2-11 勇者の寄り道
とにかく俺達はまたしても、熱々のマイア料理に齧り付いていた。
「美味い、これは美味い」
「本当ねえ」
聖女様も汗を拭き拭き、夢中で食べている。
「こりゃ実にうめえ」
「美味しいー」
「辛いけれど美味しいわあ」
「美味しいです~」
みんなも夢中だ。今日の料理は、ひき肉と野菜を使ったものだ。たっぷりと香辛料を使い、生の菜っ葉が添えてある。炊いた米が添えてあって、たまねぎの甘いスープ付きだ。この前よりも辛いが、後を引く美味さだ。
夢中にかき込む俺達を見て店主が笑って言った。
「本国の辛さはこんなものじゃないよ。辛さも味付けも、この国の人の舌に合わせてあるからね。いつか本国へ行って食べてみておくれ。ここの料理が気に入った人なら大丈夫だよ」
「そりゃあ、是非とも行かなくちゃあなあ。俺達田舎の村から直接王都に出てきたから、なかなかそういうのはお目にかかった事がなくって」
「是非行ってみたいわ」
「さんせーい」
「いいな、行くか」
「いいですわね」
「行きましょう~」
全員意見が一致した。
「はは。景色なんかもこの国と違って、なんというのか、エキゾチックという奴かな。楽しんできてくれたら嬉しいねえ」
リュウにもお試しでやってみたが、まだ辛いのは駄目だったらしい。ちょっと涙目だった。スープは手に持って飲んでいたが。奴には辛くないお子様メニューをやっておいた。
普通なら入店拒否なのだろうが、『聖女様の聖龍』という事になっているので、この町ならフリーパスだ。俺達はすっかり馴染みになったこの街で旅情を遠慮なく堪能していたのだった。
翌日、俺達は半分ピクニック気分でのんびりと帰った。道中の開けた休憩所で昼食にする事にした。メニューは当然カレーだ。
一応最初だから甘口。みんな辛くて美味いのはいけそうだけど、約1匹お子様がいる。このドラゴンは雑食っぽい。何でも食うし、お腹壊したりもしないし。イリアさんも、特に食事には気を使わなくていいと言っていた。肉より草木関係が好きなようだが。味覚はよく発達しているようだ。
「へえ、これが前に言ってたカレーって奴かあ」
ジェンカが興味ありげに覗いている。
「これって辛いの?」
ジーンが聞いてくる。今度、手料理で作ってほしいな~。台所つきの部屋が欲しいぜ。もう一部屋借りて改造してみるか。
風呂付にしてみるのもいいかもしれない。いっそ、あの家を買うか。まだベリーヌがいるけど、あの子はギルドの子だから、そのままいてくれてもいいし。ギルドとの伝令係にちょうどいいぜ。ギルマスに相談してみるか。
「こいつはそう辛くはないよ。甘口って書いてあるだろ」
「読めないわ。よくこんな字が読めるわね」
「不思議ねえ」
ジェンカがカレールウのパッケージを持ち上げて、しげしげと見ている。リュウが興味津々で取ろうとしている。
「あはは、リュウ。そいつは辛いぞ。お前には、これをやろう。赤い皮は食べるなよ」
リュウには細長い魚肉ソーセージを剥いてやった。気に入ったのか、ずっとしゃぶっている。まあいいけどな。
子供の頃はビニールの裏に付いたソーセージの肉を舐め取ったのを思い出した。カップアイスの蓋も大好物だったぜ。あ、今日のデザートはそれにしよう。この国ってアイスクリームみたいな氷菓は無いんだよな。
どうも子供の頃の記憶が2つあるんで混乱するが、食い物関係はラップしないんでわかりやすい。
御飯も飯盒炊飯で炊いた。このへんは俺が手慣れたもんだ。リュウが突こうとしているので抱っこして連れていき、レミーとアイカに任せた。
こいつこそ、抱っこできるのは今のうちだけだぜ。クラウスがテーブルなどを用意してくれているので、その間にガンガンにジェンカとジーンが野菜を切っている。こういう野外料理はジェンカも大の得意だ。
それからスキルを使ってカレー用の牛肉を4パック買って手早く炒める。今日はカレールウ2パック分作るのだ。一応カレー20杯分だ。多分、みんないっぱい食いそうだし。足りない奴は、パックの御飯とレトルトカレーね。
何かリュウがじっとこちらを見ている。ぐつぐつと肉と野菜を煮込んでアクを取っているだけなのだが。監視をしていないと駄目らしい。猫みたいな性格の子だな。高ランクの龍は賢い生き物だから好奇心が強いのだろう。
「ねえ、これってただのシチューじゃない? 本当に美味しいの?」
地味な作業になってきて飽きたのか、ジェンカがそんな事を言い出す。
「うっさいな。このカレールウは日本の技術の結晶だぞ。まあ楽しみに待っていろ、そんなにかからないからよ」
俺は焦げ付かないように鍋をかき回しながら言った。一応ガスコンロを出している。カレーが焦げたらあれだし。
御飯の方は野外用の薪を使う調理台を使っていて、お焦げ料理も狙っているのだ。鍋もかけられる薪ストーブもあるのでそっちを使ってもいいのだが、カレーは無難にガスコンロで煮込んだ。ルウを溶かしたら弱火にしないといけないしな。
やがて煮込みは終了してカレールウを溶かし入れると、辺りに良い匂いが広がる。リュウもくんくんと嗅いでいる。久し振りのカレーだぜ。
「いい匂いねー」
ジーンもカレーの匂いに感動しているようなので、料理用の缶入りカレー粉を見せてやる。
「これ、なんにでも使えるぜ」
「へえ?」
「その代わりになんでもカレー味になっちまうけどな」
この世界にも多彩な香辛料はある。マイアへ行けば、この世界のカレー粉みたいな物があるかもしれない。カレー粉って地球のインドにはないけどな。
「よし、マイアへ行こう!」
「え! 今から王都に帰るんじゃないの?」
「あ、ああ。今すぐじゃないから。香辛料が欲しいな。地球風の料理を再現するのも可能かもしれないし」
「ふうん、シャルも意外と食べる事には拘るのね。私、頑張らなくっちゃ」
そんな会話をしている間にカレーが完成した。野菜もよく煮えているし、味もいい感じだ。火加減以外でそうそう失敗する料理じゃないんだが。
リュウの奴がカレーの匂いにそわそわして足元をうろうろしている。
「クラウス、ちょっとリュウを抱っこしておいて。鍋を引っくり返したら危ない」
おチビさんは『お兄ちゃん』にお任せしておいて、俺は大鍋をテーブルの上に置いた。とても野外のランチに使うとは思えないようなガッシリとした木のテーブルに載せて、御飯の飯盒を持って来た。米もいい感じに出来ている。お焦げも、ほどよく手に入った。
「まずリュウの味見からな」
俺はちょっと深めの器にカレーを入れて、食べさせてみた。
くんくんと匂いを嗅いでいたが、舐めたら気に入ったらしく手で俺の服を引っ張って次を催促された。皿に御飯と一緒によそって、出してやったが溢してしまうので俺がスプーンで食べさせた。夢中で食っている。
「あたしらも食べようよ」
ジェンカが提案したが、アイカはすでに無言でよそって一口目を口に入れたところだった。
「美味しい~。マイアの御飯もよかったけど、これも美味しい~」
こいつは日頃大人しめのくせに食い物になると目の色が変わるな。何かトラウマでもあるのか?




