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2019/08/23 校正+加筆
なんとか生徒からの声かけから、上手く掻い潜って数分だが遅れて多目的室に入ると、全員揃っていた。
「す、すみません。……遅くなりました」
遅れて入って来た私の方へと視線が注目するが、誰ひとり、とくに怒る様子もなくむしろ「大丈夫でしたか?」と口々に心配の言葉が寄せられた。
なぜ心配されたのかは分からないが、哀れむ眼差しに首を傾げた。
「……すみません。道中、色んな方に話しかけられてしまって足止めを――」
「あはは、シャルのその髪型が思ったより今までの印象を変えるものだったから、みーんな目の色変えちゃって……あっ」
まるで『言ってしまった』みたいな慌て方をするクルエラに、きょとんと首を傾げると首をブンブンと振って「なんでもない!」と話題を切り捨てて、本格的に実行委員の活動についての話し合いが始まった。
――イメチェンのせいで、周りからの印象が変わってしまったんだなきっと……概ね予想がつく。
〝ギャップ萌え〟というたぐいの奴だろう。
実は、夏季休暇に入る前――つまり私が風邪で寝込んでいる間に、クルエラが話を後回しにしてそのままだった問題があるらしい。
それが、予想を超えた大変さに心が折れて辞退した女子生徒の中で出たのだそうだ。
幸いなことに、男子生徒は誰一人欠けていないのは流石だと思った。
――まぁ、彼らは内申欲しさだろうし抜けるわけには行かないよね。
そのせいで人員不足が発生し、それでジャスティンも仲間に加えたのだが、それだけではなかなか人数の穴埋めには到底及ばなかった。
「皆さんもお気付きかと思いますが、人員不足が発生してしまい、人を回すのも一苦労になっています。なので、皆さんお互いに協力的に活動していただけると幸いです。よろしくお願いします」
昨日、一生懸命作った段取りの資料を配り、ぺこりと頭を下げると全員が協力的に同意の拍手をしてくれた。
「では、これから班の発表します。学園祭企画班、各教室出し物班、後夜祭ダンスパーティー班です」
それからは、班を作って各やるべき事を分担した。
クルエラが述べた班を、彼らの意思を尊重して班分けを行い、とくに問題もなく班を分けることが出来た。
満足げにホッとしていると、クルエラが近くまで寄ってきてノートで口元を隠して話しかける。
「人手不足はどうするの? きっとこれじゃ人が回らないよ」
「そのための副委員長でしょ? 私がフォローするから、クルエラはちゃんと委員長の勤め頑張ってね」
にこりと安心を誘う笑みを浮かべると、更に不安げな顔になってしまったが見なかったことにした。
今日は無事に集まりが終了し、私はその足で生徒会室へ入るなり慌ただしく活動ノートを開いて今後の予定を立てる。
忙しそうにする私に、クリス様が隣の椅子に腰をかけて覗き込んで来た。
「そっちも忙しそうだな」
「はい……、人手が足りなくなってしまって新たに募集をかけようとも思ったんですけど、落とされた人が文句を言ってきたりしたらややこしい事になりそうなので諦めました」
「困った事があったら、いつでも僕達を頼ってくれて良いから」
「ありがとうございます。クリス様」
今日はお昼休憩に会えなかったため、最初に言葉を交わしたのがこんな内容だったが、気に掛けてくれるのが嬉しくてもふわりと微笑むと、それにつられるようにクリス様も微笑んでくれた。
そして、するりと私のポニーテールに触れながらほうっと吐息する。
「この髪型、可愛いな……良く似合ってる。これじゃ、他の生徒がシャルへの見る目が変わってしまうな……」
「へっ!? そんな事ありませんよ。普通です」
「でも、今日沢山話しかけられたんじゃないか? シャルは可愛いから、きっと他の男子も目をつけてしまったかもしれない――嫉妬でどうにかなりそうだ」
「ひぃっ!?」
今日はやけにベタベタとしてくるクリス様は私の耳元で囁いてくる。
私はくすぐったさに、咄嗟にガタンと音を立てて立ち上がり耳を押さえていると、彼の向こうでこちらを呆れた顔をして見ているグラムと目が合う。
「イチャつくなら外へ行け」
「やだな、僕は心配してるだけだ」
「お前はシャルと婚約してから少し過保護だぞ。子供みたいに世話を焼かなくても大丈夫だ」
〝子供〟と言われて内心ドキッとする。
そう言えば、合計したら三十歳どころかそれ以上を超える年齢の精神だった事を思い出して、なんだか変な気持ちになる。
「……シャルは僕に心配されたくないのか?」
「え? えぇと……」
なんて返せば良いのか分からずあたふたしていると、クリス様が私の反応を見て面白がっていることに気付かなかった。
「クリス、お前は早くこっちの仕事をやれ」
「はぁ、分かった……。――じゃあ、シャル。本当に、困った事があったらちゃんと言うんだぞ。約束」
少し子供を叱るような言い方をして、こちらに小指を差し出してくる。
それに素直に頷いて、小指を絡めて指切りをすると、彼はグラムの方へと戻って行った。
少し寂しい気持ちを抑えて、自分も改めてノートを眺め、一ヶ月で準備をうまく進めるための予定を考えた。
――ハードになりそうだなぁ……。
翌日、お昼休憩中にクルエラとジャスティンがお弁当を抱えて教室へやって来た。
今日は一段と大きい入れ物を抱えていて、こんな量を彼女が一人で食べるのだろうかとジャスティンを見上げる。
「ジャスティンが、シャルにお弁当食べて貰いたいんだって」
「え? 私に?」
ぽかんとして間抜けな返事をすると、ジャスティンが顔を赤らめてコクコクと頷いた。
「ありがとう。今日は学食か、購買部に行くか悩んでいたの。ここに座って」
ここまで用意して貰っていて断る理由もない、私の隣の空いた席を借りてジャスティンに勧めると会釈をしてそこに腰をかける。
机をくっつけて広めのテーブルを作ると、そこに大きなお弁当箱を広げた。
中には、小さいカップに入れられたサラダや炒めたソーセージ、色んな種類のサンドイッチ等が隙間なく敷き詰められていた。
ぱっと見は、とても平凡なお弁当だが、それがなんだか懐かしくも身近に感じられる。
「これ、全部手作り?」
「はい! 実家が王都で家庭料理メインの食事処をしているので、手伝いもしていて料理はそこそこ出来ます。……お口に合うかわかりませんが、皆さんもよろしければ是非」
「へぇ、すごいわね」
一人で作るにもこれだけするには随分と苦労しただろうと考えて、ありがたくいただく事にした。
味も見た目も申し分なく、ジャスティンのお弁当を皆で堪能した。
実行委員の活動中も、彼女には実行委員も手伝って貰っているし、私も何かお礼したいなと考えながら何が良いかサンドイッチをかぶりつきながら悩んだ。




