51/イメージ表紙有り
2019/08/22 校正+加筆
とうとう九月に入り、カーディナル学園も始業式だからと言うのも相まって廊下は移動の生徒でごった返している事だろう。
そんな私も、曖昧だった記憶を無事に手に入れる事が出来てモヤモヤとした気分なく、無事に二学期に入れた事に感謝した。
「シャル、そろそろ行くわよ」
「待ってスティ。ほ、本当にこれで行くの?」
スティが急かすように鞄を持ち、扉の前に立って早くと急かしてくる。
落ち着きのない口調で問い掛ける私は、今出て行きたくない理由があった。
遠慮がちに伏目で瞳を泳がせながら、自分も鞄を持ち上げてはいるものの、その場を動きたくなくて何度もチラチラと鏡を見て自分の姿を確認する。
「まだ気にしているの? よく似合ってるわよ――そのポニーテール」
「えぇ、嘘でしょ……? うーん、普段髪を下ろして学校に行っていたから、プライベートじゃないのになんだか違和感が……」
鏡の中の自分の姿を見て、最初ほど自分が〝シャルティエは可愛い部類だった〟なんて思う事も無くなった。
見慣れたせいだろうか、普通かその程度にしか思えなくなっていた。
「でも、記憶を取り戻す時はツインテールもしていたじゃない」
「あれはあの時だったからで、もう二度としな――」
「ほら行くわよ」
私の言葉を遮って、容赦なく私の手を引いて歩き出した。
実は、休みの最終日――つまり昨日の話だが、一生懸命学園祭の実行委員会の段取りするための資料作成中に、クルエラやスティにその地味な格好をやめたらどうかと言われた。
普段から髪を下ろして眼鏡が初期装備だっただけに、メガネが無くなると少しだけ〝いもっぽく〟見えてしまって、それが見るに堪えないと言われてしまった。
全ての原因は、休暇中の私の普段着姿のせいだ。
――まぁ、メイド達が長い髪を面白がってアレンジしてたもんね……。
昔に比べて快活になった娘に気を良くした両親は、私の服をたくさん買い揃えて、それを見たメイド達もこぞっておしゃれさせたがるようになった為、クルエラやスティが遊びに来た時は随分可愛く仕上げてもらっていた。
そして、これからは実行委員で忙しくなるから、長い髪が邪魔になると言われ、心機一転も兼ねてポニーテールなら邪魔にもならないなと思い、後ろに高い位置で纏め、横髪は少し残した。
結い目には赤いリボンを付けられているが、これはスティが付けてくれた。
その際には「お兄様や私の目と同じね」とさり気なく将来シュトアール家の女だからアピールをさせられて恥ずかしくなった。
彼女にも、シュトアール次期夫人である事は伏せると伝えてあるだけに、これはあくまでアピールなのだと言い聞かせてくる。
それはもう洗脳のように。
多分、彼女は婚約者である事を隠している事を怒っているのだと思う。
「普段と違う格好をすると、皆に変に思われないかな……」
「大丈夫よ、シャルは何をしていても可愛いもの。むしろ、お兄様が不安になってしまうかもしれないけれど」
ツカツカと近付くなり私をギュッと抱き締めて頬擦りしながら、さり気なくクリス様が嫉妬する可能性をほのめかしたが聞かなかった事にしたい。
スティの肌は、すべすべで気持ちが良いのだが、なんだか最近は輪をかけてベタベタとしてくる。
可愛くて美人なスティに、ここまで可愛がってもらえるのは私も嬉しいが、女相手にも嫉妬するグラムの事を考えれば、これは二人だけの時にして欲しい。
――将来的には、スティは私の義姉になるわけだけどそれはまだ先の話だし……。
いつまでもここにいては遅刻してしまうと、ようやく腹を括り寮を出ると、そこには貴族制服と平民制服のクルエラとジャスティンが居た。
仲の良い二人は、何か話をしながら歩いている。
「おはようございます。二人とも」
「あ、その声はシャルね」
「え!? シャルティエ様!?」
後ろから声をかけると、二人同時にくるりと振り返り、ジャスティンは私の存在に恐縮しておどおどしていたが、すぐにぎこちなくスカートを持ち上げて頭を下げた。
「お、おおおはようございます! シャルティエ様、エストアール様!」
「ジャスティン様、そんなにかしこまらなくて良いのですよ」
「ふふ、石みたいにかちこちね」
二人で笑っていると、かぁっと顔を赤くするジャスティンが可愛らしくて朱色の豊かな髪も緊張で逆立っているように見える。
「ジャスティン、大丈夫だから! シャルもスティも良い人だから」
「えっ!? クルエラ、いつからお二人と愛称を呼ぶ仲に!?」
いちいち驚くジャスティンの純粋さに、面白くて笑いを堪えるのに苦労をする。
そして、彼女は私の姿をチラチラと視線もぶつけてくるが、何か言いたげに見えて首を傾げると、顔を赤くしてクルエラに抱き着いた。
――何、この可愛い生き物。
釣り目がちな目元は気が強そうに見えるが、貴族女子には随分と色んな意味で可愛がられているようだ。
うちの教室でも、時折話を耳にする事があった。
だが、それはすべて平民の彼女を見下すような物ばかりで、部活動の関わりのある人物ばかりの記憶がある。
ちなみに、ジャスティンは美術部だ。
絵が上手いと評判で、コンクールも入賞する程のレベルなのだ。
学園内でも、美術の授業では講師からも評価も高いそうだ。
才能を持った人間は、とくに嫉妬されやすい。
「ジャスティン様、私はもっと貴女とも仲良くしたいので敬語は無しにしましょう……ね?」
「え……、よろしいのですか?」
私もスティも最近は、クルエラも割と目立つから、彼女にとってもそこそこの後ろ盾になるだろう。
クルエラに、ちらりと視線を送れば頷いてくれた。
どうやら通じたようだ。
スティの方を見ると、新しい友達が出来て嬉しそうだがしかし、こちらに近づいて耳打ちをする。
「……彼女、貴女の取り巻きになれると勘違いしてるわよ」
「……?」
なぜ私の取り巻きになって嬉しいのかよく分からなかったが、こんな可愛い子に取り巻かれたら私の方が霞む。
きちんと否定しなければと、声をかけようとして遮られた。
「あのジャステ――」
「シャルティエ様! 私は部活動を辞めて、シャルティエ様のために一緒にいても良いですか!? そういえば、髪型変えられたのですね、とてもお似合いです!」
「え? えぇ、えーと、ありがとう……」
「前からシャルティエ様の他の髪型を見てみたかったんです! あぁ、嬉しいなぁ……」
――あぁ、そんなに輝かしい眼差しで見ないで。胸が痛い。
そして一向に敬語が外れないジャスティンに、これ以上何か求めるのは無理かもしれないと悟りを開く。
そして、「部活動辞めなくていいのに」と言うと涙目で「いえ辞めます!」と言い切られてしまい、せっかくだからと実行委員を手伝ってもらう事にした。
絵が上手いなら、舞台のセットを作るのにきっと役立って貰えるだろう。
彼女はよほど部活動を辞めたかったようで、彼女がいびられたりいじめられないのならそれでいいと思った。
学園に入ると、すぐさま私の姿を見て驚きの表情に変わる行き交う生徒達を見て少々うんざりしてきた。
「どうせ似合ってないですよー……」
「ふふ……その逆よ、シャル。貴女は思ったより自分の容姿に自信がないのね」
「普通くらいだと思ってる。イメージチェンジした所で、たいして変わらないと思うんだけど……」
「シャルティエ様の容姿はとても愛らしくて、そのストロベリーブロンドの髪も、意志の篭ったレッドベリルの瞳も本当に素敵です!」
「ジャスティンちょっと黙ってて……」
「はい!」
ジャスティンの私へのこのテンションは何なのだと疲れ気味の様子で言うと、きゅっと口を引き結んだ。彼女は犬かなにかなのか。
スティも、今までずっとこんな状態だったのだろうかと思うと想像を絶した。
「スティも大変だったんだね」
「そうなのよ、やっと分かってもらえた?」
「それはもう……」
痛感したと言いたい所だが、たかだか数時間で分かった気になるなと思われてしまいそうだったため「大変だね」とだけ軽く返した。
言われた通り黙ったままのジャスティンが、窓の外から中庭の中心に立つ時計を見て、慌てて軽く挨拶だけすると、クルエラを連れて自分の教室へ先に行ってしまった。
予鈴が鳴るのだろう。
私達も教室へ入ると、スティの取り巻きの子達が私の姿を見て手放しに褒めてくれた。
なんだか照れ臭くて、はにかみながら「ありがとう」と言うと顔を真っ赤にしてしどろもどろになってしまった。
どうしたと言うのか。
今日は始業式が終わると、実行委員の集まりがある為、一人廊下を歩いて多目的室へ向かっていると、よく分からないが男女共に色んな生徒に話しかけられるようになってしまったせいで、集まりに遅刻してしまったのだった。




