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2019/08/25 校正+加筆

 


 翌朝、寮から出るとクリス様とグラムが玄関口で待っていたようで、私達の姿を認めると片手を上げて一緒に行こうと示す。

 まさか待たせていたとは露知らず、小走りで駆け寄ると「慌てなくていいから」と笑われて小っ恥ずかしくなった。


「お、おはようございます。いつから待っていたのですか?」

「今来たばかりだ。気にしなくて大丈夫」

「おはようございます。グランツ様、お兄様」

「おはよう、スティ」


 にこりと愛想よく笑うスティの隣にはグラムが立ち、先に歩いた。

 私も、それに続くように後ろからクリス様と並んで歩いていると、クリス様が「あぁそうだ」と思い出したように足を止めた。


「昨日のお弁当、美味しかった。ありがとう、ごちそうさまでした」

「いえいえ! お口に合って、本当に安心しました」

「今度は僕だけに作って欲しいけど」

「えっ……?」


 さり気なくどころか真っ直ぐ魔球を投げてくるクリス様に、とてつもない速さで長身の彼の顔を見上げると、朝日に照らされてそれはもう絵になるイケメンが「シャルの作ったお弁当」と言って聞き違いじゃない事を確信して、気恥ずかさから俯いて小さく頷いた。

 私達の会話を聞いていたのか、グラムが振り返って口角を上げて意地悪気な表情をする。


「クリスにやる前に俺が味見をしてやる」

「グラムはスティにでも作って貰えばいいだろ?」

「……お前、冗談だろ」


 この反応からしてどうやらスティは、お茶を入れる事は出来るが料理は今ひとつのようだ。


 突然私のお弁当戦争みたいな物が勃発している所を、そそくさと避難して来たスティが隣を歩く。

 二人の光景を面白おかしく見ていたスティは、料理が下手であることを気にした様子はない。

 私が隣に来た事により、むしろそっちのけで両手で鞄を持っていたうちの片手をこちらに差し出して「行きましょ」と小さく首を傾げた。

 私はあまりの神々しい女神さに、額に手の甲を当てると天を仰いだ。


 ――だめだ、女神すぎる……!


 親友の美しさと可愛さに惚けている場合ではないと、差し出された手を握り仲良く歩き出した。

 後ろではグラムとクリス様が学園に到着するまで続いていた。

 仲が良いのは良い事だ。うんうん。





 教室へ入り席に着くと、私の席にクラスメイト達が囲むように集まってくる。


「シャルティエ様!」

「は、はい……!」


 昨日、突然休んだから心配でも掛けさせてしまっただろうかと、囲まれた困惑を拭いきれないまま返事をすると、女子生徒が私の手を握った。


「私達は、シャルティエ様の味方ですわ! 学園の幽霊に襲われて沢山の事故に遭われて昨日は寝込んでいらっしゃったのでしょう!?」

「……へ?」


 何を言い出すのかと思えば、どこから降って出た話なのか分からない話に突然同情されていた。

 私は目を見開いてどういう事なのだと、隣の席に座るスティに助けを求めてみるものの、わざとこちらを見ようともしない。


 ――……女神と思ったのは、気のせいだったかもしれない。


 無慈悲な女神に見捨てられて、心の中で嘆きながらわらわらと集まる生徒達を見上げた。


「お騒がせしてしまい、申し訳ございません。ただ、少し疲れていただけですのでご心配なく。……それに幽霊なんて非科学的ですよ」


 いや、魔法がある時点でもう非科学的を超越してたわ。

 しかし、そこは見ないふりした。


「ですが、私見ましたのよ! 昨日、屋上で物音がしましたの……あそこは立ち入り禁止で誰もいないはずなのに……」

「……え? 屋上?」


 私は、代表として延々と話す内容に覚えがある気がして申し訳ない気持ちになった。


 ――それ、ランチタイムの一件のものでは……。


 クロウディアにはくれぐれも人が入らないようにして欲しいとは頼んだが、まさか遮音までは出来なかったとでも言うのだろうか。

 そりゃあ、ホラーチックな風に見られてしまってもおかしくはないだろう。

 ただ、彼女も何故階段上がって確認しようとしなかったのだろう。

 それとも人払いの魔法が発動していると、音は感知するが確認するという行動までに発想が行き着かないという事か?

 あるいは、怖くて近寄れなかったかだろう。こちらの方が濃厚そうだ。

 ただ、七不思議みたいにして今回の一件が片付くなら、それは都合がいいかも知れないと思い、口元を手で隠してにやりと笑った。


「すみません、実は隠していたのですが……そうなんです」

「やっぱり……!」

「得体の知れない物がこの学園に居るみたいで、でもこんな話なかなか人には出来ないでしょう? だから、貴方達がそれに気づいてくれて嬉しいです……」


 わざとらしく手を震わせて、目の前の女子生徒の手を握って弱々しく微笑むと、その場の生徒が顔を真っ赤にして「困った時は言ってください!」と手をブンブンと振られた。

 天然ヒロインならここで『皆さん風邪ですか?』って言う所だろうか。

 なかなか演技派な事が出来たと自負して満足そうにしていると、クラスメイト達は「私達もシャルティエ様をお助けしますから!」と口を揃えて申し出てくれて、これはとんだ小悪魔になってしまったと後悔した。


 ――これ、クリス様と婚約したって知ったらどうなるんだろう?


 そう考えるとマーニーの一件を思い出してぶるりと体が震えた。

 下手な事を言わないでおこうと、胸にしっかり刻み込んだ。

 隣で聞いていたスティは、他人事だからなのかにっこりスマイルでこちらを見ていた事に気付いたのは囲っていた生徒が散り散りになってからだった。


「……シャルも結構自分のことは無頓着ね」

「え? 何か言った?」

「何でもないわよ」


 スティの独り言が聞き取れず尋ねるが教えてくれなかった。


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