初デートとお洋服
いつも通りの朝だが、私は大変挙動不審である。だ、だって昨日はルイスにあんなとこを見られたり、嫁にする発言があったんだもの!ルイスが普通だから余計いたたまれない!
「エルシィ?」
「にゃあに!?大丈夫!生きてるよ!」
「…生きてるのは見てわかるよ。それより、パンにマスタード塗ってるよ?それジャムじゃないよ」
「あ」
ルイス特製マーマレードかと思いきや、マスタードでした。辛いの…多少なら美味しいけど、これは……
「はい」
「え?」
「僕辛いの好きだし、交換」
「ルイス…」
ルイスの優しさに涙目だ。ルイスは私がマスタードを塗りたくったパンにハムとチーズとレタスを挟んで平然と食べていた。
「んー、交換のお礼がほしいな」
ルイスがニッコリ笑った。私は勢いよく立ち上がる。
「何でも言って!伝説級の薬草だろうが素材だろうが、狩ってくるよ!!」
「いや、それも魅力的だけど…別のものが欲しいな」
ルイスは私の手をとって、撫でている。ルイス…お色気がむんむんなんですが!女の私より色気があるってどうなの!?
「に、にゃに?」
動揺して、また噛んだ。ルイスが欲しいなら、何だってあげるよ!
「デートしてほしいな」
「でえと?」
「うん、デート。エルシィと僕の初デート」
照れたように目を伏せるルイス可愛い…ではなく…………
「でぇとぉぉぉ!?」
「うん。急だからスタンダードに買い物デートしよっか。早く食べて、支度してきて」
「うん?」
異論はないけど、いつの間にか行く決定?いや、行くけどね!這ってでも行くけどね!!
そして、クローゼットの前で絶望した。
服がない。
いや、服はある。あるが、デートに着ていける服がない!
私のバカ野郎!ドレスはあるが、着るわけにはいかないし、後は動きやすい男性風のズボンしかないよ!せめて…せめてわかっていたらワンピースぐらい用意…………いや、私の女子力がないからだね。自分磨きを怠った結果がこのクローゼットなんだよ。
寝間着はルイスが買ってくれたから可愛い。しかし、これを着るわけにもいかないし……
「エルシィ、支度できた?」
「ルイスぅ…デート、行けない…」
「なんで泣いてるの!?いや、その前に何か着ようか!」
ルイスが慌ててクローゼットから適当な服をはおらせてくれた。そういや下着でした。とりあえず、ルイスが出した服を着ました。
「ルイスとデートだから、はじめて、だから、可愛くなりたかったのに……着ていける服がないの……うう…」
「……僕はエルシィならどんな服だって可愛いと思うし…僕のためにおめかししたいだなんて、嬉しいな。じゃあ、デート用の服を買いに行こうか」
「ふぇ?」
ルイスがご機嫌だ。素晴らしい笑顔だね。
「僕が服を選んでいいかな?エルシィをとびきり可愛くしてあげる」
「お願いいたします!」
というわけで、いざブティックへ。
「エルシィ?」
「け、結界が…!」
感じる。このセンスよく可愛いブティック…女子力の気配がする!こんな女子力皆無な私では場違いだ!
「何それ…「あ、ルイスさん!今日は納品じゃありませんよね?」
どうやらブティックの店員さんらしい。可愛い女の子だ。やめて、ルイスに触んないで…
「悪いけど、僕の最愛のお姫様をエスコートしてるんだ。馴れ馴れしく触らないで」
ルイスは女の子の手を振り払うと私の腰を抱いた。
「今日は客だから、仕事して」
「はぁい!いやぁん、その冷たい視線、ぞくぞくしちゃう!」
くねくねする女の子。お洒落で可愛いのに、残念な感じがはんぱない。Mなんですか?しかし、聞けないし聞きたくない。
「…商品は、まともだから」
ルイスも微妙な顔をしてました。
「はわぁ………」
商品はまともどころか、憧れの品の巣窟だった。自分に似合うかはさておき、可愛いものがたっくさん!宝の山だね!
「スゴいね、素敵な服やアクセサリーが沢山だね!」
ルイスに微笑みかけたら、ルイスはいなかった。あれ?ルイスさん??
「はい。これとこれとこれとこれ。試着して」
「え?」
どれも可愛らしい服ばかりだ。私が着るべきではない気もするが……
「早く着て。僕、次選んでるから」
ルイスが職人の目をしていました。本気と書いて、マジな目です。彼は本気で私に似合うワンピースを選ぶ気です。
「はい!師匠!!」
私は素直にルイスへ敬礼して、ただひたすらに脱いで、着て、見せるを繰り返しました。
「うん、これ裾にリボンつけて。色はこれ」
「へい!かしこまりました!」
すかさずリボンを縫いつける店員さん。
「これは…襟にレースがほしい。花モチーフのレースがあったよね。うん、これつけて」
「へい!かしこまりました!」
素早くレースを縫いつける店員さん。
「こっちは色ちがいあったよね?それと揃いのリボン。そうそれ」
もはやどっちが店員さんですか?やはりルイスの女子力は高い。ワンピースは魔法みたいに可愛らしくアレンジされて仕上がっていく。
「うん、やっぱりこれが似合うなぁ」
ルイスがそう言ったのは、お花みたいなピンクのふわふわワンピース。確かに可愛らしいし、ピンクブロンドの髪をした私にはよく似合うだろう。自分でもこれが似合うと思う。
「あの…ルイス」
「ん?」
「わ、私…青とか藍色がいい」
ルイスが選んだワンピースは嬉しい。可愛いと思う。だが、せっかくのデートだからこそ…私はルイスに希望を告げた。ルイスは苦笑した。
「好みじゃない?」
「ううん、すごく可愛い、けど………」
い、言いにくい!この乙女思考を伝えねばならんのか…!?
「んもう、野暮ですよぅ!ルイスさんたら!恋人の瞳の色がいいっておねだりですよ!ほらほらぁ、応えたげなきゃ男が廃りますよぅ!」
「こい………!!?え、エルシィごめんね!今すぐ選ぶ…いや作る!!エルシィを可愛くする最高の青いワンピース!!エメルダ!布!青いの全部持って来い!!」
「へい!かしこまりました!」
ニヤニヤしながらルイスの背中を叩いた店員さんことエメルダさんは、すぐに大量の青い布とレースやリボンを持ってきた。
この辺りでは男女が互いの瞳の色の服を着る=恋人同士で熱々ですアピールとなる。ルイスは今日、たまたま私の瞳と同じ翡翠色のシャツを着ている。
ルイスは銀髪に深い海の底みたいなサファイアカラーの瞳をしていから、初デートには青い…彼の瞳の色のワンピースが着たかったのだ。ごっこでもいい。ルイスの隣に恋人として立ちたかった。
そして、ルイスが真っ赤になりつつミシン魔具で縫いだしたので、店員さんことエメルダさんとお茶しつつまったりお話をした。
ルイスはここに自作の服を何点も納品していて、新進気鋭の新人デザイナーとして大人気なのだとか。
「大好きなお姫様のためにルイスさんは作ってるらしいですよぅ。確かにどれもお似合いですよねぇ」
エメルダさんはニンマリと…チェシャネコみたいに笑う。
「もしそうなら…嬉しいです」
さっきもそういえば『最愛のお姫様』と言ってくれていた。頬が熱い。本当に嬉しい。
「きゃ…」
「きゃ?」
「きゃんわいぃ~!!」
「わ!」
エメルダさんに勢いよく抱きつかれたが、鍛えているので危なげなく抱きとめることができた。
「何してるの。エルシィ、これ着て」
それは、ルイスの瞳を思わせる青いワンピースだった。ルイスはエメルダさんを私から引き離すとワンピースを渡してくれた。
「うん!」
私は素早くワンピースに着替えた。白いレースが上品で、とても可愛らしい。
「どうかな?」
「可愛いよ、エルシィ」
「いやぁ、お熱いねぇ。支払いどうします~?」
「こないだの支払いから天引きで」
「かしこまりました~」
「いや、自分で……」
「エルシィはよく僕にプレゼントするじゃない。僕…やっと稼げるようになったからエルシィにプレゼント……したい」
「………ありがたく受けとります!」
涙目のルイスに敵うはずもなく、服は全てプレゼントになりました。とりあえず、大容量鞄に全部詰めました。
「そういや、ルイスってあの店に作った服納品してるんでしょ?」
「う…エメルダか」
「うん。流石はルイスだね!どれも可愛いよ!このワンピースも魔法みたいに作っちゃうし!」
誉めたのにルイスは微妙な表情だ。いや、不安げ?
「…気持ち悪くない?」
「何が?」
「男がこんな可愛いもの作るとか」
「??うん。スゴいよね!ルイス!」
よくわからなかったので、ニッコリとルイスに微笑んだ。今着てるワンピースもあっという間に作っちゃうし、やっぱりルイスはスゴいよね!
「…実は、家にエルシィに着せたい服がたくさんあるんだけど…」
「わあ、嬉しい!ルイスが作ったやつ?」
「……………うん」
「全部着るね!」
「エルシィ、ありがとう」
「え?私こそ、素敵なお洋服をたくさんありがとう!」
ルイスがようやく笑ってくれた。いや、貰うのは私だよ?
「うあぁ…羨ましイィ!」
「あ、エメルダ、メイクボックスとアクセ合いそうなの見つくろって」
「へい!かしこまりました!」
ダッシュで奥からメイクボックスとアクセを持ってくるエメルダさん。二人の関係は色気があるものではないというのは解ったが、微妙な………女王様と下僕みたいだと思ってしまった。
デートはまだまだ続きます。
補足情報。針仕事は基本女性の仕事です。
エルシィに刺繍をもらってから、可愛いものを自作していたら兄にキモいと言われたルイス君。兄はひたすら渡せもしないのにエルシィへ作り続けるルイスがキモかったのですが、ルイスは男が可愛いものを自作=キモいと言われると思いました。
だからエルシィにキモいと言われたら…と不安だったルイス君。エルシィはルイス=嫁イメージだから、むしろルイスってスゴいよねとしか思いませんでした。今後、ある意味深すぎる彼の愛(たまりまくった可愛い品)に驚くでしょう。