やっぱり補正……なの?
マリオット君に案内されるがままに校内を歩く。マチさんの弟であるマリオット君は親切で、ついでに施設案内までしてくれた。
そうなれば、やはり会ってしまうもの。つうか訓練所に来た時点で会うだろうなとは思っていたよ。
「あれ?珍しいな、マリオット!」
このゲーム、隠しキャラであるシルスとアイザック以外はペアでの攻略となる。さきほどカリスマシャワーでノックアウトしたレイサークとお兄ちゃんがペア。マリオットのペアはこちらに駆け寄る爽やかわんこ騎士見習いのジーン=ナインティである。彼らは幼馴染みで仲良しだ。騎士見習いだが私と面識はない。私は奴が来る前に辞めたからね。
「ジーン、ええと…姉の知り合いを案内していたんだ」
「へー。なあなあ、あんた、騎士見習いだろ?俺と手合わせしない?」
「え」
高位貴族の護衛ならば強かろうとの判断だろうが、できるわけがない。魔法ありなら勝つだろうが、魔法しか使えない魔法騎士などありえないし。剣なんて包丁しか扱っていないから、ルイスが出れば彼は騎士見習いではなくもやしっこであるとバレてしまう。
「私が相手になろう」
エンディングで剣聖にまでのぼりつめる若き天才騎士見習い、それがジーンだ。どの程度の実力か楽しみだ。
ルイスが騎士見習いじゃないとバレても面倒だしね。
「え?」
ジーンは明らかに狼狽した。
「心配せずとも怪我をさせられたと泣きわめいたりするような馬鹿じゃない。私はそれなりに強いから、彼より楽しめると思うよ」
「よっしゃ!お願いします!!おーい、場所開けて!試合するぞ!!」
注目されているような…ま、まぁいいか。
「お兄さん、そんなビラビラした服で戦えんの?」
「問題ない。逆にいいハンデだろう」
聖剣無しでビラビラ服でも、騎士見習い程度には負けませんから!
獲物はお互いスタンダードなロングソードです。
「すげー自信。いいね、楽しませてくれよ」
自分が優位だと確信したお馬鹿な犬をベッコベコにしてらろうじゃないか。
「ああ、全力で楽しんでくれ」
当然、一方的な試合である。相手は『いずれ』剣聖になる逸材なのであって、今はクソ生意気な騎士見習いにすぎない。聖剣なしでビラビラ服というハンデがあっても、仮にも勇者と呼ばれる私に敵うはずがないのであ~る。
速さも、威力も、スタミナも違う。それに何より、戦闘経験が桁違いだ。
所詮、騎士見習いと言っても実践経験は数えるほど。そんなヒヨッコを指導してあげた。
「どうしたんだい?楽しくなさそうだね」
「はぁっ…くそっ…まいりました……」
体力が尽きたらしく、ジーンは倒れた。
「ふむ。剣筋は悪くないが、スタミナに課題が残るな。特に下半身を強化するといいだろう。踏み込みが甘かった」
「ありがとうございました……」
「それから、人は見た目によらないんだよ」
「そっすね…まさかこんな美人がこんな強いとは思いませんでした。正直なめてました…」
だろうねぇ。貴族のボンボンと遊んでやっかって感じだったもんな。相手によってはキレるから、そこは隠そうね。
「おじ…いや、師匠!なにしてんですか!!」
「あ」
ヒルシュ領から送り出した奨学生のビット君が駆け寄ってきた。変装してるから『お嬢』と呼びかけて修正したようだ。空気が読める子だよね、君は。多分太刀筋でバレたんだろうなぁ。
「え!?ビットのお師匠様!??」
あやや?なんか周囲がめっちゃざわめいてるよ??
「師匠というか…教官だったというか……」
正解はヒルシュ領の鬼教官でした。しかし、言えないのでしどろもどろです。つっこまれるとボロが出るから、私はさっさと話題を切り替えた。
「元気そうだね。勉強、頑張ってるかい?」
「はい!俺、絶対お…師匠の役に立てるようになりますから!トレーニングはもの足りないですが、戦略や魔法学をしっかり学べる場はヒルシュにはありませんでしたから、とても勉強になります!」
「期待しているよ」
「はい!」
うちの子はおりこうさんだわぁ。他の騎士見習いが言うには、ビット君は騎士見習いの中で突出した実力者なんだそうだ。
「ヒルシュじゃ中の上でしたから、不思議です…」
まあ、ヒルシュ(うち)はエルシィブートキャンプ…別名死の演習をやってるからね。常に危機にさらされた実戦だらけの領地で中の上なら、こっちじゃ上の上だろうな。
「実戦経験からして違うから、当然だよ。王都は聖女の結界もあって、すごく平和だからね」
「なるほど…」
「しかも、貴族の師弟がいるのに危険な演習を何回もはできない。距離もあるし、リスクも大きすぎる」
「なるほど…」
ちなみに、エルシィブートキャンプは自己責任だから、死者は出さないけどたまに怪我人は出る。怪我人はエルシィさんの言うことを聞かなかった馬鹿です。お馬鹿が怪我をするのです。
あれ?そういや、ゲームだと騎士見習いで一番強いのって私の入学時点ですでにジーンだった気が…
「弟子にしてください!!」
あ、あれ??いやいや、私はエレガントでゴージャスなお兄ちゃん!慌てず騒がず、カリスマシャワーですよ!
「いや、それはできない…が、君には見込みがある。いつか強い騎士となって私の…いや、この国の助けとなってくれると、信じているよ」
くらえ!カリスマシャワー、ライト多め!!
「………はい!必ず!!必ず強くなって、貴方にお仕えします!!」
こうかはばつぐんだ!!ジーンの忠誠度がMAXになった…なんちゃって。
「楽しみにしているよ」
そして颯爽と去る私。今気がついたよ…これ、お兄ちゃんとジーンのイベントだよね?ジーンの回想シーンで見たよ。
よく考えたら、レイサークのも。カリスマシャワーこそしてなかったものの、大筋は同じだった。これ、補正なの?
「エルサール様、いいのですか?ご身分を隠したままで」
「ああ。身分を明かせば彼を罰さねばならなくなる。これでいい。彼は強い騎士になるさ」
「エルサール様、カッコいい……」
中身は残念系筋肉女子です。サーセン!!マジサーセン!!
「エルシィは本当にどこにいっちゃうのかなぁ……」
「え?……ルイスの嫁」
マリオット君には聞こえないようにルイスに囁いた。
「も、もう…そういう意味じゃないったら………」
と言いつつまんざらでもないご様子でクネクネするマイダーリンでした。




