魔王達と残念な側近
おやつのいい匂いがしてきて、今日は何かな~とワクワクしつつ薪割りをしていたら、空から客が来ました。
「エルシィ!お前のせいだから愚痴らせろ!」
「…まあ、いいけど」
魔王(名前が長いから本名忘れた)のマオ君と側近のクール美人(やっぱり名前が長いから本名忘れた)が遊びに来ました。
「ルイス、お客さんが来たー」
「すいません、お茶もコーヒーも切らしてて…シチューでもどうぞ」
あれ?ジュースと牛乳とか…お茶は昨日買ってきてなかったかな?
「いや、結構だ」
「丁度空腹だった。いただこう」
顔をひきつらせるマオ君(常識人いや…常識魔族?)
真顔でシチューを平然とすするクール美人(非常識人…いや、魔族?)
シチューは飲み物じゃないと、流石の私も思います。
「ふふふふふふ」
「はははははは」
何やら空気が寒いです。目が笑ってません。ルイス、歓迎じゃなく寒迎になってる。いかん、思考まで寒くなってきた。
「お茶…ルイスのお茶…飲みたかった」
温かいルイスのお茶が飲みたくてぽつりと呟いたら、ルイスが反応した。ルイスのお茶は苦味にほんのり甘味があり、絶品なのです。同じ茶葉なのに私が淹れると…うん、しくじるんだよ。
「あ!昨日茶葉買ってたよ!エルシィ、すぐ淹れてあげるね!」
「わーい。ルイスのお茶は世界一なんだよ。私がやるとヘドロになるのに、不思議だよね」
「「………………」」
マオ君はひきつり、ルイスはとても沈痛な表情になった。
「それは珍しい。飲んでみたいのですが」
変人美形は剛の者でした。
私が言うのもなんだが、好奇心は時に身を滅ぼすぞ?お残しは許しまへんで~。
「やめとけ」
「愛があっても難しいよ?見た目はもちろん味もスゴいから」
「…しないもん」
なんとなくけなされているのはわかりました。でも、拗ねた私を気遣うルイスに教わり、普通に苦いお茶は淹れられるようになりました。口直しにルイスのクッキーもあるから、普通に飲めます。
「…普通に苦いな」
「面白味がないですね」
「普通が1番ですよ」
「ルイス、ありがとう!普通って素晴らしい!」
最初は茶器を魔法で熱しすぎて溶かしちゃったり、茶葉を煮すぎてヘドロにしたり、お茶に魂が宿ったり…色々あったけど普通にできた!ルイスはすごいなぁ。
※魔法を使わせず、薪で火をおこしてお湯を沸かしただけです。
まったりしたところで、マオ君がいつものごとく愚痴りました。
「魔族幹部が不穏な動きをしててな。勇者に抗おうとしない腰抜けだとか言いやがって!!」
「ま、正直なとこ実態を知らない無能がわめきたててまして。わめくだけならよいのですが、万が一勇者様にちょっかいを出して返り討ちにあったあげく、呪いが発動したらすごく面白……面倒……目もあてられないので念のため知らせに参りました」
変人美形よ、本音がめっちゃチラチラしてたよ。面白そうだけどマオ君が働けないと面倒だと。
しかしそうか…確かにあの時魔王城に居たのはあくまでも一部の魔族だ。
「…じゃあ、説得しようか」
「いいのか?」
「うん。ルイスと私の安全のためだし、呪いが発動したらかわいそうだし」
「……なら解いてくれよ」
「やだ」
そこまで信用してないからね。マオ君もそこは解ってるらしく、ですよね~と何故か敬語でした。
「エルシィ…」
「大丈夫!最悪皆殺しにするから!!」
心配そうなルイスに、にっこりと笑った。
「うん。油断せず、キッチリ皆殺しにするんだよ?怪我もしたらダメだからね」
「んー、気をつける」
しかし、まったく無傷は難しいかしら…と考えていたら、マオ君が慌てて話を遮った。
「待て!それ俺達があぶなぁぁぁい!!」
「あっはっは」
「そしてなんでお前は他人事なんだよ!」
変人美形につっこむマオ君。
「全力で命乞いしますから、死なない自信があります!」
「馬鹿野郎!ちゃんと国民も守れよ!皆殺しを容認すんなああああ!」
キリッとした変人美形の残念な返事に、マオ君の悲しい叫びがこだました。
ちなみに、マオ君はマオリュートリアマナルフィード
変人美形はヘルビーナスキュリアンナスという名前です。
まだ日付が変わらないので成果は次回になります。