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2019/08/20 校正+加筆

 


 手を掴まれて、膠着状態(こうちゃくじょうたい)が続いて数十秒程度しか経過していないのに、もう私の掴まれた手は緊張で湿ってきた。


「クリス様、手を……」

「シャル、ごめん……僕はどうかしてる」


 掴まれた手は、離れる方法を知らないかのようにずっと握られている。

 おろおろと返す言葉を探すが、咄嗟には出て来ず、情けない自分を鼓舞して指を絡めるように手を握り直した。


「クリス様、私の事が信じられませんか?」

「そんな事は――」

「でも、クリス様の不安が私の記憶を取り戻す事なら……やっぱり今の私が私じゃなくなる事を恐れているのですよね」

「……そう、君が前の君に戻るんじゃないかと頭の隅では考えている……」


 クリス様は掴んだ手を一度離して、ここでようやくこちらを見て今度は強い力で抱き寄せられたが、すぐに脇の下に手を差し込まれ抱き上げられると、そのまま座ったクリス様の膝の上に下ろされて跨る状態になり、すがるように背に手を回されて抱きつかれる形になる。


「く、クリス様……?」

「ごめん……ごめん……、傷付けたい訳じゃない。信じられないわけでもないんだ……。何もしないから……。だから、少しこのままで……」


 私の慎ましい残念な胸に、綺麗な顔が押し当てられているが、彼はあくまで抱きついているだけなのだろうと考え直す。

 手持ち無沙汰になった私の手は、どうしようと悩んだ末に頭を撫でてやるくらいしか出来なかった。

 クリス様のサラサラとした細い白銀の髪を、ゆっくり撫でていると微かに肩が震えた。

 泣いているのだろうかと、心配で自然と眉間に皺が寄る。


「大丈夫ですか……?」

「あぁ……。情けない男だと思ったか……?」


 少し顔を離し、俯きがちにして額をまた私の体に押し付けながら自嘲気味に笑った。

 それに首を横に振って「そんな事ありません」と否定すると、「ありがとう」と言ってまた顔を埋めた。


「正直、困惑した。僕だけはシャルや、スティ、グラムも……クルエラもそうだ。特殊な状態にあるから、割と簡単に受け入れられたのかもしれない」

「クリス様……?」

「ただ、自分だけは違うから……、シャルの記憶が戻ると前みたいに戻るんじゃないかとか、まだそればかり気にしてる」


 ――あぁ、本当に不安なんだ。クリス様だけは普通の人だから。


 普通とは言っても、ただ一年を繰り返した人達と、失われた〝シャルティエ〟の替わりに魂だけが入ったシャルティエの〝偽物〟。

 ただ、それだけ。

 我ながら〝偽物〟呼ばわりは自分でダメージを受けているが、形容するものが難しい。

 彼女は、もう居ない。

 私は、この体の主である彼女の過去を受け入れるために記憶と言う名の失われた思い出を取り戻したいだけだ。

 今後も、彼女のことを語っていきたいのだ。

 もう自分は一度死んだ身だが、今ここで生を新たに与えられたからにはきちんとこの体を大事にして生きていきたい。


 ――それに、せっかくだから幸せになりたい。


 だからきっと彼を嫌いになるはずはない、それは確証がある。

 どんなに過去に話せない程の事をしてしまったとしても、彼を受け入れる心構えだって出来ている。

 しかし、過去を知っているクリス様は〝シャルティエ〟であって私じゃない。

 私の身に起きる事も、感じる事も違うし知らない。

 それに、彼のこれからを受け入れるのは〝シャルティエ〟ではなく――私だ。


「クリス様」

「ん……」

「大丈夫ですよ。ここに来て沢山の〝シャルティエ〟の記憶を取り戻したんですよ。でも、いつもと変わらないでしょう?」


 私が嬉しそうに語ると、ようやく顔を上げてくれた。

 少し顔色が悪そうだが、頬に手を添えて目を合わせる。

 私は目を眩しげに細める。


「クリス様、安心してください。私は私です。昔の幼い頃のシャルティエは……もう居ませんが、それでもよければ……」

「待ってくれ、シャル」


 好きでいさせてください。そう言いかけて今度は私が止められた。

 最後まで言わせて欲しい、と少し唇を尖らせると、ようやく笑ってくれた。


 ――最後まで言うつもりはなかったけどね。


 少し慌てた様子の彼を見て、少し安堵して私は背を丸めて額と額を合わせた。


「小さい頃、誰かとこうやって額をぶつけたり、花を摘んで花冠を作ったりした事がある気がするんです」

「……あぁ、それは僕だ」

「屋敷の前の花畑ですか?」

「……随分と記憶が戻っているんだな」


 困り顔で笑うクリス様も、少しはこの会話で安心してくれたようだ。

 私に〝シャルティエ〟の記憶が入っても、私ではなくなる事はない事実を知って貰えただけで十分だった。


「明日、一緒に花畑に行ってもらえませんか? あそこだけ、まだ行っていないんです」


 屋敷のありとあらゆる所は入ったが、まだ広い庭園を回る勇気はなかった。

 最初はスティと手を繋いで入ってもらうつもりだったのだが、クリス様が居るならその方がいい、かすかに覚えているそれは、クリス様の記憶だと知ったからだ。

 私の笑みに、気を許してくれたように頷いてくれた。


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