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2019/08/20 校正+加筆

 


 アジェスタ湖の露天を一通り回った後、休憩がてらに湖のほとりへ来ていた。


 流石に休憩中も手を握られて居る訳にも行かない為、どうにかクリス様には「お父様と飲み物を貰ってきます」と伝えて一旦逃げるように離れた。

 おもてなしをする側だから、そこで待っててと言う圧を送れば、それを悟ったのか自分も行くとは言わなかった。


 ――これ以上ベタベタされたら本当に溶ける! 暑さ的な意味で!


 お父様と飲み物を買いに行くために露天に向かい、飲み物をどうするか悩んでいると、父が私に耳打ちをする。


「シュトアール伯爵と仲直りをしたのか?」

「仲直り……ですか?」


 きょとんと見上げると、心配げな眼差しをしている父に首を傾げてみるが、私の様子に「あぁ、シャルティエの時だから分からないのか」と呟いて瓶に入ったミネラルウォーターを人数分購入した。

 先程の質問が気になって聞こうと思ったが、それ以上教えてくれる様子は無かった為、なんとなく聞けずに皆が待つほとりへと戻って行った。





「お待たせいたしました。暑いのでワインではなく我がベルンリア領の山脈で採れるミネラルウォーターをご用意いたしました」

「暑かったから助かる」


 代表してグラムが受け取り礼を述べると、父は恭しく頭を下げた。

 こういう時の父の姿を見ていると、身分差がちゃんと存在するんだなあと実感する。

 学園では確かにグラムは王太子で、スティは王妃候補――ほぼ確定だが――で、しかもクリス様はもう既に伯爵の爵位を持っている。

 だからそれに取り入ろうと、生徒達が自分や家のためにと群がったりしているわけなのだが、こんなご時世、仕方ないのだ。


 ――でも、家のためとは言え……貴族としてだとかそんな理由で上の人間に

 媚び諂えるというのもなんだかなーと思ってしまうなぁ。


 よく分からない世界だ。

 いや昔はどこもそうだったかもしれないが……。

 でも、父のように年配の人間が私と年の変わらない人間に対して頭を下げて丁寧に扱っている所を見ると、彼もれっきとした王族なんだなあなんてしみじみ感じてしまうわけだ。


 ――しかも、本人の意思で私も愛称呼びだし……。お父様もよく私を怒らないのが不思議だ。


 幼少期に、お互いに愛称で呼んでいたからその名残だろうと後々気付いて一人で納得した。

 ミネラルウォーターの瓶を片手に、口をつけてさっぱりした顔をする皆を見つつ、ベルンリア領を楽しんでくれているのが嬉しくてつい笑ってしまう。


「何かいい事でもあった?」

「クリス様。私、皆が来てくれて嬉しいんです。最初は一人で実家に戻るなんて寂しいと思っていたのに、こんなに早く再会できて少しほっとしています」

「そういう事か……。やっぱり最初から付いていけば良かったな」

「いえいえ、クリス様はお忙しい身なんですから」


 ほとり付近に置かれたベンチに腰をかけて私の分と購入してくれた瓶にささったコルクを外すのに苦戦していると、隣にクリス様が座ってミネラルウォーターを一口飲む。

 その横姿を見上げると、よく冷えた瓶からは結露で水滴が傾けると重力に従って滴り落ち、飲む度にクリス様の喉仏が上下する。

 そんな光景が夏らしさを感じて見入っていると、その視線に気付いたのかこちらを向く。

 何を思ったのか赤い瞳が細められ、私のレッドベリルの瞳と合って胸がどきりと高鳴った。


「……そんなに見られたら照れるな」

「へぁ!?」


 変な声が出てしまい慌てて顔を逸らすと、彼は喉を鳴らして笑いながら少し間合いを詰めて座り直し、私の持っている瓶を取り上げてクリス様の瓶を持たされた。

 その後、すぐにキュポンッと気持ちの良い音を立ててコルクを外して渡してくれた。

 軽く「ありがとうございます」と受け取ろうとしたら高い位置に持ち上げられた。

 私の手もぴたりと止まる。


「……」


 視線の先は、天に近付いた私のミネラルウォーターへと自然に向く。

 ぽかんと見上げていると、少しして意地悪をされたのだと分かり、頬を膨らませて不服そうに彼の顔を見る。


「あはは、シャルは怒っていても可愛いな」

「もう、それ私のですよ! 返してください!」


 そう言って立ち上がって取り返そうと手を伸ばすとまた遠ざけられてしまい、つい夢中で追いかけるとクリス様の膝に引っかかって転びかけた。


「きゃっ」


 我ながら咄嗟とは言え可愛い声で驚けたと思う。

 絶対クリス様が相手じゃなかったら『うわっ』とか言っていたかもしれない。

 クリス様の瓶を持ったまま、上手く体制を崩さないように足元に力を込めて寸止めの所で転ばないように耐えていると、そのまま胴体に腕を回されてまた膝の上に座らされてしまった。


「クリス様、私は子供じゃないんですけど!」


 不服そうに見上げると、またお腹に手を回されて動かないように固定されてしまった。


「ごめんごめん、あまりにシャルの反応が面白くてからかってしまうんだ」

「こんな暑いのに、私を座らせたらいくら水辺でも汗をかきますよ」

「それで良いんだよ」

「それに、重いから止めた方が良いですよ」

「良いんだってば。シャルは、そんな事気にしなくていいんだ」


 ――うら若き乙女の体重の悩みを、そんな事と言いましたよこの人。


 またぴったりとくっつく状態になり、クリス様は私の背中にくっつくのが好きなようだと今更知った。

 そう言えば、学園に居た時も私の背後から現れては背中にくっついて、逃げても体を傾けて離れようとしなかった事を思い出す。

 そんなに人の背中が落ち着くのだろうかと考えていると、コルクを開けたくれた瓶を渡された。


「あ、ありがとうございます……」

「……怒ってる?」

「怒っていません」

「本当? 僕はシャルに嫌われる事はしたくないな……」

「クリス様、私で遊んでるでしょう」

「ははは、バレたか」


 良い加減にしてくださいと怒るべきか悩んでいると、お腹に回された手の力がこもる。振り返ってクリス様の顔を見ると困った顔になっていた。


「……やっぱり私重いんじゃないですか?」

「いいや? ちっとも」


 私から自分の瓶を受け取りそれをベンチに置いて、片手で口元を押さえてしまった。

 そして、目を逸らして何かを考えているようだった。

 そう言えば、保健室の一件から急に口調を戻したから居心地悪くなったりしていないか気になった。

 あまりにも自然に会話をしているせいで、今まで気にもとめていなかったからこの際聞いていようと肩越しに振り返る。


「あの、クリス様の喋りやすい口調で話してくださいね。どんな喋り方が楽ですか?」

「シャル?」

「前にクリス様の喋り方が私のせいだって聞いたんです。だから覚えていない事だとしても責任は感じるので、私の事は気にしないで楽にして欲しいんです」

「グラムあいつ……」

「もし、私がクリス様に何か言ったのであれば教えてください。今の私は、クリス様に対してどう考えているかなんて分からないじゃないですか」


 どうにか彼の腕から逃れて向き合うように立つと、真剣な眼差しで教えて欲しいと懇願する。

 しばらく悩んだ末に、肩を落として「困ったなぁ」と項垂れた。


「私に知られて困る事なんですか?」

「君と両想いになったのに、もし過去のシャルの感情が戻ったらと思うとなかなか……」


 ――そう言えばクリス様達は私が〝シャルティエ〟じゃないって事を知らないんだった。


 本当は明日にでも屋敷でゆっくり話すべきだとプランを練っていたのに、ここで話すべきか悩んだ。

 目の前で悩んでいるクリス様を見ていると、居た堪れない気持ちになる。

 意を決して話そうと口を開くと、グラム達がこちらへ来た。


「何クリスをいじめてるんだ」

「いえ、いじめて……いるかもしれません……」

「えっ」

「えぇっ……シャルがお兄様をいじめてるの?」


 思いがけない返答にグラムは露骨なドン引きの眼差しを、そして後から来たスティも眉間に皺を寄せて動揺した。


「いや、その……」


 困った事になったと現実逃避して上を見ると、綺麗な青空が広がっている。

 その瞬間だけ、今の状況がどうでもよく感じた。

 しかし、今起きている事は変えられない。

 深呼吸をして、真剣な表情に切り替えて皆を見て口を開いた。


「今日、夕食が終わったら応接間で大事な話をします……。お時間を作ってください」


 それだけ言うと、三人は一度だけ頷いた。



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