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2019/08/24 校正+加筆

 


 寮に帰ると突然、私を見るなり一目散に縋るように駆け寄って来た生徒達からの報告に、私はまた面倒事かと呆れて半眼になる。

 うんざり顔を露骨に出して、問題のジャスティン達の居る部屋へ重い足取りで向かった。


 ――なんで皆、頼る相手が私なんだろう……。


 事情を聞いて、問題の場所はクルエラとジャスティンの部屋で事件がきているらしく、その部屋に近付くにつれて少しずつ口論をしている声が漏れて聞こえてくる。

 耳を澄ましてみるまでもなく、彼女達は分かりやすい言い合いをしていた。


「どうして貴女は、途中から参加できたのよ! 私もやりたいのに、この貴族生徒の私を差し置いてどういうつもりなの!? どうやってシャルティエ様に取り入ったの!?」

「あぁもう、キーキー騒がないで下さい。シャルティエ様は、私を取り巻きにして下さったのですよ?」


 ――いや、ないない……。


 扉の前で、手をブンブンと振って一人で否定する。

 それを背後で見ていたスティは、クスクスと声を殺して笑い、それを心配そうに見守っていた寮生達も苦笑いした。


「貴女はそうやって、平民生徒を見下したりしているからお声がかからないのでは?」

「なんですって……!?」


 ――いや、だからそういう意図は全くないってば。


 そもそも取り巻きになんかした覚えがない私は、子供の喧嘩のような口論の内容に溜息一つ漏らして肩を落とす。

 馬鹿馬鹿しいとしか言い様がない。

 扉は閉められているが、声は全て丸聞こえ。

 寮の部屋はそこまで壁は厚くないため、余程意図的に声量を抑えておかないと全て聞こえてしまう。

 ここに居る全員が聞こえているのだから、かなり声を張り上げて感情的に言い合いを続けているようだ。

 そもそも、何故そんな言い合いを私を差し置いて勝手に始めているのだろうかと眉間に指を押さえつけて唸る。


「まぁ、細かい事考えても仕方ないか……」

「シャル、頑張って」


 スティが励ますように小さい声でそれだけ言うと、一歩後ろに下がった。

 これはつまり、関わりたくないから任せたと言う事だろう。

 彼女は、時折淡白だ。

 親友が困っているのに、揉め事には首を突っ込んでこないのは、王妃になるのだから厄介事に入れ込まないようにと言う事なのだろう。

 こればかりは、徹底ぶりに感服する。

 ひと呼吸置いてから、私は扉を叩くとピタリと口論が止んだ。

 扉を自ら開けて中に入ると、双子なのだろうか、二人の顔がそっくりな女子生徒と、その彼女達に詰め寄られているジャスティンが目を丸くしてこちらを見た。


「シャルティエ様!」

「はい、シャルティエです。他の生徒が迷惑していると聞いたので、馳せ参じましたがこれは何事ですか」


 大方の内容は把握しているが、本人から話を聞いておかねばと尋ねたが最後。

 ある意味それが油に水となってしまったようで、さらに白熱した。


「シャルティエ様! 私は貴女の取り巻きですよね!?」

「いえ違います」

「えぇ……!?」

「そういうのやめてください」


 即答でジャスティンの誇らしい質問を一蹴すると、かなりショックだったのかそのまま大人しくなった。

 そして、次に騒いでいた女子生徒を見やると気まずそうに俯いていた。


「……はぁ、とにかく事情を説明してください」

「私達はただ……、大変そうにしていらっしゃるシャルティエ様がお辛そうだったので、少しでもお手伝いしたくて。先日、途中から実行委員に参加できたジャスティン様にお話すれば掛け合って頂けるかと思ってお願いに……」


 包み隠さず、自分の思惑と行動を素直に明かした女子生徒を見て、私は首を傾げる。


「どうして貴女が、私が大変そうにしているとお手伝いしたくなるのですか……?」

「え? そ、それは……」

「お姉ちゃん……」


 女子生徒二人は、言いづらそうにもじもじしてこちらをチラチラと見たが、言いたくなさそうだった為保留とした。

 彼女達は、どうやらそもそも実行委員に立候補すらしていなかったようで、私達の活動を見て興味がわいたとかそんな感じだろうか。

 しかし、私の一週間を見て心配してくれたのは、それは素直に嬉しかった。

 彼女達とは知り合いではないが、だからこそ私の行動に目を向けてくれた事が嬉しくて口元が緩む。


「お気遣いありがとうございます。……ただ、そう言うのは結局私に話が回ってくる事です。こちらに直接言って頂ければ、何かしら話は聞きましたよ」

「それでは……!」

「――ですが、この騒ぎで他の寮生に心配もおかけしてしまいましたので、ジャスティン様と一緒に謝罪に回って、最後に寮長からお許しを得てからもう一度私に掛け合いに来てください」

「……はい」

「申し訳ございませんでした。シャルティエ様」

「申し訳ございません……」


 素直に謝罪をして、項垂れた三人揃って部屋を出て行く所を見届けると、私も部屋を後にする。

 もうすっかり疲弊した私を、スティとクルエラがにこりと笑って迎え入れてくれた。


「色々大変だったけど、頑張っている所を認めてもらえて良かったね」

「うん、ちょっとジャスティン様の行動には目に余る所から後で叱っておかないといけないんだけど……」

「まるで悪さをした犬ね……ふふふ」


 笑い事じゃないよ、エストアール様。


「ジャスティンは、あのスティの断罪の日、果敢に王太子であるグランツ様に楯突いた時からとても憧れていたんだよ。お近付きになりたくて、それが実現して嬉しいんだよ」


 私からすると『だから何だ』と言いたい所をグッと飲み込む。

 クルエラの大事な親友でもあるからあまり強く言えない。

 確かに、私はどんな理由であれグラムに楯突いたけど、ただそれだけで憧れられるような器でもない。

 と言うか、私はもっと平和な生活がしたいのにどうしてこうも次から次へと面倒事が起きるのだ。

 今後も彼女に振り回されたりしないように、しっかりと躾――じゃなくて、お説教しなければと拳を作って意気込む。


「クルエラ、後でジャスティン連れてきてね! 絶対!」

「はいはい……――だから今まで紹介しなかったんだよねぇ」


 クルエラの小さいぼやきを聞いてそう言えば、前に彼女の部屋に行った時も意図して紹介しなかったような気がする。

 だから接点が少なかったのかと今更気付いた、

 それはそうと、実は期末試験後のジェシカとの一件で、私があまりにと冷たくあしらった事が学園内で結構話題になっているらしい。

 あの時はくだらないどころの話では無くて、あんなに色々感情が渦巻いて体調壊しながらも頑張ったのに、まさかカンニングまでする程に張り合いのない相手だとわかった途端、興味が無くなってしまったのだ。


 ――我ながら大人げなかったかなと思うけど……。


 自分達の部屋に戻り、しばらくしてからすぐに女子生徒が訪れて、改めて謝罪に来た。

 眼差しは実行委員会の参戦による期待の物だと悟ると、少し考えた素振りだけ見せて「学園長の許可が必要なので明日の夕方またお知らせします」と微笑みかけた。





 翌日の放課後、クルエラと一緒に学園長に会いに行き、二人の生徒の話をすると驚いたことに予め予測していたかのように二つ返事で快諾してくれた。

 更に思いがけない事を言われて、また更に驚きを隠せなくなった。


「彼女達は、二人ともシュトアール家に勤めるメイドの娘らしい。見た目は一卵性双生の双子なんだ」

「やっぱりそうだったんですね……え?」

「彼女達なら行動力はあるからきっと役に立ってくれる」

「えっ? 待ってください学園長先生」

「いやぁ、人手不足もこれで少しは解消されるといいね」

「まってまって、学園長先生聞いてください。私の話を!」


 私の話を無視するように勝手に進めて話を切り上げようとする彼に、大声で止めるとにこやかに笑ったまま黙った。


「シャルってば、落ち着いて」

「う、うん……。クリス様の所の使用人の娘って……それ、つまるところ……」

「君の察する通りだと思うが?」


 彼女達は親に、何か私とクリス様に関して言われたのだろう。

 親に手助けしてやれと言われたのか、それともクリス様がなにか働きかけたのか、はたまた彼女達が自主的に動いたのか。

 どれもありえそうだなんて考えながらそれ以上は何も言わず、「念の為、本当に本人にやりたいという意志はあるか確認を取り、仕事を与えたいと思う」と告げて、まだ話があるクルエラを残して私だけ退室した。


 学園長室を出てからぴたりと足を止めた。


「――学園長先生って、本当に生徒全員を把握してるのかも……?」


 生半可な事ではないぞと思いながら、生徒会室へ向かった。



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