うちの嫁のスペックが高すぎる件
とりあえず近場でそれなりに暴れられそうなやつ…と依頼を眺めていると、声をかけられた。
「あ、あの!」
装備の新しさからして、新米冒険者らしい。同じぐらいの年齢の少年2人に少女が2人。緊張した様子だ。
「あー、そういや頼まれてたっけか…エルシィ、指名依頼だ。新人指導してやれ」
「…んー?まぁいいけど」
低ランク向けの討伐依頼を剥がした。
「これ、行ける?」
私に声をかけたリーダーらしき少年に渡すと、彼は嬉しそうにうなずいた。
高ランクの冒険者は低ランクの冒険者に新人指導の依頼をされる事がある。ギルドが信頼できる高ランクの冒険者に依頼する形だ。このギルドだと、私やシルスがよく頼まれる。理由は金に困ってないし、知識を与えることを惜しまないから。金に困っている冒険者は後輩を食い物にする危険があるから頼めない。ライバルを増やしたくない奴は教えたがらない。
そんな中でシルスは下位貴族だけどそれなりに裕福で冒険者は趣味みたいなもんだし、面倒見がいいから適任だ。私はまぁ、それなりかな?だが、たまに指名依頼をされるから、指導員としての評判は悪くないんじゃないかと思っている。
「じゃ、行きますか」
「エルシィ、新装備の具合を見たいから僕も行くよ」
あら、珍しい。まあ低ランクの依頼だから危険度は低いし問題はないだろう。
「うん。わかった」
こうして、新人パーティとルイスで依頼をこなすことになった。依頼内容はクレイジーボアの討伐。美味しいんだよねぇ、焼くと。焼き肉食べたいなぁ。
歩くこと1時間。新人パーティは案外悪くない。期待の新人なのだろう。無駄口もなく、きちんと警戒しながら森を進んでいる。ちょいちょい注意すべき動植物を解説しながら歩いていた。
ルイスのペースが落ちてきたので、片手で抱き上げる。
「きゃあ!?ちょ、エルシィ!?」
「苦情は受け付けない。このままだと、発作起こすから」
ルイスの病気は完治したが、体力が低下すれば発作が出る。そうなれば足手まといだとルイスも理解しているので、大人しく私に片手抱っこされていた。
「さて、君もだね」
「きゃあ!?」
恐らく攻撃魔法の使い手である少女を反対の手で担いだ。
「だ、大丈夫です!」
「嘘はダメ」
「…う」
「休憩してもいいけど、できたら日暮れまでに戻りたいから効率重視で担がれて。仲間に担げる余力がありそうな人材もいないし、いざって時に使えないとか話にならない。持久力は必須だよ。自分の限界を見極めて仲間に休憩を求めることも、生存率を上げるうえで重要だ」
「…はい」
他の子も頷いていた。
「すいません、リーダーである僕が気にかけるべきでした」
「まぁ、言いやすい環境も大事だけど、そこはやはり自己申告かな」
「はい…。リックは悪くないわ。持久力をつけるし…ちゃんと自分から辛ければ言う」
「そうね、貴女はいつも無理するから」
私に担がれていない回復特化らしき女の子が苦笑した。
「貴女も回復魔法で疲労を誤魔化してるでしょ?あまり使わない方がいいよ。筋肉がつきにくくなるし、移動で魔力を使いきったら意味ない」
「……は、はい」
バレてないと思ったんだろうな。気まずそうにしている。
冒険者にとって、移動は必須だ。依頼をこなすにも逃げるにも、持久力はあった方がいいに決まっているし、歩かねばならない時がほとんどだ。
黙々と歩くことさらに1時間。目的の狩り場に近くなってきたので休憩することにした。
「休憩しようか」
「任せて!」
ここで、私の嫁がその真価を発揮した。
テキパキと敷物とクッションを取り出して私達を座らせ、手際よくかまどを作り、お茶と軽食を準備した。匂いは風魔法で拡散されている。皆あまりの手際よさに呆然としている。手伝いを申し出る隙もなかった。無駄のない洗練された動きだ。魔法により時短調理された出来立てスープと焼きたての簡易パンをほおばる。
簡易パンはルイス特製ホットケーキミックスを使ってタネを作り、フランクフルトサイズに成形して枝に刺し、火で炙る。表面はカリッと。中はもちもち。蜂蜜をつけても美味。無くてもほんのり甘くておいしいのだ!
スープはルイスの時短魔法で柔らかくなるまで煮込まれた野菜たっぷり、角切りベーコンたっぷりの具だくさんスープ。ベーコンは食べごたえがあり、野菜は甘い。キャベツ、ニンジン、玉ねぎ…私はお野菜も大好きだ。いや、ルイスが作るならなんでも大好きだ!ゲテモノだろうが食べてみせるよ!
「幸せ…」
あたたかい出来立てご飯は幸せの塊だ。皆表情がほころんでいる。あ、さりげなく疲労回復の薬草が入ってるな。流石はルイス。
「あの」
「ん~?」
「エルシィさんはなんで冒険者になったんですか?」
「ああ」
これ、よく聞かれる。答えはいつも同じだ。
「強くなりたかったから。いざって時にルイスを守れる強さがほしかった。訓練だけじゃ足りなくて、実戦をする必要を感じて冒険者になった」
「…じゃあ、ルイスさんのために冒険者に?」
「そうとも言う」
実は、そうとしか言わない。ルイスの死亡フラグ回避のため、強くなる手段として冒険者を選んだだけ。
「エルシィ、疲れてない?」
「大丈夫。鍛えてるし、ルイスの特製スープのおかげで回復した」
『え?』
全員キョトンとしている。そっか。もしかして、わからなかったのかな?
「ルイスが料理に疲労回復の薬草を入れて、さらに調理スキルで効果を高めてくれたんだよ。疲れがとれてるでしょ?」
「…確かに」
「言われてみれば…」
彼らは自分の体を確認していた。ルイスはすごいのだよ!
「ルイスは術師としてとっても優秀なんだよ。調理だけじゃなく、調合と裁縫と錬金のスキル持ちなんだ」
「…すげ…」
「エルシィを支えたくて、彼女を喜ばせたくて覚えたんだ」
微笑むルイス、マジ天使過ぎる。
「ルイスのアイテムに何度命を救われたかわかんないわ……」
ルイスが持たせてくれていた装備やらアイテム。ぶっちゃけ、私だけでなくパーティや領民も救うことがあった。
「私はヒルシュで戦姫とか勇者と呼ばれてるけど、支えてくれたルイスがいてこそだった。ルイスは影の勇者様なのかも」
「や、やめてよ!僕はただエルシィに喜んでほしかっただけだから!」
「いや、冗談でもお世辞でもないよ。1回パーティ全滅しかけた時、ルイスの強化薬が無かったらヤバかったもん。流石にフルプレートの男4人を担いで逃げるのは大変だったよ。私以外瀕死の重症だったけど、ルイスの薬のおかげで死者ゼロだったんだよ」
あれはマジで死ぬかと思いましたよ、うん。エルシィ死ぬかと思ったランキング、ベスト5に入るヤバさでした。
「…どっちもスゲーっすよ」
「うん」
「エルシィさんとルイスさんはお似合いです」
「二人あわせて最強なんですね…」
何故か新人達が遠い目をしていた。でも、お似合いですと言われてかなり嬉しかった。




