1-32 喝采
それから俺達は警戒しつつ進んだ。本隊にはアイカが付き、クラウスがその護衛についた。レミーもそっちの戦力だ。
俺とジーンとジェンカが組になって車で回り、冒険者を見つけては知らせておいた。ギルドが作らせたセイフティゾーンだ。
ただの退避壕なので何もないが。大きな魔物は入ってこられない。入り口を閉じれば普通のも入れない構造になっているシェルターだ。アイカがいるので冒険者を探すのはそう難しくはない。入り口から声をかけていく。
「おい、6階層の入り口にいた魔物は片付けた。もう帰れるぞ」
中から顔を覗かせた冒険者連中が顔を綻ばせる。
「本当か~。ところで、そのお前が乗っている物は一体なんだ?」
「これは車という物だ。気にするなよ。水と食い物もあるぞ」
俺は車から降りてギルマスから預かった収納袋から水や食い物を取り出す。
「やったあー。うう、もうひもじくてよ~」
「誰か怪我人はいないか?」
「こっちにいる。足が折れているんだ。神官さんが一緒か? 頼む、診てほしい」
「ジーン、診てやってくれ」
ジーンの回復魔法も、Bランク魔物達との戦いを経て、とても強くなっていた。
「うお、すげえ。折れた足がみるみるくっついていくのがわかるぜ。聖女様かよ!」
大方の冒険者は休憩所にいたので無事だった。へたばっていたので、ギルドからの配給の食い物と水を配り、魔物が退治された事を知ると皆喜んでくれた。
先ほどのようなやりとりを何度も繰り返し『ジーンの名声』が高まっていた。
「シャル。何かおかしくない? 大活躍してみんなを助けたあなたじゃなくて、何故私が称えられていくのか」
「そんな事はないさ。当然だろ。だって俺のジーンは最高なんだからさ」
しばらくは、Bランクを中心に6~10層を中心に監視が続けられ、俺がBランクに上がったので俺達のパーティもその哨戒活動に自主的に参加したが、その後に異常は見受けられずに警戒は解除されて、ダンジョンは常態を取戻した。
俺達はギルマスに呼ばれ、また昇格が伝えられた。
「まずジーン。多くの冒険者から嘆願と推薦があった。無償の奉仕活動、そして戦闘における幾多の活躍。満場一致でのCランク昇格だ。お前にはギルドから敬意を込めて『聖女ジーン』の通り名を与えよう。なお、受け取り拒否は許さないからな」
「ええっ」
ジーンは赤くなったり青くなったりで傍から見ていると面白かったが、それも含めてジーンはやっぱり可愛いわ。
「次にアイカ、お前は問答無用での昇格だ。あの作戦に参加した全ての冒険者から推薦を受けている。おめでとう。無論、わしからの推薦も含んでおる。お前の通り名は『全知のアイカ』だ」
俺も立ち上がって拍手をした。みんなもそれに習った。なにしろ、こいつがいなかったら、全員間違いなく死んでいた。
紛れもなく。あの作戦に参加していて、この子のCランク昇進に反対する奴がいたら、他のみんなが許さないだろう。特にロビンソンさんは。
「よくやった」
あの時、そう言ってぐりぐりとアイカの頭を撫ぜていた。ジェファーソンさんはそれに続けてこう言った。
「あの人は自分にも厳しい人だが、他人にはもっと厳しくてね。つきあいは長いが、人を、ましてや新人冒険者を褒めるなんてなあ。驚きだねえ。あ、坊主は褒めてもらえなかったね」
俺は思った。この人って悪い人じゃないんだけどね。空気とかは読まない人だなあと。一言多いって言うのかな。
うん、俺はこの人の事好きだけどね。この人は俺達ひよっこを守るために、Bランクが犇いているかもしれない戦地に真っ先に駆けつけてくれたのだから。
「続けて、レミー。あの時、お前の魔法がなければ討伐隊の半数以上が戦闘不能になっていただろう。充分Cランクの要件は満たしている。何より攻撃魔法の威力、そして稀有な二刀流の魔法使い。先に期待したいという意見も多い。存分に精進してほしい。お前の通り名は『氷雪のレミー』だ」
立ち上がって何か照れ照れな感じで、汗かいて周りに挨拶しているのを見ると、いいやつなのが丸わかりだ。
周りにいた冒険者の野郎どもが色めきだつ。こいつって、男受けするタイプだ。しかも、それが嫌味じゃないから女の子にも嫌われない。何気に凄い資質だと思う。
「次はジェンカ。その能力を信頼されて見事に後詰めをこなし、お前はアイカが抜けた後も的確な判断で本隊を進ませた。おかげで危機一髪の先鋒どもの首が紙一重で繋がった。バランスの取れた能力、的確な判断力、危機にある状態でもチームの士気を高められる性格、ある意味で真にCランクにもっとも相応しい資質を持っている。お前がCランクパーティのリーダーでないのはある意味損失ではないかとさえ思えるほどだ。お前には『感知』の二つ名を」
まるでBランクの資格無しといわれているかのようで、ジェンカも微妙な顔付きだが、彼女にもわかっている。
この前からの騒動で多くのCランクパーティが崩壊した。判断ミスによる全滅も含めて。このギルマスの言葉は、ジェンカにだけに向けられた言葉ではない。ジェンカは間違いなく褒められているのだ。
「そして、クラウス。戦士として優れた資質は持っているものの、目立った活躍はなかった。だが、常に周囲に気を配り、むしろ事後に活躍してくれていた点は大いに評価したい。お前のような冒険者にはもっと増えてもらいたいものだ。通り名は『鋼のクラウス』だ。今後も曲がらず折れず頑張ってくれ」
おおーっと、冒険者達がざわめいた。わかる。このタコ親父は、きっとあのロビンソンさんよりも、もっと人を褒めないのだ。ましてや、こんな褒め方はしない人間なのだろう。縁の下の力持ちが好きなタイプだ。
「そして、シャル。よくやってくれた。俺の剣を授けた甲斐はあったな」
あたりはまるで閃光のような歓声に包まれた。なんだあ?
というか、やっぱりアレは、おやっさんの剣だったのかよ。まあ薄々は知っていたけどね。
「よって、このシャルには『Aランク試験』を受けてもらおうと思う」
続けて周囲が、はじけるような爆笑に包まれた。ええ~、なんでだよー!
「頑張れよ、小僧」
「へこたれるんじゃねえぞ」
「こりゃ、いいツマミだ」
「ぶわはははは」
爆笑しているのは、ジェファーソンさんじゃねえか~。
なんじゃ、そりゃあ~。俺の困惑をよそに、周りの歴戦の勇士どもはガンガンに盛り上がりまくっていた。果てはロビンソンさんまでが満面の笑顔で、俺の背中をバンバン叩きにやってくる。
はあ!? はあーー?




