ルイスのエルシィ防衛作戦
かっこよく宣言したルイスにうっとりしていたら、キールが余計なことを言ってきた。
「ヒルシュもエルシィも…なんて難易度が高すぎませんか?普通に考えて無理でしょう?」
「僕一人なら、ね。今後もエルシィを狙う馬鹿は出てくると思う。だから、協力してもらうんだ。僕だけでできるとは思ってないよ。今回の敵は、エルシィが聖剣を持った伯爵令嬢だってことしか知らなかった。こちらが与える情報はそれでいい。エルシィには冒険者をやめてもらう」
「おい!」
ギルマスがそれは横暴だろうとルイスにつかみかかろうとした。
「ギルドマスター、ルイスは私の嫌がることをしたりしない。つまり『エルシィ』じゃなきゃいいんだよね?」
「そうだよ」
冒険者の中には偽名登録制度がある。犯罪者の隠れ蓑にならないために厳しい条件があるが、私は身元もしっかりしているし、ギルドへの貢献度、所属年数も問題ない。犯罪歴もなく、使用条件に該当するだろう。
ちなみにこの制度の利用者は、大半が貴族で名を知られたくない人達。身近なとこだと国王陛下辺りだ。
「名前を変えて、男装してもらうだけだよ」
普通、伯爵令嬢は冒険者なんかしない。それだけでエルシィが冒険者である事実は一部の地元民しか知らないことになるだろう。
「…なるほど。でもそれだけじゃ不十分ですよね?」
「ええ。ですから、冒険者ギルドに提案します。すべてのSランク冒険者に僕の武器防具を支給します」
「は!?」
「以前から要請はあったんですよ。商人ギルドを通して、冒険者ギルドのグランドマスターからね。無視してましたけど」
「はああ!??」
聞いてないと叫ぶギルマス。言ってないしねぇ。グランドマスターは冒険者ギルドのトップなじいさま。たまーにうちに来るんだよ。厄介事しか持ってこないから、ルイスに毛虫のごとく嫌われてるけども。私は毎回美味しいおやつを手土産にくれるのでわりと好き。
「…そうすれば、エルシィさんへの負担は減りますね」
キールは同意した。つまりSランクが強化されることで、私しかできない依頼が減るわけだ。
「ついでに通信魔具も冒険者ギルドに寄付するよ。近隣の村にも配布できるよう余分に作ってる。流石にうちの国外には色々とまずいから出せないけど、国内の連絡がスムーズになるはずだ。条件付きなら他国の冒険者ギルドに出してもいい」
「な、なるほど…」
ギルマスも納得している。ギルドの連絡は、定時に通信術師が連絡するしかなかった。受ける側とかける側が同時にいないと通信魔法は成立しないというのが常識だったのだ。
ちなみにルイスの魔具はほぼ携帯電話のように好きなときにかけられるものだし術師でなくとも使用可能なので、ルイスの魔具が普及すれば連絡がスムーズになるのは間違いない。
さらに、高ランク冒険者の位置を把握しやすくなり、わざわざ遠くにいる私を呼ぶ必要もなくなるだろう。
「それから、商人ギルドとも契約するよ。僕が作った録画の魔具を売る。その特許から出る利益を、エルシィを探そうとする馬鹿の情報料にあてる。商人ギルドと永続契約するよ」
「………二大ギルドをおさえておけば、少なくとも今回みたいなことは起きませんね。流石です。これならば実現も可能でしょう」
「ありがとう。それから、皆にお願いがあるんだけど」
ルイスは穏やかに笑っていたが、その瞳はまるで獲物を前にした狩人のようだった。
「この話は『ここだけの話』だからね。他言無用でよろしく。情報漏洩しやがったやつは、僕が不幸にするから」
「具体的に何をするか伝えない辺りが逆に恐ろしいですね」
「俺は言いませんよ!」
キールとグリッド君の温度差がすごい。ルイスの恐ろしさを知っている冒険者達は頷いた。
そして、この日を境に不思議な噂が出るようになる。
『エルシィ=ヒルシュに関わると不幸になる』
『エルシィ=ヒルシュについて尋ねてはいけない』
『エルシィ=ヒルシュに関わったばかりに、国が滅んだ』
地味にホラーな気配がして、マチさんに愚痴ったのだが…
「ルイス君の重たい愛の結果だから仕方ないんじゃな~い?むしろ、そっちがホラーっしょ!」
「…………………」
別にホラーじゃないやいと言いたかったが、鉈を研ぐ姿が脳裏に浮かんで微妙に否定できなかった。




