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2019/08/25 校正+加筆
翌日、私はスティを見送った後に入れ替わるように窓からカラスの姿で現れたクロウディアを部屋へと招き入れた。お茶の用意を済ませると、クロウディアは人の姿になっており、ソファにくつろいでいる姿を見て少し和んだ。
「呼び出してごめんね」
「いいえ、シャルティエ様に招いて頂けるなんて光栄です」
「最近私のこと避けているのに?」
向かい合うように座りながらカップに紅茶を注ぎ込みながら言うと、目を見開いて驚いているようだった。
そんなに意外だっただろうかと、見つめながらカップを渡すと「あ、ありがとうございます……」と動揺を露骨に出しながらその返事は返ってきた。
そして、自分のカップを見つめながらぽつりと呟いた。
「私は、クロウディアが男でも仲良くして欲しいんだけどね。それが何か都合が悪いなら仲良くするのも控えるよ」
「わ、私は……!」
ガチャンと、手に持っていたカップをソーサーに荒々しく戻しながら言葉を荒げた。
クロウディアがここまで感情的な反応を見せるのは意外で、今度は私が目を瞠った。
まずい事を言ってしまっただろうかと、少し申し訳ない気持ちを抱えながら俯いてしまうと、向こうはあわあわと狼狽した。
「ごめんね。私、自分で聡い方だと思っていたんだけど……ベルンリア領に帰省する時にお世話になったから迷惑かけ過ぎたのかな」
「え!? ち、違います! そうではなくて、話を聞いてください!」
「クロウディア……?」
一生懸命否定するクロウディアに、私は口を挟まず顔を上げて見つめた。
ようやく喋る事が出来ると安堵したのか、一度深呼吸してまた私の顔を見据えた。
「シャルティエ様がお察しのとおり、私クロウディアは、オスのカラスです。ただ、心は女なのです!」
「……へ?」
淑女あるまじき顔になっている事は重々承知しているが、今だけは許して欲しいと神にも懇願したい。
私は口をあんぐりと開けて、片手にはティーカップとソーサーをそれぞれ持っていて正直誰にも見せられない程のみっともない光景がそこにはある。
自分でも分かっている。
でも、それだけ驚いたのだ。
「つまり、クロウディアは同性あ――」
「はい! そうなんです! だから……、オスだと気付かれた時に変に思われないかと」
「い、いや……その辺は別に偏見もないけど。普通に驚いただけ」
ソーサーをようやくテーブルに置いて、もう片手で持っているカップを口に運んで紅茶を飲んで気持ちを落ち着ける。
あの一件からミルクティーが飲めなくなった為、ストレートティーだ。
私が嫌われているとか、そういう事ではなくて本当に良かったと心底安心した反面、向こうも私に距離を置かれないようにしていたのかと思うと、とんだすれ違いだと笑いが出る。
「ははは、それなら良かった。これからも前みたいに仲良くしてね」
「それは、もちろんです!」
「クロウディアは……じゃあ、男性が好きって事なの?」
直球ではあったが、そのままのノリで少々不躾な質問をしてしまうと〝彼女〟は気にした素振りもなくこくりと頷く。
前も思ったが、細かい所を見なければ殆ど美少女で日本人形のようだ。
中性的な顔立ちが、どちらにでも取れそうだが黒い髪が長く美しいから見目麗しいとはこういう事を言うのだろうかと一瞥する。
「あぁ、でもどちらでも大丈夫ですよ」
「ぶっ」
「あぁ、服が汚れますよ」
爆弾発言を連発する才能でもあるのだろうかと、驚きのあまりに口に含んだ紅茶を吹き出してしまった。
テーブルに少しだけかかってしまった紅茶を、サッと手早くテーブルを拭くためにおいていた布巾で拭いてくれた。
少々申し訳ない気持ちを隠しながら「両刀なのかぁ……」と呟くと、妖艶な笑みでこちらを見た。
「だから、シャルティエ様お相手でも私は喜んで――」
「きーこーえーなーい」
「えぇー! 聞いてください!」
頬を膨らませて、不服そうにテーブルを軽く叩いている彼女は愛らしくて私もで分かる〝あざとい〟と。
決して悪い意味ではないが、男が見たら間違いなく手を出してしまうだろう。
私には、クリス様も居るから変な誤解だけは回避したい。
見た目も中身も女性だが、わざわざ部屋の扉を開け放つ必要はないと思っていたが、少々身の危険を感じて部屋の扉を開けるかどうか悩んだ。
しかし、窓から侵入している彼女が誰かに見つかったら間違いなくお咎めが私に来るだろう。
色んな考えを押し殺して、話題を今回の本題に切り替える事にした。
「クロウディアは、今回の事についてどうして教えてくれなかったの?」
「教えても良かったのですけど、クリストファーが下心が少しでもあるなら出来る限りシャルティエ様に近寄らないで欲しいと言われまして」
彼女は本人が居ない事をいい事に呼び捨てにした。
それに対しては、気にする事なく話題を続けた。
「クリス様が?」
「凄いですよ。あの人の嫉妬は底知れません」
嫉妬深い事は分かっていたが、まさかここまでとはと呆れて苦笑しか出ない。
目の前ではクリス様の嫉妬深さについて延々と文句を言い続けており、それを聞き流しながらふと昨日のクリス様の提案に似た〝頼み〟を思い出す。
「早く、自分の物にしたいようですね」
「それだけ、好いてくれているのは嬉しいけどね……」
「え? あの嫉妬深さも受け入れるのですか?」
何を当然な事を言うんだと、私がきょとんとしていると、クロウディアは口をへの字にして何か言いたげだったが飲み込んだようだ。
おおかた〝束縛をへやのt怒ってもいいんですよ〟と言った所だろうか。
私は、彼に申し訳ない事をしてしまった罪滅ぼしがある。
厳密にはシャルティエのだが、シャルティエの体を受け継いだのだから彼女の事はある程度尊重してあげたい。
スティ達に、シャルティエの代わりに罪滅ぼしするなら何したらいいかと尋ねると、元気でいればそれでいいなんて言うから正直話にならないと思った。
「――あと、学園長の言っていた事についてだけど」
「シャルティエ様の、一連の事件について触れなかった話でしょうか」
察しのいいクロウディアは、紅茶を一口飲んでから、ふぅっと息を吐く。
「そう、あれはもしかして不審者についての話となにか関係あるの?」
「ご明察です。……と言いたい所ですが、その尻尾を掴めていないので下手に肯定できません」
「と言うか、学園長は警備は完璧だから不審者の心配はないって言ってなかった!? おかしいでしょこの矛盾!」
「まぁまぁ、落ち着いてください。王太子の前で陛下が派遣した警備が緩いなんて知られたら王家の恥ですからね」
でも結局最後不審者の話をしてしまったのだから、彼は少し疲れているかもしれない。危機感が薄いように思える。
徐々に感情的になって声を荒げると、冷静にどうどうと鎮めさせられた。
渋々座り直すと、クロウディアは続けた。
「いつの間に紛れ込んだのかも、何故貴女を狙っているのかも分かりませんが、少なくとも殺すつもりで最初は行動しているようでした」
「最初……?」
怪訝そうにして尋ねると、はいと頷いて首を傾げた。
「シャルティエ様とお話された事が何度かありますね。相手は……もしかすると惹かれてしまったのかもしれませんね」
「うぇ……それは迷惑だよ」
露骨に嫌そうにすると、笑われてしまったが、クロウディアとこうしてまた話せて嬉しくてその後は学園に居る間は自分に近付く見知らぬ人間には警戒して欲しいと言われた。
そして、本日やる事がなく暇を持て余した私は、ふと思いついた事を実行することにした。
「……そうだ、クロウディア。お願いがあるの」
何でしょうと首を傾げるクロウディアに、にっこりと笑いかけて一つ頼み事をした。




