旗は立っていた
とりあえずシルスの拘束を解いて傷の手当てをすることにした。
「あれ?傷は薄皮だけだね」
出血があったが、よく見たらにじむ程度でどれも傷が浅い。
「伊達に鍛えてないわ。魔封じされてても強化と治癒は使えるからな。素人の鞭程度で重症になるわけないだろ。傷つかないと怪しまれるから表面の傷はそのままにしてたんだ」
「なるほど」
魔封じは魔力放出ができなくなるだけ。案外その事実を知らない人間は多い。放出ができないだけだから、体内でなら使用可能。身体能力強化や自分への治癒はできるのだ。
傷口を洗ってルイスの薬で癒し、魔封じを破壊した。魔具って脆いよね~。魔封じは首輪だったので、引きちぎりました。ベルトタイプだから簡単。
「…お前、本当に馬鹿力だな」
「いや、これが脆いんだよ」
「………」
シルスが不満そうだったが、そこはどうでもいい。互いの情報を交換することにした。
シルスによれば、やはりルイスと間違われたらしい。ただ、ルイスが狙われては困るし私と同じく町の住人を人質にとられて捕まらざるをえなかったそうだ。捕まりながらもシルスは情報収集していた。
先程から床に転げているのがこの国の王太子で私を神聖視している。どうも私が冒険者をやっていたあたりは知らず、貴族のお姫様だと思っているようだとのこと。まぁ、そこら辺は言いふらしてないから貴族のエルシィと冒険者のエルシィはたまたま同じ名前だと考える人間も少なくない。普通、貴族令嬢は箱入り娘だ。むしろ地元以外では私が貴族だと知る人間はほぼいない。なので、知らない可能性は非常に高い。だから拘束もなく過ごせていたのだろう。なめられてるのかとイラッとしていたが、知らなかったのなら納得だ。
王太子は私を妻にするつもりだったが、あまりにも靡かないのでシルスに怒りをぶつけていたらしい。
「ご、ごめん…」
「いや、エルシィの対応が正解だ。どうも王太子は会話した相手に干渉する天啓を持ってるっぽい。何回かあいつに意見した人間が操られたみたいになってたのを見た」
おおぅ…よかった…。だから執拗に会話させようとしていたのかな?しかし、そんな描写は…あったかも。うろ覚えだけど…バッドエンドで操られてたかもしんない。あ、危なかった!
「ここも一枚岩じゃないみたいだな。仮にもエルシィは王族の血をひく貴族の娘だ。国際問題は免れない。諌める人材が複数いたぞ」
「いなかったら、国としてまずいよね」
シルスが頷く。そういった人材…まともな人間がいるのはありがたい。ふむ、どうしてくれようか。いくつか思案したが、力押し過ぎると却下された。むかつくから暴れたいのだが、戦争になったらどーすんだと言われれば、口をつぐむしかない。戦争なんて弱いものが泣くだけ。百害あって一利なしってやつだ。
結局、自力で帰還して正式に抗議がベターかな。お兄ちゃんに色々色々と搾り取っていただこうという結論に至った。脱出しようとした所で、愛しい人の声がした。
『エルシィを、僕のエルシィを返せえええええ!!』
そういえば『聖女誘拐』イベントは、好感度が一番高いキャラが助けに来るんだよね~。私の好感度が一番高いキャラですか?そんなのルイスに決まっているじゃないですか、やだー。
私が拐われたら、ルイスがガチギレするに決まってるよね!
「エルシィ…ルイスを止めろ。ルイスが本気になれば…この国が死の大地になりかねない」
「……が、がんばる……」
どうやってマイダーリンの怒りを鎮めようか思案していたら、更に声がした。
『エリューシオン王都は、ヒルシュ軍と魔王軍が完全に包囲した!命が惜しければ、エルシィ…聖女を返せ!!』
え、うちの部隊はともかく魔王軍が来てるの?ナニを連れてきちゃったのおお!??
『ルイス落ち着け……あー、私は魔王…元魔王である。聖女エルシィ=ヒルシュをビルド国へ返還せよ。さもなくば…王都は焦土と化すだろう。余計な仕事をしこたま増やしやがって…むしろ返還しなくていいわ!貴様ら全員まとめて滅ぼしてくれる!貴様らが汚い手段を用いてエルシィを拐ったせいで、魔族はこの国を滅ぼしたいと望む輩ばかりだ……この俺も含めてな。あれは魔王すらも倒した女。姑息な手段で負かされたなど、あってはならぬ!!愚かな人間どもよ、死でその罪を償うがよいわ!!』
「「…………………」」
いやんマオ君、魔王らしい…じゃなかった、本末転倒もいいところだよ!落ち着けとか言っといて、君もガチでキレているじゃないか!
「ど、どうしよう…」
ルイスだけならともかく、魔族全員の怒りも鎮めるとかなんも思いつかないよ!
「うん…どうしようか。こんなことなら下手に探ろうとせずにさっさとエルシィを回収して逃げればよかった!」
「私もだよ!大暴れしてシルスをとっとと回収すればよかったよ!!」
しかし、後悔先に立たず。私のせいで罪もないエリューシオンの民がウルトラ激ピンチです。荷担した輩はどうでもいいけど、マジでどうしよう!!
『私にも喋らせてくれ。うちの娘を拐いやがった馬鹿野郎に告ぐ。ただちに投降せよ。いや、投降すんな。皆殺しにしてやる。うちのエルシィに手ぇ出して、五体満足でいられると思うなよ!?地獄をみせてやらあああああ!!』
『どこまでもついて行きます!!』
『うちの姫さんと町に害を及ぼそうとした馬鹿を許すな!!』
『ぶっ壊せええええ!!』
あかん。打開策が浮かばない。皆様荒ぶっていらっしゃる!!
間違いなくオーバーキル!まさか、敵の心配をしなきゃならないなんて…いや、もう本気でどうしよう!!
『はっはっは、落ち着きたまえ。無関係な民もいる。いきなり蹂躙するのでは、無関係な者達が可哀想だろう』
「お兄ちゃん…」
「よかった、王太子殿下はまだ話が通じそうだな」
『…うちの可愛い妹を拐ったのだ。楽に殺すなど、ぬるい』
「おにいちゃあああん!?」
「殿下、エルシィを可愛がってるもんなぁ。しかたねぇか。俺はエルシィがひどい扱いされてないのを知ってたからまだ冷静だが…『兄』なら可愛い『妹』に手を出されりゃ、キレて当然、か」
シルスは埃を払うと立ち上がった。
「とりあえず、ここに居てもしかたねぇ。ここを出てから考えるぞ。俺らはどーせ、考えるのは向いてねぇんだ。俺の荷物も取り返さなきゃな」
「うん、行こう!」
こうして、私達は牢を後にしたのだった。




