ありがとう、皆
あれから、さらに月日が経った。今日はゲーム終了の日。ルイスにお願いして、また学校に潜入した。
ゲーム終了の日とは、学園の卒業ダンスパーティー。本来ならば悪役令嬢イオリアが糾弾される場面である。しかしヒロインである私が不在の学園でどのような結末となるのか、とても興味があった。
今回、私は例によって男装しております。毎度おなじみエルサールですよ。冒険者の仕事でも男装しておりますんで、とてつもなくしっくりくるのが切ない。
「エルサール、待って…これ歩きにくい…」
「ああ、すまない。どうせなら抱えていこうか?ああ、本当にマイスウィートは愛らしいな」
「いい!いらない!マイスウィートって何!?」
「私の甘くて可愛い人…という意味だよ」
ルイスに顎クイすると、周囲からきゃああと黄色い歓声が聞こえてきた。いやあ、女子って可愛い。そして世界一可愛いのがルイスである。
実は今回、なんとルイスが……マイスウィートが………
女装しています。
大事なことなので、もう一度。
ルイスは、女装しています!!
服はエメルダさんがチョイス。マチさんが化粧とヘアメイクしました。
結果、奇跡の美少女ルイザちゃんの完成である。あまりの美しさにエメルダさんとマチさんがへこんでしまった。それも仕方ないと思えるぐらいにルイザちゃんは美しかった。
長い睫毛、人形のように整った顔、プルプルの唇。体型をカバーするため首もとを隠すタイプのドレス。乳は盛ったので推定Dカップ。特殊素材で本物みたいな揉み心地。めっちゃ揉んだら叱られました。解せぬ。
そんな美少女ルイザちゃんのエスコートをする私。もう現時点でハイテンションエルシィ…いや、スーパーハァァイテンションエルスィィィ!!なのですよ!
「ルイザ、せっかくだから踊ろうよ!」
「ええ!?ぼ…私、踊れないよ?」
「大丈夫!私に任せて!」
最初は身体を硬くしていたルイザ…ルイスだけど、慣れてきたのか最後には楽しげな笑顔を見せてくれた。私の男性パートは完璧だから、ダンスに不慣れな女性のリードも問題なし!
一曲踊り終えて飲み物でも…と思ったら、可愛らしいお嬢さんに声をかけられた。
「あ、あの…一曲踊ってくださいませんか?」
「…すまないね。私にはこの子がいるから、お誘いには応じられないんだ」
お断りしようとしたら、ルイスが別にかまわないというので可愛いお嬢さんとも踊りました。
そして一曲踊っている間に私の嫁を口説こうとする男達。
「悪いけど、この子は私の妻なんだ。お引き取り願おうか」
カリスマシャワー全開で威圧して、可愛らしいお嬢さんに誘われてもお断りし続けました。ルイスに何かあったら困るからです。可愛いルイスは私が守る!!
それからしばらくして、会場が暗くなり舞台に灯りがともされた。舞台には、アイザックと私に扮したお兄ちゃん。ついにエンディングシーンが始まるようです。つか、お兄ちゃんはアイザックを攻略したわけ?え??ベーコンレタスな世界??私は混乱していた。
何度も見た、あのゲーム。そのエンディングシーンの再現。
「イオリア、来なさい」
「…はい」
どこか顔色が悪い月の女神はゆっくりと舞台に上がっていく。
そして月の女神を待つ二人。中身を知らなきゃお似合いかもしれないね。月の女神は二人にぎこちなく笑った。
そして、二人は月の女神に向き合い……
…………ひざまづいた。
んん?
月の女神はものすごくビックリしたみたいで、めっちゃまばたきしまくっている。なんか深呼吸までし始めた。
私にも何故そうなったかがわからない。いや、皆ポカーンとしている。
「………え?」
「イオリア…」
アイザックが優しく月の女神を呼んだから、月の女神はふらふらと声に誘われてアイザックの側に行こうとする。
「ちょっと待った!!」
「ふぇ!?」
待ったをかけたのは、私に変装したお兄ちゃん。なんか面白いことになりそうな予感!
「ねぇ、イオリア?イオリアは私を好きよね?」
「え?そ、そうね」
戸惑いながらも頷く月の女神。ぜひ私とも仲良くしてほしい。
月の女神はお兄ちゃんに手を取られている。
「ふっ」
勝ち誇った様子のお兄ちゃん。何故かうちひしがれた様子のアイザック。お兄ちゃんはあくまでも私だと思われているから、そんなにへこまなくてもいいんじゃない?
「結婚しよう、イオリア」
「へ?」
お兄ちゃんが月の女神を抱きしめた。月の女神はナニかに気がついたらしく、キョトンとしている。
あ、お兄ちゃんさりげなくセクハラしてる。私の姿で女神の尻を揉むな!
「あ、アイザック様!」
なかばパニックで必死に助けを求める月の女神。ルイスがナニかを投げ、見事にお兄ちゃんの頭部に直撃した。アイザックはその隙に月の女神を救出する。
月の女神ことイオリアたんはアイザックの肩にすり寄って幸せそう。そんなにあのアイザックゴリラが好きなんだね。
あのゴリラ、めっちゃハァハァしているが…いいのか!?本当にそのゴリラでいいの!?イオリアたぁぁん!!
くそう、いっそ私も参戦したい!!しかしルイスに首を横に振られた。ですよね~。
「イオリア、けっこ「待て!イオリアと結婚するのは私だ!」
お兄ちゃんがゴリ…アイザック様を遮った。
「エルシィ…貴方は…誰?」
スポットライトがお兄ちゃんに当たる。あれは光魔法の応用で、お兄ちゃんが自力でやってるらしい。器用だね。
「ある時は通りすがりのきぐるみ客引き…」
「この国の王太子は暇なの?」
ルイスが超真顔でした。しかし、否定できないよ。何してるんだよ、お兄ちゃん……
「ある時は清楚可憐な伯爵令嬢!」
あ、女装姿…ちょっと見ない間にまた女子力が上がっている…だと!?本物より女子らしいじゃないか!
「しかして、その実態は!………この国の…王太子、エルサール=ビルドだ!!」
「ええええええええ!?」
びっくりするイオリアたん。護衛の人たちが薔薇を撒いてます。お疲れ様です。なんかイラついてるみたいだから後でルイスにもらったおやつでも分けてあげよう。
「…知らなかったのか?」
「知ってたんですか!?」
イオリアたん、天然。そんなところも素敵。
「…わりと公然の秘密だった。あいつ、脱ぐとゴツいし」
困った様子のアイザック。しかし、なぜ知っているのだ。女子更衣室を覗いたとか?
「ええええええええ!?な、なんで誰も教えてくれないのですか!?」
イオリアたんイジメられ疑惑発生。イオリアたんが涙目でクラスメイトらしき人達に嘆いた。
『口止めされてました』
皆さん、練習したかを疑うほどにハッキリと声を揃えた返答でした。
「納得しました!」
イオリアたん、納得しちゃった。まあ、権力者による口止めをされてたわけで、クラスメイトが教えられなかったのは仕方ない。つまり、悪いのはお兄ちゃんだな。そんなことを考えていたら、イオリアたんが質問した。
「本物のエルシィ嬢は!?」
ここにいまーす、と手をあげようとしたらルイスに止められた。ですよね。
「エルシィを知ってるのか?あいつなら、かけおちした。貴族の政略結婚なんぞまっぴらだから平民になって苦労するんで勘当してくれと…いっそ潔かった」
いくつかの噂のうちの一つですね。他にもエルシィは結婚したとか性転換して騎士になったとか色々なバージョンがあります。ちらほら真実を混ぜているので、余計にどれが本当かわからなくなっていますよ。
「隠しルート!!」
え?もしやイオリアたんも…??ドジの呪いの正体は、まさか転生者!?
「な、なんてこと……」
ショックで倒れそうになるイオリアたん。そしてイオリアたんを支えるアイザック。
「大丈夫か?」
「…ジャックは…私を好き?」
いや、どう見てもアイザックはイオリアたんが大好きですよ。女の私にまで嫉妬してるもん。
「ああ、いや、愛している。結婚してくれ」
「…………けっこん?」
ぬああ!?まさかのプロポーズ!?やるな、アイザック!!敵ながらあっぱれだ!
「ああ。俺の子供を「だから待てって!イオリア、私と結婚してくれ!私だって君を愛している!このムッツリ助平に負けないぐらい!」
そしてそのプロポーズを
強引に邪魔したお兄ちゃん。いいぞ、もっとやれ!アイザックにイオリアたんはもったいない!!
「………………潰す」
「はっ!出来るもんならやってみろ!いつも私に傷ひとつつけられないくせに。騎士団長の息子のくせに情けない!」
あ、お兄ちゃん、地雷を踏み抜いたわ。それはNGワードなんだよ。多分わざとだな。
「……………ふ……………殺す」
柔らかく微笑んだアイザックは殺気を膨れ上がらせてお兄ちゃんに全力で斬りかかる。
「あわわわわわ!ちょ!マジで挑発しすぎですよ!」
「守る方の身にもなってくださいよ!」
「うわあああん!謝りますから、俺が謝りますから、土下座でも寝下座でも五体投地でもしますから、許してえ!」
護衛の騎士達の方が悲壮感が漂っている。当のお兄ちゃんはすばやく逃げ回っており、当たりそうもない。ちょっとぐらい当たった方が懲りるのではないだろうか…と思わなくもないのだが、アイザックはガチギレなので加勢はしないほうがよさそうだ。下手に動きを止めたらお兄ちゃんが死にかねない。
イオリアたんはそれを眺め、双子を連れて退出した。バカな男達はそれに気がつかず、イオリアたん不在のまま争っている。
「エルシィ、どうする?」
「イオリアたんを追いかけようか」
もう『ゲーム』は終わり、予想外に愉快な『エンディング』だった。私は最後を見届けた。これ以上ここにいる必要はないだろう。
イオリアたんに追いついた私とルイス。
「…エルサール?」
彼女はすぐ私に気がついてくれた。なんかドレスが少し汚れてるから転んだのかな?
「お久しぶりです、イオリア様。一曲だけでもお相手していただきたかったのですが、せめてご挨拶だけでもと思いまして参りました」
「まあ…」
イオリアたんが後ろを振り返る。かすかに楽隊の音楽が聞こえる。
「一曲、踊ってくださいませんか?騎士様」
「喜んで」
どこかイオリアたんは浮かれているようだった。
「私、ちゃんと見ていなかったのだわ」
「見ていなかった?」
「ええ…ゲーム…ええと、予知夢?に囚われて、きちんと見ていなかったの」
やはりイオリアたんは転生者なんだろう。いつか私もエルシィとして彼女ともう一人の私について語りたいものだ。
月光の下で悪役令嬢とヒロインが踊る。いい結末を迎えられたと思う。
「また相談に乗ってくださいましね?」
「もちろんです」
「ところで、そちらの女性は?」
「妻のルイザと申します」
「家事全般が完璧で、綺麗で可愛くて優しくて気が利いて働き者で…最っ高の嫁なんです」
デレデレしながら紹介した。ルイル君がルイザたんの正体に気がついたらしく、笑いたいのと驚愕が混ざった表情をしていた。しかし笑いが勝ったらしくマナーモードになっていた。
背後の人間バイブレータには気がつかず、イオリアたんが話しかけてきた。
「ルイザさん…私とも仲良くしていただけるかしら?」
「え!?あ…えっと……はい」
ルイス…ルイザは戸惑いながらも頷いた。友達が少ないから嬉しいと喜ぶイオリアたん、マジ天使。
そして私たちはそれぞれの家に帰ることになった。
始まりは、ルイスを救いたいという気持ちだった。願った形とは多少違うけど、私とルイスは仲良く平穏に暮らしている。私達の力だけでは、きっとこんな幸せな未来を得ることはできなかった。たくさんの出会いと、助け。皆に感謝しながら、私は日々を過ごしている。
たまにイオリアたんが遊びに来て、ルイスが慌てて女装したりするんだけど…それはまた別のお話。
これにて完結となります。途中更新が停滞した時期もありましたが、最後までお読みくださりありがとうございました。
本編は完結していますが、イオリアとのコラボを予定しております。もう少しだけお付き合いくださいませ。




