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残念な悪役令嬢とヒロイン

イオリア視点になります

 私は王太子殿下にお願いいたしました。


「本物のエルシィ嬢にお会いしたいです」


「……イオリア、今は私とお茶の時間だろう?」


「本物のエルシィ嬢にお会いしたいです」


「……イオリア……」

「本物の!エルシィ嬢に!お会いしたいです!!」


 王太子殿下がだらだらと汗を流す。エルシィ嬢に何かあるんですの?


「…アイザックもエルシィの家なら知っているよ。残念ながら、私はある人との契約によって他者にエルシィの情報を流せないんだ。アイザックにその契約はないから、彼を頼るといい」


「…………わかり、ましたわ」


 誰が、何のためにエルシィ嬢の情報を伏せるのかは不明です。不安もありますわ。でも、アイザック様がエルシィ嬢に盗られるのではないかといつまでも怯えていたくありません。


 私は、進むと決めました。






「お願いします、アイザック様」


「…駄目だ」


「お願いです、アイザックぅ…」


「……だ、駄目だ」


 くっ…仕方ありませんわ。ライラがアイザック様はちょっと胸を強調して上目遣いでおねだりしたらイチコロだって言ってましたわ!


「…ジャック……お・ね・が・い」

「仕方ないな!」


「わーい」


 本当にイチコロでしたわ!ちょっと恥ずかしいですが、またお願いがある時にやってみましょう!


「……く…なんと的確な攻撃なんだ……」


 アイザック様が胸をおさえてハァハァしていたけど、気のせいよね?







 そして、アイザック様は何度か来たことがあるお家に連れてきてくれました。


「…ここは……」


「このこぢんまりとした家に子猿…エルシィが住んでいる」


 ここにはエルサールとルイザさんの愛の巣では?まさか…まさかエルサール、新婚なのに不倫!?いえ、同居してるなら離婚!?いやいや、二世帯住宅??

 私がパニックになっている間に、アイザック様はためらいなく呼び鈴を鳴らしてしまいました。ま、まだ心の準備がぁぁ!?


「はーい、あれ?アイザックじゃん。珍し………」


「………え?」


 エルサール…女装も似合いますのね?あら?よく見たらエルサールって喉仏もないしまるで…………


「エルシィ、固まってどうし………」


 ルイザさん、男装がとってもお似合いですわ。あら?ルイザさんに喉仏??よく見ましたら、体がエルサールよりがっちりしてないかしら?


「……何故固まっている。茶ぐらい出せ」


「お茶?ああ、お茶。ルイス、いいやつあったよね!?こないだ商人ギルドのギルマスさんがくれたやつ!」


「ソウダネ!?えっと、アップルパイも出そうか!こないだイオリア様喜んでたし!」


 先日お邪魔した時に、ルイザさんのお手製アップルパイをいただきましたの。ものすごく美味しかったのですわ。それを知っている…姿は違えど、やはり……?いや、何故男装と女装??


 二人は私達を家に招き入れてくださいました。そして紅茶とアップルパイを出してくれました。甘いものが苦手なアイザック様にはスパイシーなクッキーです。

 姿は違えど、やはり二人は二人。手際よく役割を分担して動いています。見た目が違うだけで、やはり本質は同じなのです。



「「騙しててすいませんでした!!」


 テーブルセッティングを終えるなり、二人は私に頭を下げました。


「仲良くなればなるほど言い出せなくて…本当は、イオリアたんとガールズトークしたかったです!!」


「…あら」


 ガールズトーク!私もしたいですわ!!


「本当にすいませんでした。僕も女装趣味の変態とは思われたくないし、イオリア様を友人だと思っていたので嫌われたくなくて…言い出せませんでした」


「ルイザさん…」


「本名はルイスです。ルイス=クレバー。そして、妻のエルシィ=クレバーです」


 エルシィ=クレバー?エルシィ=ヒルシュではなく??つま…妻!結婚しているんですの!?


「つ、つまり…貴女がエルシィ?本物のエルシィなんですの?」


 エルサール…いいえ、彼女が本物のエルシィ?何度も会っていたのに気がつきませんでしたわ。


「うん。今まで騙していてごめんなさい。一応色々事情があるんですよ」


「ええ。エルサール…いいえ、エルシィが意味もなく嘘をつくなんて思っていませんわ。支障がない範囲で理由を聞かせてくださるかしら?」


「うん。実は………」


 予想外に波瀾万丈過ぎるエルシィの行動。何故騎士見習いをしていたか、聖剣の覚醒、魔王をほぼ単体撃破、さらには誘拐事件…。


 アイザック様が隣で白目をむいておりました。

 そんなこんなで国家レベルでエルシィ=ヒルシュは秘匿されているそうです。聖剣にそんな話があったなんて知りませんでした。ゲームシナリオをおぼろげながらも思いだし、知っていれば何か自分にもできただろうかと思いました。


「おい、俺は誘拐事件について聞いてないぞ!?」


「言ってないも~ん。そもそもアイザックは無駄なことを一切言わないから、封じる必要もなかったし」


「ぐっ…」


 アイザック様とエルシィは親しい間柄のようですわね。口調もくだけているし、王太子殿下とのやりとりとも似ていますわ。


「イオリア様、お茶のおかわりはいかがですか?」


「いただくわ。ルイザ…ルイスさんのお茶もお菓子も、いつも通りとても美味しいですわ」


「ありがとうございます」


 ルイスさんの紅茶とお菓子を堪能していたら、いつの間にかエルシィとアイザック様が険悪なムードになっておりました。


「バーカ、クソゴリラ!悔しかったら一回でも私に勝ってみろ!!」


「………殺す!」


 アイザック様はエルシィに完敗でした。どうやら王太子殿下よりもエルシィは強いようですわ。そういえば、エルサールの頃から負けている気がします。なぜ勝てぬ勝負を挑むのでしょうか。不思議ですわ。


 私はこの日、友人達の秘密を知りました。彼らは私が騙されたと怒るのではないかと心配しましたが、私は彼らが悪意があって騙していたのではないと理解しています。

 友人達の距離が縮まった気がして、とても楽しく過ごしました。


 もう少し続きます。

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