19:一夜の橋
1
「つまりね、ノヅチたちに橋を作ってもらえばいいのよ」
川沿いの街道を歩きながら、玉姫は簡単そうにのたまった。
「はぁ……」
「なによ、その気乗りしない相槌は」
「え、だって」
本当にそんなにうまくいくだろうか?
カヤには姫様の自信の源がよく分からない。
玉姫が説明してくれた計画はとても単純だった。
「木を切って、蔦かなんかで一つにまとめて……簡単な物ならこの妖怪なら作れると思うの」
言いながら玉姫は地面に木の棒をまとめた、玉ねぎの川の様な構造体の絵を描いた。
「で、これをいくつか向こう岸まで投げて、最後はノヅチたちに踏ん張ってもらって固定してもらう……」
玉姫は木の板とノヅチが交互に組み合わさったような奇妙な橋の絵を描く。
カヤはなぜか、ガンプラという単語を思いついた。
「でも、この橋、ノヅチが一人でも力を抜いたらすぐに崩壊すると思うのですけど」
カヤの問いに自信過剰な姫君は頷く。
「別にそんなしっかりした橋じゃなくていいの。私たち二人が通れればそれで必要十分。むしろすぐに壊せた方が都合がいい。橋が残ったら私が上杉領に渡ったことがばれてしまう可能性があるもの。さすがに向こうにまでお父様が手を回せないとは思うけれど、念には念を入れておいた方がいいわ」
玉姫はカヤとその服の下に潜む妖怪に噛んで含ませるように言い聞かせた。
「ていうか、山崩れを起こせるんだから、橋の一つくらいかけられて当然じゃない?」
「その理屈は分からないです」
ええぇー、と玉姫は頬を膨らませた。
玉姫の理屈は分からないけれど、確かに、ノヅチたちは結構力持ちだし、これくらいの物なら作ってくれるかもしれない。問題はどうやって作るものを伝えるかだけど、このモフモフは意外と頭が良いらしく、割とこっちの言い分を分かってくれることも多い。
案外現実的な計画なの、かも……?
「ね、これ行けると思わない?」
玉姫の言葉に、胸元から顔をのぞかせた一匹が、暢気そうに「きゅいきゅい」と相槌を打った。
「あなたがやるんですからね? 分かっているのですか」
「きゅい?」
モフモフは、モフっとした頭を傾けてカヤを見た。
本当に分かっているのだろうか。
不安を覚えないわけではない。
でも、他にいい方法も
「出来るだけ川幅が短くなっている場所を探しましょう。それから人目がない方がいいわね」
けれど、岸辺には村とも言えないような小さな集落が点在しており、そんな場所は容易には見つからなかった。
田んぼもそれほどないのに、どうやって生計を立てているのだろうか。
カヤはあたりを見回しながら首を傾げた。
2
「この辺でやってみましょう」
小さな集落を二つほど越えたところで、カヤたちはちょうどいい場所を見つけた。
そこで川はちょっとした森を貫いており、街道は森を迂回する形で川から離れていた。
森の中ならば人影は見当たらない。
川幅はそれほど小さくなってないが、川の中ほどには尖った岩が突き出ており、足場にできそうだった。
橋を作る資材も得られるし都合が良さそうに見えた。
「さてと、とりあえずやってみましょう。カヤ、ノヅチたちを出して」
カヤは帯を緩め襟や袖を少しだけ開いた。
「皆さん、出てきてください」
「きゅぅ~」
「きゅいきゅい」
「きゅぴーん☆」
開かれた隙間から次々とモフモフとした抱き枕の様な生き物たちがはい出て来る。
その数、二十以上、エクストラな次元付きのポケットにでもなった気分。
「さてと、あんた達? 話は聞いていたわね?」
「きゅい~?」
「橋を作るのよ。さっきの図は覚えている? よーし、イケイケー!」
「きゅい~!」
玉姫の号令に従ってノヅチたちは散らばった。
「さてと、後は待ってるだけで橋が出来るって寸法よ」
「そんなにうまくいきますかねー?」
姫様は自信があるようだったが、カヤは。
まあいいや。
とりあえず成り行きを見守ってみよう。
カヤたちは河原に腰を下ろした。
3
一刻もせずに、橋のパーツは完成した。
「はやっ!」
思わず驚きの声を上げるカヤ。
「うーんさすがノヅチ、いい仕事してるわね」
ノヅチの作った橋の部品を確認しながら、玉姫は鑑定士の様に目を細めた。
けど、確かにノヅチたちの作ったパーツの完成度はカヤも認めないわけにはいかなかった。
寄木細工のように複数の木を組み合わせて作ったパーツは軽くて頑丈で、合わせ目処理も完璧。
1/1眼鏡橋と銘打っていつでも新発売できそうな出来栄えで……
「って、こんな部品作れって、姫様、言ってましたっけ?」
カヤの記憶が正しければ、玉姫はもっと貧相な橋を考えていたように思う。
「別にいいじゃない。渡れるなら、これ組み合わせてもらえれば橋は出来そうだし、やっぱり私は間違っていなかったわ!」
ポジティブー。
「きゅぅきゅい?」
何かを求めるようにカヤの元にノヅチたちが集まってくる。
「ああ、はいはい、えらいえらい」
カヤはおざなりにモフモフたちの身体を撫でてやった。
「ぎゅぅ~~♥」
ノヅチたちは何とも言えない独特な声を上げて身もだえした。
ここまで喜ばれるとちょっと気分がいい。
まるで役者やアイドルにでもなった気分……
「でもお尻を触るのはやめてくださいね」
ひっそりと少女のお尻に身体を伸ばしていた一匹をつまみ上げたカヤは、そのノヅチを地面にぽいっと放り投げる。
「きゅい~……」
黙って抜け駆けをしようとした一匹を囲んだノヅチたちは、慰めるよう肩(?)を叩いていた。
謎の友情がそこにはあった。
姫君は手のひらを叩きノヅチたちを集める。
「さてと、それじゃあ最後にもう一仕事やってくれる?」
「きゅい~?」
ノヅチたちが玉姫を見上げた。
「この部品を組んで橋にして、川にかけてちょうだい。部品を運んで、くっつけて欲しいの、あなたたちなら出来るでしょ?」
「……」
ノヅチたちは互いに顔を見合わせる。
「?」
ノヅチたちはどこか気乗りしない様子に見えた。
「きゅ、きゅい~……」
ノヅチの中から一匹がおずおずと二人の前に現れる。
その茶色いモフモフはどこか困ったような様子で二人の少女を見上げた。
「どうしたのですか?」
「きゅい、きゅきゅう、きゅぃ、ぷい~……」
もちろん二人には茶色の毛玉が何を言いたいのか分からない。
「何かできない事情があるのでしょうか?」
「うーん、でも出来ない事情って?」
カヤと玉姫は顔を見合わせた。




