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2019/08/24 校正+加筆
学園祭まで残す事一週間、生徒会室で相変わらず事務作業を行っている。
楽しくもない、ただ書類をひたすら処理していく作業。
……めちゃくちゃ、暇。
「シャル、顔に出てる」
「んっ」
頬を風船のようにぷくっと膨らませながら不服を全面的に現していると、目の前で面白そうに見つめるクリス様が、人差し指で膨らんだ頬をつついて空気を抜く。
少し前の私ならありえないだろう、行動が増えてきたのは気が抜けてきた証拠なのだが、それにしても今の行動は幼稚過ぎたかと少し反省した。
「もう、殆どここの作業終えてしまったから現場に行きたいんですけど……」
「何処に行きたいんだ?」
「一年生のお化け屋敷に……、私が提案した手前確認しないとなぁと思ってて」
「あぁ、唯一お化け屋敷引き受けてくれたクラスか……、じゃあ一緒に行こうか」
善は急げと言わんばかりに立ち上がり、気を緩めるのに脱いでいたブレザーを華麗にバサリと羽織ると、先に生徒会室を出てしまう。
ちらりとグラムを見やると、書類を片手にひらひらと手を振っていた。
それに対してぺこりと会釈をすると、すぐに書類とバインダーを片手に小走りで生徒会室を後にする。
出た瞬間、扉の前で待っていたのか、勢い余ってクリス様の体に突っ込んでしまった。
「ぶっ」
「シャル、走ったら危ないから」
「ずびばぜん……」
クリス様の胸に顔を突っ込んだまま喋ったせいで、上手く返事できていないが、クリス様笑うたびにそ振動がこちらにも来てちょっと面白くなってしまい、離れてから笑いが込み上げて来た。
笑いが止まらないが、早速一年生フロアまで行くと、準備で忙しい生徒達の手が止まりこちらに集中する。
そりゃ噂の二人が、並んで一年生の廊下を歩いてたら目立つだろう。
「クリストファー様とシャルティエ様よ」
「真面目なお二人だからこそ、醸し出す雰囲気というか……」
「よくお似合いだわ……」
女子生徒からの妬みではなく、羨望の眼差しに少々居心地の悪さを感じたが、褒められるのは悪い気がしなかったためスルーした。
歩いていると、お化け屋敷を催すクラスに到着し、教室の前から漂う禍々しい雰囲気で足が止まる。
「……シャル?」
「え、ここ……教室ですよね?」
「間違いなく教室だ」
頷いて肯定するクリス様は動揺もせず至って平常過ぎて逆に不安になる。
「何でこんなに禍々しいんですか、この教室……」
「そりゃ、お化け屋敷だから……?」
そういう事を言いたいのではないと文句を言いしたいが、まずは中を見てみなければ始まらないと扉を開けて中に入る。
すると、薄暗い室内にまた足が止まった。
「流石に本気すぎる……」
「よくこんな短期間で……」
出来栄えの良さと完成度の高さに、私だけでなく流石のクリス様も引き気味だった。
「シャルティエ様! ごきげんよう」
「あぁ、クラス委員長ですね。なんて言うか、すごい完成度ですね……」
「そうでしょう! シャルティエ様に勧めていただき、その後に皆で話し合って折角シャルティエ様から進言いただいた物なので、本気を出しましょうという事になりまして!」
つまり私がきっかけで、こんな完成度の高いお化け屋敷が完成したのかと眉間に指を添えて揉みほぐす。
クリス様は、隣で『すごい』と素直に褒めるとクラス中の生徒達が湧き上がる程に喜んでいるのを見ると『やりすぎだ』なんて言えなかった。
壁は暗くするために全面を黒い布で覆い外の光を遮断し、天井からは幽霊を演出する紙で出来たシルエット、ルートの確保をするための仕切りまで設置されていて迷路になっている。
チラホラと目に入る生徒は衣装を制作しており、脅かし役もきちんと用意されている事が分かり、もはや確認する必要もなさそうだと思った。
――もっと子供向けな物が出来ると思ってたー!!!
顔面蒼白の私に気付いたのか、クリス様は早々に「じゃあ残りの期間も頑張って」と簡単に告げて腕を引かれて教室を後にした。
「大丈夫か?」
「は、はい……」
「少し、外の空気を吸おう」
クリス様に促されるまま屋上の庭園に行き、外の空気を沢山吸い込んで贅沢に吐き捨てる。
私は、お化け屋敷と言うより暗い所が苦手なのだ。
期間もなかったはずで、もう少し子供向けな方針でやるとばかり思っていたせいで油断してしまった。
今回は、一人で居たわけではなかったから硬直程度に済んだが、これが私だけになったら身動きひとつ取れなかったかもしれない。
「あの教室は、絶対に一人で行きません……決めました……」
「シャルは、お化けが怖いのか?」
「お化けはそうでもないですね。不思議な事を体験したおかげで、その辺りは耐性ありそうです」
東屋のベンチに腰掛けて二人並んでいると、自分の弱点を教えるべきか考えた。
それじゃなくても、クリス様には弱いところを見せ過ぎているから少し悔しい。
「クリス様の苦手なものって何ですか?」
「僕の? そうだな……」
悩んでいると言う事は、すぐに思いつかないと言う事だろうか。
少しだけ考える素振りを見せたが、すぐにこちらを向いてふわりと微笑んだ。
「顔や家柄で寄ってくる女性は苦手だな」
それに関しては、私も思い当たる部分を感じて胸にぐさりと刺さる。
――いや、顔が良すぎるのは本当だし……家柄は、辺境伯の方が伯爵よりも上の爵位だから私はそれに該当しないのはわかっているけど……!
「そう……、ですか」
「え!? シャルがなんで落ち込むんだ!?」
「いえ……、私も……その、クリス様の顔が良すぎると常々思っていて……」
素直に暴露すると、目を瞬かさせ虚を突かれた顔に私は何を言われてもいいようにギュッと目を閉じた。
しかし、それらしい言葉を吐かれない事を不思議に思って片目を開いてこっそりと彼の反応を伺うと、片手で顔を覆って私の方とは反対の方を向いていた。
「……クリス様?」
「……るい」
「え?」
さらに体を乗り出してクリス様の顔を覗き込もうとすると、突然ギュッと強い力で抱き締められた。
「え……!?」
「そういう事を、突然言うシャルは本当にずるい」
抱き締めるクリス様の顔を覗き込んで見ると、その顔はとても赤くて、照れているとすぐにわかったから、私も背中に手を回してしばらく抱き合った。
そんな幸せな時間を堪能しすぎて、すっかり時間が経過してしまったと慌てて生徒会室に戻る。
そこではグラムとスティが腕を組んでおり、その視線の先には、クルエラとジャスティンが顔を青くして椅子に座らされていた。




