中の一つだが、歩いているだけであればそこまで気にならない程度だが、先程の一件でクリス様は少し気に病んでいるようだ。


「でも、そこまで気にならないですし大丈夫ですよ」

「……じゃあ、僕がシャルに服をあげたいだけだからって言ったら?」

「それは、〝お願い〟ですか?」


 これが首をかしげて尋ねれば、少しだけ考えてにこりと笑った。


「……違う、これは僕のお詫びだから気にしなくていい」


 そうきたかと、これ以上男性の申し出を断ると失礼に当たるため、渋々クリス様が選んでくれた服に着替えた。


「……クリス様こういう服が好きなんですか?」

「あぁ、よく似合うよシャル」


 クリス様が選んだ服は、グリーン地にブラウンのストライプが入ったワンピースだった。少し大ぶりの白い襟がついていて全体的にチョコミントだ。襟部分に少し太めのサテンのリボンが付いていて可愛らしい。裾部分にもレースが付いていて女子感の強い服だ。

 くるりと一周回って見せると、クリス様は満足げに頷いて私の姿を見ていた。傍らで店員も嬉しそうに笑っていて、そこまで嬉しいものだろうかと不思議な気持ちになった。


「えーっと、ありがとうございます……?」

「シャルがそれを着てくれただけで嬉しいよ」


 ――ん? なんだかそれって……。


「クリス様、この服――」

「ほら、行こう」

「え? えぇ、は、はい……」


 半ば強引に手を引かれて店を出ると、先程まで気持ちがいいほど天気が良かった空は少しだけ雲行きが怪しく、歩いていると雨が降りそうだから近くにあった雰囲気のいいカフェに入って雨が降る前に休憩をすることになった。






「今日はあまりタイミング良くないな」

「そうですか? 私は色んなハプニングがあって楽しいですよ」

「捉え方次第だな」


 カフェの店内は木造建築で落ち着いた雰囲気の内装だが、流石は日本が作った世界なだけあって、窓は全面ガラスになっていて外がよく見える。


「それに、このカフェも気に入ってしまったので入ってよかったです」

「ならよかった」


 くすくすと笑いながら、注文したものが店員によってテーブルに並べられた。

 晩餐には、クリス様が連れて行きたい所があるからと胃袋の加減もしなければならないため、私はレアチーズと紅茶を注文し、クリス様はサンドイッチとコーヒーを頼んでいた。

 甘い物はグラムやスティが好きすぎるあまりに、クリス様はそれに当てられてなかなか口にしない。時折作る私のお菓子は喜んで食べてくれるが、それも色々思考を凝らしているため食べてくれる。甘さ控えめというやつだ。

 それぞれ口をつけていると、外は突然急に激しい雨が降り出した。


「……ある意味、いいタイミングでしたね」

「そうだな、この雨だと少しここに居ることになりそうだな」

「少しおはなしして待ちましょう」


 雷が鳴り、激しいゲリラ豪雨に見舞われながらも、私とクリス様は他愛もない話をしてお茶をしていると、何かに気づいたクリス様は私の方へ手が伸びる。そっと唇を親指でなぞり、ぞくりと体が震えて急に顔が熱くなる。

 俯き気味に視線を落とすと、クリス様は笑いをこらえてその親指をぺろりと舐めた。


「少しだけ、ケーキの破片がついてた」

「い、言ってくださいよ……」


 人が見ているというのにお構いなしである。周りが、どんな反応しているかなんて気にしたら顔を上げられなくなった。


「……シャル」

「今度は何です……か」


 クリス様に呼ばれて、今度はどんな意地悪をされるのだろうとうんざり気味だった私は、そのまま促されるまま顔を上げると指をさしていた先に目をやる。すると、先程まで荒れていた天気は晴れていた。

 上を覗き見ると、ゆっくりと色付く多数の色のついた自然現象の掛け橋。


「わぁ、虹ですね!」

「これは良いハプニングだったな」

「はい!」

「……それじゃ、そろそろ出ようか」


 ゆっくり立ち上がると、手を差し出してくれていつの間にか会計も済まされておりそのまま店を後にした。

 虹がかかった空を見ながら、街を散策したり夕食は美味しいディナーもご馳走になった。どうやら知り合いのお店だったようで、以前から顔を出して欲しいと言われていたこともあって私を誘ってくれたのだそうだ。

 普通のワンピースなのに、ドレスコードは問題なかったのだろうかと気が気じゃなかったが、そこまでかしこまった店じゃなかったおかげで事なきを得た。


 ――そもそも、このお店に行くのにドレスコード無視した物は選ばないよね……。







 気分良く帰ったあと、部屋では女子勢が待ち構えていて、一日の事を振替しながら報告をすると、みんなが口を揃えて同じことを言って肩を落とした。


「……本当に、シャルってトラブルの神様にとりつかれてるわね」

「ひ、ひどい……」


 結局、クリス様になにか特別な事をしないまま終わってしまったが、後日その話をすると「もう叶えてもらってる」と言われてしまい、何かしたかなとずっと延々と考えさせられたのだった。

 クローゼットから不意に取り出した、あの時のワンピースをみてクリス様の台詞を思い出して一人で笑った。



 結局、ホースにはしばらくクリス様の仕事の代行を全て押し付けられたのだった。




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