26クリストファー視点
2019/08/15 校正+加筆
クリストファー視点
放課後に生徒会室にはグラム、そしてシャルの代わりにスティが参加した。
スティもシャルを相手にした愚行が許せないのか、かなり機嫌が悪いようで、椅子に座らせたマーニーを見つめる視線はいつも以上に冷たい。
彼女も僕と同じで怒ると目が鋭くなる。
今日調べた情報だけで十分に分かった事は、どうやら今日の事件は彼女単独の物だと把握した上で、彼女しか呼びつけなかった。
生徒会室での騒動以降に、目を付けられている事をわかった上で、何故こんな行動に出たのか謎だった。
「マーニー・フランチェスカ。今回の件で、何か言う事はあるか?」
「……ありません」
諦めたような、何にも興味がなくなったような憔悴しきって正気の感じられない雰囲気を纏った彼女は、異様に不気味に感じる。
椅子に腰掛けたまま項垂れて、視線は下の方へ向いている。
こんな調子で事情聴取が出来るのか不安だったが、スティは座るマーニーの前に立ち視線を合わせる為にしゃがみこんだ。
しかしそれでも視線は合わない。
「貴女が王族の偽りのスキャンダルを広げた事により、すみませんでは済まされない事になっています。処罰は覚悟しておきなさい」
「――そんな事どうでもいいわぁ」
毅然とした口調で言うスティに対して、低くゆったりとした不安定さを持つ口調で言い放つマーニーに誰もが不快な感情を抱く。
しかし、それに対して誰も口にして言わない。
彼女の様子がおかしくなった事に気付いたからだ。
これ以上刺激しないように、グラムは平坦な声色で言い放つ。
「学園長からは、お前の退学処分が言い渡されている。あとの事情聴取はこちらに任されたが……。これ以上話すつもりが無いなら、慈悲も期待するな」
「私はこんなにクリストファー様を愛しているのに……どうしてこんな事に……、シャルティエが居なくなれば絶対、私の方に向いていたはずなのに」
「……僕は、お前を知らないし興味もない」
――シャル以外を選ぶ? 絶対にありえない。
普段の声色や口調を消して、話にならないからと立ち去ろうと踵を返そうとした時、何かが横を走り去った。
まるで、風が通り抜けたような速さに一瞬足が止まった。
振り返って走り去った者を確認しようとしたが、もうその姿はなかった。
聞こえるのは、廊下に響く走る足音だけ。
「待て! マーニー・フランチェスカ!!」
「まさか逃げ出すなんて!」
「とりあえず、追おう」
あんなに絶望的な表情をし脱力した様子だった後に、軽快な足音が遠ざかるのを感じた僕達は、あのまま放置するのは危険だと判断して捕まえる事にした。
後を追うが、目的地が分からないのかちょこまかと、あちらこちらと走りまわってなかなか捕まえられない。
そこでスティがハッと思い出したように考え込んだ。
「スティ?」
「シャルだわ。きっとあの子を探してるのよ。先日脅して、親衛隊の監視をさせていたし、それ以降にもお兄様と最近仲睦まじくしているのを気に入らない様子だったもの……狙われているのはシャルだわ!」
狙われるのはシャルだと分かると、早く捕まえなければ危害が及ぶと、先程までマーニーがそこに居た場所へ視線を戻したが、もうその場には居なくなっていた。
――早く捕まえないと、シャルが危ない……!
しまったと慌てて周りを探すが見当たらない。
見失ってしまったという事はシャルを先に保護する方先決だと判断し、急いで保健室へと向かった。
道中で女子生徒が腰を抜かして座り込んでいるのを発見して、グラムが助け起こした。
どこも怪我はしていないかスティが尋ねるが、怯えた様子で、この場で唯一の女性のスティにしがみついた。
「フランチェスカ様に首を絞められて……フェリチタ様の場所をお尋ねになられて……。保健室だと教えたら……突き飛ばされてしまいました……。とても恐ろしくて……」
「分かった、ありがとう。今日は危ないから、他の生徒へ早く帰るように見つけ次第言いまわってくれると助かる」
緊迫した状態に、気にかける口調にする事が出来ず、業務的な指示をそれだけ伝えると走り出した。
その後をグラムも付いてくるが、女子生徒が気になるようでスティだけは「あとから行くわ!」という言葉が聞こえてきたのをそのままにして保健室へと向かった。
「クリス! 少しは落ち着け!」
「所在を聞く為に首を絞めるなんて普通じゃない! シャルに何かあったら僕は……!」
「分かっている! お前の言いたい事は分かるが、感情的になってマーニー・フランチェスカに危害を加えないようにお前を止めるのも俺の今の役目だ!」
二人並んで走りながらそんな話をする程には余裕があるつもりだったが、グラムの言葉で少し頭が冷えた。
すぐそこまで見えている保健室の前には、保健医がそわそわして立っていた。
「先生! ここで何を……!」
「あぁ、二人とも……。あの、席を外して欲しいと言われて出たのだけどすごい物音がして……でも怖くて入れなくて……」
おどおどと中の様子が気になるのかチラチラと中を覗こうとする動作をするが、やはり怖いのかパッと顔を離す。
探している人物はそこにいる事はすぐ分かり扉を開けた。
「シャルティエぇ……ふぇり…ちたぁ……! 死ね死ね死ね!! 殺すゥ!!」
扉を開けるとマーニーは、手にカッターナイフを構えて振りかぶって金切り声で叫んでいる所だった。
声をかけるより先に体が動き、マーニーの振り上げた腕を掴むと、そのまま床へ投げるように払い退けた。
暴れたマーニーは、カッターナイフを振り回し、倒れる直前にその刃がこちらの手に当たり、多少切り傷になった。
しかし、彼女はグラムが押さえつけ、咄嗟に近くにあったテーピングを使って手足を拘束した。
「離せぇ!!! シャルティエ・フェリチタぁぁあああ!!!! 殺す殺す殺すのよぉー!!!」
「駄目だ、先生! 彼女を眠らせる方法は何かありませんか!」
「ち、ちょっとまって!」
大きな学園ゆえ、保健医の彼女は優秀な医学に精通した人間だ。
おそらく、眠らせる程度の薬も持ち合わせているだろうと踏んで聞いてみたら正解だった。
慌てて取り出した注射器で彼女に注入すると、次第に落ち着きそして眠りに落ちた。
ここでようやく一息ついて、シャルがベッドの側で座り込み小さくなって頭を抱えたまま震えているのを発見する。
近くに寄ろうとしたが、足音に怯えて肩がびくりと震えたように見えた。
「シャル……? 僕だ、遅くなってすまない」
ピクリと僕の声に反応して、ゆっくりと頭を抱えた手を解いて顔を上げると、涙でぐしゃぐしゃになった可愛い顔を見てホッとする。
最近は毅然とした態度が多く、余裕そうな様子だった印象の強い彼女が、それだけ怖い思いをしたのだろうと察して今すぐ抱き締めたかった。
しかし、急に抱き締めて更に怖がらせてしまいそうだった為、出来るだけ刺激しないように近寄る。
ゆっくりそばまで近寄り、目の前にしゃがみこんで、両手を広げて見ると、まだ腰が抜けて動けないのか、僕が目の前に居る事が信じられないのか呆然とこちらを見ていた。
そんな彼女に、安心させるように優しく名を呼んだ。
「……シャル」




