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2019/08/18 校正+加筆
翌週の月曜日を迎えて、周りの生徒は自分の順位を見て落胆したり喜び合ったりしている中、緊張したままの私はまだ順位を見れないでいた。
「はぁ……どうしようどうしよう」
「大丈夫よ――たぶん」
「あはは、スティったら見た後にその反応はシャルを傷つけるよ」
「ふふ、そうね。ほら、早く一緒に見ましょう? 私はもう見ちゃったけれど。……現実は変わらないのだから、ほら早く」
スティに背中をトンと押されて少しよろめきながら人ごみの中に放り出されてしまい、先程のどちらなのか分からないような言い方をするから余計に不安になる。
勝負事で負けたくないのもあったが、正直負けて生徒会室に出禁になってクリス様達と会えなくなった所できっと彼なら強行して自分から会いに来るだろう。
想像がつくし、先日も結果的には部屋に遊びに来るという話もしていたから勝負相手の彼女達には申し訳ないがどうでもいい。
むしろ、今まで頑張ってきたのに成績が落ちているのではないかという不安の方が大きかった。
しかし、この私が女々しくもうだうだしている場合ではない。
もっとこう、毅然とした態度で現実と向き合わなければ。
頬を二、三度と叩き、姿勢を正し、しゃんとして顔を上げ順位を確認した。
「……あれ?」
「ふふ、凄いわね」
私の隣で反応を面白そうに見て笑うスティと、順位表を交互に見てその信じられない状態に今起きている状態が理解出来なかった。
「――二位……、だったんだ」
順位表は、一位エストアール、二位シャルティエ、三位マルシェ、四位クルエラ、五位アンという女子生徒の名前だった。
五位が彼女なのだろうか、しかしその名前とあの顔にはしっくりこなくて首を傾げて考えたが、それよりクルエラが五位以内に上がっていることに驚いた。
「シャルが休んでいる間、私達の隙を狙って頑張っていたから前回の順位を維持できたのよね。褒められたことだけれど、やっぱり安静にしていて欲しかったわね……。それに、クルエラも今回から真面目にやっていたのよ?」
「ちょっとスティ、それどういう意味!?」
「あはは、心配かけてごめんね」
「ふふ、良いのよ。シャルは昔から頑張り屋だったもの」
「ねぇ、私の話聞いて!?」
クルエラがスティにつっかかるが、それを無視してそっかぁとしみじみ順位を見て安堵した。
でも相手が学園長なら成績上げとかないと印象も悪いだろうから仕方ないだろう。発破をかけられたのかもしれない。
人だかりの後ろからクリス様とグラムがそれを見ていたようで、振り返ると笑顔で手を振ってくれた。
それが嬉しくて、スティとクルエラを連れて二人の所へ行こうとした瞬間、先日私と勝負を宣言した女子生徒がそれを妨害した。
それはもう顔を赤くし、悔しげに睨み付けるのを私はとたんに表情を消して興味なさげに見つめる。
「……貴女、何位だったのですか?」
「……見ていないの?!」
「すみません、名前忘れてしまって」
「ジェシカよ!」
名乗られてようやく思い出す。
しかし、尚の事興味がなくなる。
「あ、ジェシカ・カールトン伯爵令嬢でしたか。すみません……それで、何位でした?」
「そ、それは……!」
私の淡々とした冷たいやり取りに、関係ない周りもが笑いをこみ上げているのを堪えている。
それを尻目にジェシカを見やると、答えられないのか私は振り返って改めて順位を見る。
しかし、彼女の名前は出てこなかった。
「まさか……圏外?」
「ジェシカ・カールトンは、不正を行い今回の順位は付かなかったんだ」
背後から声がしてまた振り返ると、そこにはクリス様が私の方を見下ろしてそう教えてくれた。
どういうことかと首を傾げると、何を思ったのか穏やかに目を細めて頭に手を置きポンポンと頭を撫でられて人前だというのに恥ずかしくて顔が赤くなるのを俯いて隠した。
「っ! 私達のクリストファー様に、近寄らないでよ!」
「きゃあっ!」
逆上したジェシカに私の肩を掴んで押し飛ばされ、体勢を崩してクリス様の方へと倒れるがクリス様に支えてもらえた。
「す、すみません……」
「大丈夫か?」
「はい……」
突然の事に、私は呆然としていると、クリス様が不愉快な表情を浮かべ、こちらを睨むジェシカを睨み返していた。
睨み合いが続くと、今度はジェシカが何者かに突き飛ばされた。
「ちょっと! シャルが怪我したらどうするのよ!」
「何するの、よ……!」
私が突き飛ばされた事により、クルエラが逆上して咄嗟にジェシカを突き飛ばしていた。
手を出したら駄目だと注意しようとしたが、二人は取っ組み合いの喧嘩に発展し、周りの生徒もそれを囲うように騒ぎながら見ている。
放心状態になっていた私は、クリス様に支えられながらクルエラを止めようと声をかけるにも二人は、キャイキャイと叫びながらビンタをしたり突き飛ばしたり乱闘のキャットファイトに発展してしまっていた。
――このままじゃ、クルエラが怪我をしてしまう!
あの、っと声を掛けようとしたがなかなかうまく行かない。
クリス様も「大丈夫」とだけ言って、止めようとはしないのを抗議しようとした時だった。
「いい加減にしろ!!」
学園中にビリビリと響き渡るような高らかな怒声は、王太子でもあるグラムの声だった。
その声に全員の声がピタリと止まる。
そのギャラリーの輪の中にグラムは割って入り、呆れた表情をしていた。
眉間には、くっきりと苦労の皺が寄せられている。
その後ろでスティが付いていた。
流石は王族、人間を取りまとめるのもお手の物だと感心する。
「クルエラ・ダディ」
「……はい」
「ジェシカ・カールトン」
「……っ……はい」
「お前達は、学園長に然るべき対処をして貰う。人間関係でいちいち揉め事を起こすな。……ここは学び舎であってお前達の嫉妬や妬みをぶつけ合う場ではない!」
ビリビリと響く低く体の芯から責め立てられるその声は、立派な王太子としても国の民を取り締まる生徒会長らしい発言だった。
それをよそで聞いている私とクリス様は、うんうんと、頷いた。
――断罪はノーカンですか? なんて言えないな……。
まったくもってその通りなのだが、変な茶々は入れないようにした。
ファンだかなんだか知らないが、それで嫉妬していじめ行為をしたり本人に迷惑をかけるような事をして、自分達の価値を下げているようなものだ。
それに気付かない彼女たちはそれだけ彼らに溺れているとでも言うのだろうか。
「ジェシカ・カールトン。お前は、今回の試験でカンニングというカーディナル学園の生徒あるまじき行為をした。しかも、前回の試験でも行っていたと話が回って来ている」
「そ、んな……!」
眉間に皺を寄せ、険しい表情で言い放つグラムの言葉で、ようやく彼女の不正という意味を理解した。
今回は、私に勝つためにカンニングをしたという事だ。
つまり最初から勝負になっていなかったのだ。
それがまた何故か笑えてしまって、クリス様の後ろで口元を抑えて笑った。
「お前は、本日を持って退学処分が決定している。今回の乱闘の件はお前の両親のもとにも話が行くだろう」
「あ、あぁ……そんな……!」
「そして、俺達を取り囲む者達へ告ぐ。周辺の人物へ行う蛮行についても、今後は厳しく取り締まる事になった。場合によっては連帯責任として、その集団全員退学になりかねない事を努努忘れるな」
親衛隊に向けた警告に、二人に対して色目を使っていた女子生徒達が青い顔をした。
でもこれで、私やスティに対する嫌がらせ行為や、嫌味を言われる事は減るだろうと確信した。
ただ、折角つらい試験を終えて晴れ晴れとした気持ちだった皆のこの空気は不味いと考えた私は、ある事をここに宣言しようと行動を起こす。
「――皆さん、この場をお借りして申し上げたいのですが……よろしいでしょうか」
「なんだ、シャル」
クリス様の後ろから顔を出して挙手しながら発言の許可をもらうと、中心に立ち、周りを見回しながらにこりと笑った。
それだけ少し空気が優しくなったような気がする。
ふと、断罪の日にこうやって手を挙げて物申した事を思い出して笑いがこみ上げるが、こほんと咳払いをした。
「学園祭実行委員会から一学期最後のご連絡です。この度、学園祭当日に学内ミスコンを行う事に致しましたので、ぜひ意中の方やおすすめの方を男女それぞれに投票した紙を各クラスで集めてください。締切は十月までです。集計を行い、票の多い方を出場者としてその方々にご連絡して出演の有無の確認をさせていただきますので、ここにいらっしゃらない方にもぜひ宣伝をよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げると、流石に空気の読めない宣伝だったかと内心後悔しながら頭を上げれば、周りから「おおおおおお!」と喝采が生まれた。
ミスコンは前から少し話に出ていた物で、やるかどうかの可否も発表も未定だった。
しかし、結構好感触のようで安堵としたが、それの代償に鋭い視線を感じてそちらを見ると、グラムとクルエラがこちらを睨んでいたため、咄嗟にすぐ謝罪した。
「ごめんなさい」
「もう! どうしてその発表する事を事前に教えてくれないの!?」
「あはは、空気が重かったから壊したくて」
「せっかく、お前たちのためにやったのに台無しにするな……」
「えへへ、ごめんなさい」
大騒ぎの中、私達は終業式のために講堂へと移った。
終業式も無事に終えて、教室でクラスメイト達と軽い挨拶を済ませてそそくさと寮へ帰った。
寮へ戻り、実家へ帰省する支度をしていると、クルエラがバタバタと慌ただしく部屋に入り成績表を見たのかと尋ねられて「まだ」と答えると「早く見て!」と言われて鞄を漁った。
――そう言えば、受け取って慌ただしく帰ってきたせいですっかり中身を確認するのを忘れていた。
言われるまま成績表を開き、中身を見ると、綺麗な筆跡で学園長からのコメントの欄が置かれていた。
こんなものあっただろうかと、不審げにしながらそれを見て顔を青くした。
「……あー、えらい事になった」
〝終業式を終えたら学園長室に来るように〟
評価じゃなくて呼び出しじゃん! と叫びかけて、慌てて立ち上がって成績表を持ったまま走り出した。
「やばいやばい。あぁ、やばい! どうしよう!」
つい口調が素になってしまい、頭が冷え切ったように思考が回らず慌てて息を切らしながらなりふり構わず廊下を走り抜け、学園長室の前に到着し、扉に手をついて項垂れながら肩で息をする。
何度も言うが、シャルティエは運動が苦手だ。
呼吸もままならないほどこんなに走ったのは初めてで、道すがら教員に遭遇しなかったのは不幸中の幸いだったと思う。
のんきに荷物をまとめていたせいで、日は傾き始めていて、かなり待たせてしまっている焦りと、身なりを整えないとと言う危機感とのせめぎ合いで髪を整え、折れ曲がったスカートを綺麗に伸ばしパンパンと叩いて埃を落とす。
少し落ち着いてきた呼吸に、胸を当てながら深呼吸をして改めて息を整えた。
そして、よしっと決心したように扉を叩こうとした瞬間、扉が開かれてそこから背の高い学園長が顔を覗かせ苦笑していた。
「遅かったね」
「申し訳……ありません……ごほっ」
まだ喋るにはままならなかったようで、息が詰まって咳き込んでしまうが、それも予想の範疇と言いたげに咎める事をせずに笑いながら「入りなさい」と言って招き入れられた。
招かれるまま中に入り、学園長は来客用のソファに腰をかけたため、向かい合うようにソファに腰をかけた。
なぜ呼び出されたのか分からずいたが、親衛隊の件で落ち着いたからその話だろうかと考える。
しかし、それだと成績表に書かれた物のタイミングが合わないと考えたが、どうせすぐに分かることだと考える事を諦めた。
「すまないね、まさかすぐに確認しないとは思わなかったんだよ」
「いいえ、こちらこそお待たせいたしました」
「今日呼んだのは、明日から君がベルンリア領へ帰省すると聞いたから少し話をしておかないといけない事が……ね」
話しておかないといけない事とはなんだろう、何か注意事項でもあるのだろうかと首を傾げると神妙な表情へと変わったため、真面目な話だと姿勢を正した。
「〝シャルティエ君には〟黙っていて欲しいと言われたのだが、そうもいかなくなってしまったから大事な話をする」
「私……?」
学園長と話したのも数えるくらいしかない、それなのに口止めを頼んだ覚えもなく、知らない話にき失った記憶かと推測した。
すると、突然立ち上がり窓際へと移動して窓を開けると、外から漆黒の艶やかな羽をしたカラスが入り込んではなしに学園長の肩に乗った。
彼はカラスを飼い慣らしているようで、その立派な嘴を指で撫でてこちらに近づいてくる。
なぜカラスを連れてこちらに近づいてくるのか分からず、不思議そうに見上げていると、カラスは飛びそして一瞬の光を放った。
「まぶし……っ!」
その眩しさに、目を瞑り咄嗟に顔を逸らす。
「……これは……」
その光も次第に落ち着き、私も目を開いて先程まで光っていた所に視線を戻すとそこには、黒い髪に黒い瞳、まるで日本人形のような容姿をした古風な、貴族女子の制服を纏った女子生徒がそこには一人そこに立っていた。
私は、そんな魔法のようなものを目の当たりにして呆けていると、女子生徒はくすくすと私の反応が面白いのかずっと笑っている。
「あの……、今のってもしかして……」
「あぁ、――私は魔法使いだ」
それで色々と察して、目を閉じて祈った。
――嫌な話でありませんように……。




