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2019/08/26 校正+加筆

 


 ――学園祭の腕自慢大会後、午後六時に差し掛かっている。

 時計の時間は、間違いない。

 横たわる視界から見える十月の秋に入りだからなのか少し薄暗く、しかし、まだ明るさが微妙に残っていて、遮光ように付けられた黒いカーテンの隙間からでもそれは分かった。

 それが、まだかろうじて私の精神を平常にさせていた。

 手首の位置に紐のような物で縛られていて身動きが取れないが、幸いな事に手前だから何かあれば物を取る事は出来そうだ。

 しかし、足は縛られているからアクティブな行動が出来ない。

 幸いな事に、物音を立てることは出来そうだ。


「……そもそも何でこんな事に」


 一年生のあのお化け屋敷の中で、私は手足を縛られ寝転がっていた。

 いや、縛られたのはもう結構前の話なのだが……。





 それは、今から一時間前の事だ。

 講堂で、腕自慢大会が終わったが、後から現れた手品を得意とする生徒が遅刻して現れたのだ。

 そこで、景品は与えられないが披露する場を作ると手品好きの生徒は喜んで行った。

 ただ、大技をするのに私は手足を縛られて箱へと押し込められ、私を消すという物だったが、手品と言うのは箱の後ろに逃げ場を設けてそこから抜け出して、『はい、居ません』とする物が大概なのだが、なぜか私は中で突然眠くなり気付くとここに居た。


「よりにもよって何でここなの……、これって転移魔法とか言うやつ? ……でも、魔法を使えるのは学園で学園長とクロウディア――?」


 そこまで考えて、クロウディアを呼んで助けて貰おうと声を出そうとすると口を開けると、学園祭の終了を合図する花火が鳴り響いた。


「クロウディア……! クロウディア! 助けて!」


 花火の音に負けないように声を張り上げて呼ぶが、物音一つしない。

 もしかして今日に限って不在なのだろうか。

 それとも何かトラブルに巻き込まれて、こちらに気付いていないのかもしれない。


「はぁ……、困ったなぁ」


 日の入りで、少しずつお化け屋敷の教室は暗黒に近づいていく。

 視界が見えなくなっていく状態に、次第に焦りから私の心拍数は少しずつ早まり始めた。


「っ……、だれか……!」


 声を上げるが、教室内に響くだけでひと一人こない。

 本能的に暗闇を拒絶する私にとっては、理由が分からなくても避けなければならない状況である事はすぐに理解できる。

 それなのに、暗くなっていく視界に過呼吸が起きて呼吸が浅くなる。

 息が苦しくなる。くるしい。

 肺に酸素が入っていくような感覚が無く、死ぬかも知れないという不安感で涙が浮かんでくる。


 ――こわい……暗くなっていく……、見えなくなっていく……、早く誰か私を見つけて……!


 目から流れる涙を拭う事も出来ず、苦しげに身を丸めた。


「なん……で……っ」


 体が震えて、拠り所のない気持ちは、頭の中で何かが駆け巡る。


「やだ……思い出したくない……おもい、だしたくない……こわい……っ!」


 頭の中にふわりと上がってくる記憶。

 黒い髪の誰かに怯えるような少女が見える。

 ……これは前世の記憶だ。

 今までシャルティエの記憶で殆ど自分の前世の記憶は曖昧になっていた。

 それに、過去の記憶は過去なんだからもう思い出さなくていいと思っていた。

 正直、心のどこかで〝思い出したくない〟そう思っていた。

 それなのに、こんな突然に、前触れもなく、心の準備も与えないまるで強制的に思い出させようとしてくるような感覚は何なのだろう。


 ――こんな事、私は望んでいないのに……!


 トラウマは時に、フラッシュバックとして嫌な記憶を起こす事がある。

 不意に起きたこの状態を待ち構えていたかのように、私の脳はズキンズキンと脈打つように痛み、息が出来なくて怖くて誰でもいいから助けて欲しいと願う気持ちとは裏腹に現実は誰も来ない。

 きっと、後夜祭のダンスパーティーの準備で寮に戻ってしまったのだろう。

 頭の中がぐちゃぐちゃになり、気持ち悪くなって吐き気もする。

 息苦しくて、声も出ない。

 気を抜くと気を失いそうになる。

 このまま死んでしまうかもしれない。


「やだ……や、だ……いやぁ……!」


 もがいて体をよじらせて暴れると、全身から汗が吹き出す。

 ベタベタとする体の不快感で、私の精神はもう限界だった。

 私はそれに耐え切れず、薄れていく視界から目を閉じて現実から目を逸らし意識を手放した。


「くりす……さ……っ」


 私のひとしずくの涙は、教室の床にぽたりと落ちた。



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